騎士の背中3
「敵は十人……話し合う気はなさそうだね」
ローブを着て顔を隠した相手は剣やナイフを手に持っている。
どう見たって話し合いに臨む雰囲気ではない。
「少し運動不足だと思ってたところだ」
リアーネはニヤリと笑う。
「ただまだ分からない……おっと!」
「危ない!」
ジケたちはならずものじゃない。
相手が怪しいだけで、ただの一般人な可能性も完全に排除できない。
攻撃してこない以上はこちらから手出しもできないなと思っていた。
だが、暗闇からナイフが飛んできた。
狙いはエニとエルオア。
エニに向けられたナイフはジケが弾き飛ばし、エルオアに飛んできたナイフはユディットが防いだ。
「うん、敵だな。エニ!」
「任せて!」
攻撃されたなら話は変わる。
ただやられるわけにはいかないからこちらからも反撃する。
しかし反撃に出るといっても簡単なことじゃない。
日が落ちて周りはもう暗い。
焚き火の近くにいるジケたちの姿は、周りからよく見えるだろう。
だがジケたちから周りの様子はよく見えない。
戦うには先手を相手に譲って近寄ってきてもらうか、同じ条件にするかだ。
焚き火を消して暗くしちゃう。
これも相手と同じ条件になる。
月明かりのわずかな明るさを頼りに戦うのも一つの手段だ。
ただこれはリスクも大きい。
エルオアやエニ、ウーキューなど近づかれると守らねばならない人がこちらには多い。
ジケはともかく他のみんなが周りに気を配りながら戦うのは難しいだろう。
「えいっ!」
相手が近づいてくるのを待つのもリスクが高い。
ならば取るべき選択は一つだ。
みんな明るくする。
「リアーネ、ユディット、今だ!」
エニが火球を打ち上げる。
通常の火球よりも明るく光を放って周りのことを照らし、襲撃者たちの姿をあらわにする。
驚く様子の襲撃者たちをよそに、リアーネとユディットが動き出す。
少し遅れてキリエとシェルティも同じく戦いに加わる。
「みんなはこっちに!」
ジケは戦いに加わらず、エルオアとウーキューを集める。
固まってくれていた方が守りやすい。
「ユディット様……お強いのですね」
落下を始めた火球はちょっとチカチカと点滅しながら周りを照らし続けている。
見えるとはいっても、相手は黒いローブを着ているので火球の明るさのみでは見にくくて戦いづらい。
だがユディットはそんな相手を圧倒している。
エルオアがユディットの戦う姿にポツリと呟きを漏らした。
「相手は奇襲専門みたいだな」
相手の実力はそれほど高くない。
暗殺者という表現の方が似合っているような連中かもしれない。
「こっちに来たか」
相手の狙いはエルオアだ。
わざわざユディットたちを倒すこともない。
隙をついて二人の暗殺者がジケたちの方に抜けてきた。
「チッ……!」
まともに戦えば二人同時でも相手にできる。
そう思っていたが、相手もまともに戦うつもりがない。
身のこなしが軽く、一人がジケの相手をしている間にもう一人にすり抜けられてしまう。
「エルオア様!」
ウーキューも剣を抜いてエルオアの前に出る。
あまり腕前としては優れていないが、ウーキューも一応戦えるようには努力していた。
「うっ!」
ただやはり実力に差がある。
ウーキューはどうにか一撃で防いだだけで弾き飛ばされてしまった。
「私だって!」
エルオアも剣を抜いて暗殺者と対峙する。
「死ね!」
暗殺者は剣を手にエルオアに斬りかかる。
「うっ、はっ、やっ!」
エルオアは暗殺者の攻撃を防御する。
全く戦えないというわけじゃなさそうだけど、あまり防ぎ方も上手いわけじゃない。
「その子に手を出すな!」
キリエは二人がかりでマークされていてすぐには向かえない状態だった。
ちょっと危ないかもと思っていたら、ヒーローが駆けつけた。
「くっ!」
「ユディット様!」
「……別に様つけなくていいですよ」
ユディットがエルオアと暗殺者の間に割り込む。
「大丈夫そうだな」
ユディットが駆けつけてくれたなら安心だ。
ジケは暗殺者のナイフを受け流すと、胸に剣を突き刺す。
「他のみんなも……大丈夫か」
弾き飛ばされたウーキューはエニが治療している。
キリエの方も二人を相手に戦いを優位に進めている。
リアーネも苦しい顔もしないで暴れているし、シェルティも上手く戦っていた。
「はっ!」
「ぐはっ……こんなの……聞いて、ない」
ユディットが暗殺者を斬り倒す。
「大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫……」
ユディットが振り返ると、エルオアは軽く頬を赤らめた。
戦う男の姿はカッコいい。
小さい時のイメージがあると余計にギャップもあるのかもしれない。
「他に敵は……いなさそうか」
ジケは魔力感知の範囲を広げて暗殺者が他にいないか探してみる。
ともかく他に暗殺者は近くにいない。
「……うーんこれで終わり、なのかな?」
予想通りに襲撃にはあった。
これで終わりからいいのにとジケは小さくため息をつく。
「血がついてるよ」
「あっ、ありがとう……ございます」
エルオアはハンカチを取り出してユディットの頬についた血を拭う。
襲撃者のおかげでちょっと良い雰囲気にはなっているなとジケは目を細めていたのだった。




