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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第二十章

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騎士の背中1


「えー! 本当!?」


「でも、なんだかんだこうやってきてるんでしょ?」


「来てるけど……そんなそう言うんじゃなくて……」


「うそー!」


「顔赤くなってるよ!」


「違うし!」


 二日ほど準備と別れの時間をとって、ジケたちは出発した。

 元よりすぐに逃げられるようにはしてあったらしく、準備は早かった。


 エルオアたちは果樹園の手伝いをして生計を立てていて、果樹園のおじさんたちはエルオアたちのことを気に入っていたようである。

 別れを惜しんで、果物をどっさりと持たせてくれた。


 乾燥させた果物なんかは日持ちもするし、甘いしなかなか良いなとジケは思っていた。


「顔真っ赤だよ」


「いや、だからぁ!」


 ウーキューもシェルティもまだ比較的若い。

 当然エルオアもまだまだ若い。


 みんな性格的にも明るくて、おしゃべりも好き。

 そうなると、移動の馬車の中は女の子の空間になっていた。


「いいんですか? ここで?」


「流石に俺一人であそこには入れないよ」


 キャピキャピした空間にいるのは男子にとっては大変だ。

 ジケは馬車の中ではなく御者台の方に避難していた。


 今はユディットが御者をしている。

 となると馬車の中に男はジケ一人となってしまうために、空気感に耐えられず逃げたのであった。


 現に馬車の中から女子の会話が聞こえてくる。

 エニも意外と打ち解けているようで、みんなから質問責めにあっている。


 あまり耳を傾けちゃいけないかもなと思いながらジケは空を見上げる。

 ちなみにフィオスは馬車の中で女子に混ざっていた。


 伝わってくる感情からすると楽しいらしい。


「ユディットの方はどうだ?」


 ジケはチラリとユディットの横顔を見る。

 二日間の準備にジケはあまり関わらなかった。


 何か用事があればユディットを派遣していた。

 少しでもエルオアと仲良くなればと思っていたのだ。


 ユディットとエルオアが最後に会ったのも小さい頃の話である。

 たった二日で間が埋まるとは思っていないけれど、多少は互いを知る時間にもなれたかもしれない。


「どうだ、と言われましても……その」


 ユディットはモゴモゴしている。

 エルオアの方は割と積極的に人に話しかける。


 ジケやエニにも声をかけて不便はないかと聞いたり、気遣いのできる人だった。

 対してユディットは寡黙とまではいかないがおしゃべりな方でもない。


 人当たりはいい方だけど、積極的とは言いがたい。

 それに同年代の女の子に対して緊張もありそうで、あまり二日で話せたわけではなかった。


「ふーん……まあこれから一緒にいるから少しずつ仲良くなっていきなよ」


 移動だけではない。

 仮に無事到着した後もしばらくエルオアたちはジケのところでお世話になる。


 すぐさま仕事なりを見つけて出ていく、ということにはならないだろうから時間はある。


「個人的にはキリエさんいてくんないかなって思うけどな」


 キリエの実力は高い。

 今のところ人間性もいい。


 ジケに忠誠を誓えというつもりはないが、もし仮にジケたちの近くにいてくれるならありがたい。

 何ならエルオアたちに商会の仕事を紹介して取り込もうとまでひっそり考えている。


 どうせ一緒にいるならユディットにも仲良くなって欲しい。


「女の子……としてはどうなんだ?」


「へぇっ!? いや、その、それは……」


 いつもはジケが女の子関係でイジられる。

 ユディットもからかうつもりでなくとも普通に聞いてしまうようなことがある。


 今ばかりはジケが聞く番だ。

 思わずニンマリしてしまう。


「どーなんだー?」


 リアクションを見ればどう思っているのか何となく分かる。

 決して悪くは思っていない。


 みるみるとユディットの耳が赤くなっていき、手綱を持つ手に力が入ってジョーリオが何だと軽く振り返る。


「ジョーリオ! いいからそのまま走ってくれ!」


 ジョーリオにはユディットの内心の気持ちも伝わっていて、動揺もしっかり理解している。


「元々は父親の主人かもしれないけど、今は対等だぜ?」


 昔の関係としては主従に近いだろう。

 おそらく何事もなければユディットは父親の後を追って騎士として国に仕えていた。


 どんな関わり合いをしていたのかジケは知らないけれども、どこかに壁や一線があったことは否めないはずだ。

 今はもうエルオアは一般人だ。


 弟の反乱が成功してしまえば王族返り咲きとはなるものの、王族としての身分は捨て去ってしまうつもりなのだから、結果がどうあれエルオアに変わりはない。

 王族ならば多少のややこしさはあるけれど、今のエルオアは何をしようと自由である。


 たとえユディットと深く仲良くなろうとも大丈夫なのである。


「別に、そのようなことは……」


「いつどのタイミングで、どうなるかは分からないもんだぜ?」


 ジケの実感がこもった言葉。

 もうすでにユディットは意識しているような気もするが、そのうちに本当に自分の心がどんな思いを抱えているのか自覚する時が来る。


「まあひとまずエルオアたちのことはユディットにメインで任せるから」


「えっ……」


「だってそりゃ、お前が助けたいって来てるんだぞ?」


「うっ……」


 たとえエルオアのことがなくとも、今回の件はユディットに大きく任せるつもりだった。

 困ったことがあれば手助けするけれど、考えて行動するのはユディットである。

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