二つ名の傭兵3
「どりゃ!」
「ぶえっ!?」
フィオスまとい剣で相手の頭を殴りつける。
切れないから殺しにくいとはいっても、金属の塊で殴られればすごく痛い。
鈍い音が響いて、相手が潰れたカエルのような声を出してもなんら不思議なものではない。
当たりどころが悪ければ死んでしまう可能性はあるが、戦いの最中に絶対死なないように戦うなんておよそ不可能なことなことであるのでしょうがない。
「……なんというか、暗殺者っぽくないな」
見た目的にもそうだが、戦い方も暗殺者のような感じがしない。
それになんだか悲壮感のようなものも感じる。
「キリエェェェェ!」
割とおじさんな襲撃者がキリエに斬りかかる。
キリエは相手の槍をかわして、剣の腹でおじさんの頬を殴り飛ばす。
殺さない戦いもうまいものである。
「会長!」
「おっ、交代だ!」
エニに治してもらったユディットが来たので、ジケは下がる。
一緒に戦ってもいいけど、敵の襲撃がこれで終わりとも限らないので状況に余裕を持たせておく。
「あっちは大丈夫そうだな」
キリエとユディットの方は不殺という枷がありながらも、優位に戦いを進めている。
心配はなさそうだった。
「リアーネの方は……」
最初に襲撃してきた男は明らかに手練だった。
リアーネが負けるとも思わないが、試合ではない命をかけた戦いでは何があってもおかしくない。
「はっ!」
「くっ! この怪力女が!」
男の方も大きめの剣を使っているが、リアーネの方は完全に大剣と呼んでもいいようなサイズをしている。
まともにぶつかり合うとリアーネの方が威力は高い。
剣を押し返されて男は思わず悪態をつく。
「へっ! お前が貧弱なだけだろ!」
リアーネの方も比較的優位に戦っているようだ。
だが倒し切れてもいない。
男の実力も油断ならない感じである。
「……あいつらは役に立たねえし……」
男は大きく舌打ちして、キリエとユディットが戦う襲撃者達のことを見る。
十人ほどいた襲撃者はもう半分以下になっている。
完全に制圧されてしまうのも時間の問題。
そうなるとリアーネの方にも助けが来ることになる。
「……はぁ、俺の二つ名を知ってるか?」
「知るわけないだろ? そもそも名前すら知らねえよ」
急に二つ名を問いかけられて、リアーネは眉をひそめる。
だが二つ名どころか、名乗りもしていないのだから普通の名前すら知らない。
どこかでは有名人であっても、ジケたちの中では無名だとしか言いようがない。
「俺の二つ名は……シャドウだ!」
「きゃっ!?」
ダセェ。
リアーネはそう思ったのだけど、男は誇らしげな顔をして手を伸ばした。
次の瞬間、エルオアが小さく悲鳴を上げた。
「なっ……」
エルオアの影が蠢き、触手のように伸びて体に巻き付いている。
「俺は目的を果たせればそれでいい!」
「チッ……! フィオス!」
体に巻き付いた影の触手はあっという間にエルオアの頭まで伸びる。
そして、エルオアは影の中に引き込まれてしまった。
とっさにジケはフィオスをエルオアに投げつけるも、フィオスも影の中に飲まれていった。
「エルオア!」
異常事態に気づいたユディットが叫んだ時にはもうエルオアの姿はなかった。
「あっ! あいつ!」
「はははっ! 怪力女が、覚えとけよ!」
みんながエルオアに視線を向けた隙に、シャドウ男は逃げていた。
逃げ足は速い。
「ん? あっ……!」
そしてジケは気づいた。
エルオアは影に飲み込まれた。
なのにエルオアの影はそのまま残っている。
影もシャドウ男を追いかけるようにして逃げて、不思議な力が魔獣によるものだったと理解した。
「……エルオア!」
「危ない! あなたたちもなぜこんなことに加担しているの!」
油断したユディットに襲撃者が斬りかかり、キリエが守る。
「待ちやがれ!」
リアーネは慌ててシャドウ男を追いかける。
「……あっちを早く終わらせるか!」
残り数人だが襲撃者の方を終わらせねば状況の整理もできない。
リアーネの方は大丈夫だろうと、ジケは襲撃者の方に向かったのだった。




