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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第二十章

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二つ名の傭兵1


 一度襲撃されたものの、その後は順調に進んでいた。

 念のため襲撃者の顔も確認した。


 もしかしたら知り合いや同じ国の者同士で戦ったのではないかと心配していたけれど、キリエたちも知らない人だった。

 秘密裏に育てられた王国の暗殺部隊でもない限り、外部の危ない連中を雇ったのだろう。


「楽しそうね」


「ああ、楽しそうだな」


 ユディットとエルオアの距離はグッと近くなった。

 襲撃までは御者台にジケが逃げていたけれど、いまは御者をするユディットの隣にエルオアが座っている。


 失われた時を埋めるように二人は笑いながら話している。


「これまで気苦労も多かったろう。たまにはこうした時間も良いもんだな」


 いまだに危ない状況なことは変わらない。

 でも周りの警戒などジケの魔力感知でもできるし、そんなに難しく考えることもなかった。


 エルオアの信頼を得るための時間だと考えれば、起こるようなこともない。


「……エニ?」


「何?」


「……いや、何でもない」


 エニは少しユディットとエルオアが羨ましくなった。

 ずっと一緒にいるというところでは、ユディットとエルオアの関係はジケとエニの関係に及ばないだろう。


 ただずっと一緒にいることで、なかなか前に進まないようなところがあるのは否めない。

 対してユディットとエルオアは互いをちょっとだけ知っていて、ちょっとだけ特別な関係で、ちょっとだけ久々に出会った。


 坂道を転がり落ちるボールのように、勢いがついていくとどこまでいくのか分からないものである。

 だからエニはちょっとだけジケに体を寄せた。


 触れるか触れないかの微妙な感じだったけど、触れてしまうことにした。

 ジケはちょっとドギマギしたが、嫌でもないのでそのまま受け入れた。


「あっ!」


「リアーネ?」


「いいだろ、私だって」


 ジケは今リアーネとエニに挟まれる形で座っている。

 リアーネもエニが体を寄せたのに気づいて、同じく自分もジケに寄った。


「……まあいいけど」


 エニとリアーネに挟まれて。

 ちなみにフィオスは膝の上。


「モテモテですね」


 ウーキューとシェルティはジケの様子をニマニマしながら見ている。

 エニとも散々女子トークをしたので、何となく色々察している。


「いいなー」


「私たちだって……ねぇ」


 ただウーキューとシェルティも羨ましくなってきた。


「向こうに着いたら新しく生活が始まりますから、恋愛でも何でも好きにしなさい」


「本当ですか!」


「いいんですか!」


「もちろんよ」


「やったー!」


 これまでは隠れ住む生活だった。

 ウーキューとシェルティに全くそんな話がなかったというわけではなく、いつ逃げるかも分からない上に、相手に自分のことを伝えられないというところから恋愛を避けてきたのだ。


 キリエやエルオアが明確にそんな禁則を課したわけではないが、暗黙の了解みたいなものだったのである。

 だが今回キリエから正式に許可が出た。


 二人は喜びをあらわにする。

 反乱が成功すればエルオアの兄であるトルオアが王となり、反乱に失敗すれば愚王が君臨して遠く逃げたエルオアたちの存在は永遠に闇の中に消える。


 反乱の結果が出るまでは落ち着かないだろうが、その後は一般の人としての人生を送れることだろう。


「キリエさんはどうするんですか?」


「私ですか?」


「もちろんエルオアさんのそばにはいるんでしょうけど……彼女もいつまでもキリエさんの庇護の下というわけにはいかないでしょう?」


 一般人になれば自分で生活していく。

 キリエが守っていくことはこれからも続くのだろう。


 だがエルオアがただのエルオアとしての人生を手に入れたら王族のエルオアと違って、どこまでもついていくことにはならない。

 むしろ一般人が護衛をつけていたらおかしい。


 お役御免にはならなくともキリエの、キリエとしての時間はきっと増えていく。

 ならばキリエ自身もどう過ごすのか考えるべきだろう。


「恋愛はどうですか?」


「もうこの歳よ?」


 キリエは少し困ったように笑った。


「なんでですか? 恋をするのに年齢なんて関係ないですよ」


 キリエも決して若くはない。

 確かに普通に考えた時に恋愛をするのには遅いのかもしれない。


「誰かを好きになるのはいくつでもいいと思います。そして、誰かに好きになってもらうのも……同じだと思います」


 けれども、遅いからといってダメなわけではない。

 ジケは過去で恋少なき人生を送ってきた。


 だからこそ思うのだ。

 いつだって恋していいし、いつだって人を好きになれるはずだと。


「何があったのか忘れなくてもいいと思います。でも前を向いても、いいと思うんです」


 キリエがユディットの父親であるウェドンに特別な思いを抱いていたことは、何となく察している。

 エルオアのことを守るというところで、自分の思いに目を背けてきたのかもしれないが、そろそろそんな思いにも向き合う時なのかもしれない。


「…………そうね。ただ、私は自分の娘のような子がどうなるのか見届けてからかしらね」


 キリエはチラリと馬車の前の方に目を向ける。

 ユディットと話す楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


 エルオアはキリエにとって、もう娘のような存在である。

 ジケの言うように前を向いてもいいのかもしれないけれど、エルオアの存在が大切なことに変わりはない。

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お師匠の隣、空いてますな
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