お姫様を迎えにいこう1
「これは……!」
「これがうちの主力商品ですよ」
「この歳になってくると馬車の振動も体に悪い……だがこれなら安心して長時間乗っていられる。商会の話も……納得ですね」
いろいろと準備を進めてエルオアを助けに行くことにした。
向かう人をどうするか考えたが、ジケに加えて当事者であるユディットと立候補したリアーネ、そしてエニも連れて行く。
ニノサンも行きたがっていたけど、やはり家や商会を守ってくれる人は必要だ。
それにニノサンは顔が良い。
だから連れていかないと言うと嫉妬みたいに聞こえるけれど、隠密に活動するのにただいるだけで目立つのは意外とデメリットなのだ。
それに相手は女性ばかりだと聞いている。
ユディットは外せないし、他にどうしようと考えた時に女性のリアーネの方がニノサンよりもふさわしいのは当然の話だった。
全員連れていけばいいという考えもあるが、そうもいかない。
これからエルオアを含めて三人が合流する。
移動速度や荷物をの運搬も考えて馬車での移動に決めたが、馬車に収容できる人数にも限りがある。
詰めて残り三人を連れて行くことを考えると、これ以上も人数を増やせなかったのだ。
エニについては、ジケが行くならエニもついてくる。
勝手においていこうものならしばらく手料理を食べさせられることになるので、そんなことはできない。
「ちなみに座席に敷いてあるクッションもウチの商品です」
「ジョーリオが作ったんですよ」
「なっ……」
キリエも意外と感情が表に出る人だ。
パーティーではムスッとしたイメージだったが、興味がないこととあることの差がハッキリしている。
揺れの少ない馬車やアラスネノネドコを活用したクッションに驚いている。
商会を持っていて、みんなに給料を払っていることも若干懐疑的なところがあった。
だがジケに対する驚きはずっと続いている。
馬車とアラクネノネドコ。
どちらもキリエには到底生み出せない商品だった。
「だから騎士としてだけじゃなく商会のメンバーとしても給料払ってるんですよ」
実際ユディットはそこら辺の人よりお金をもらっている。
騎士としてのお金とジョーリオに頑張っているお金の二重にもらっているのだ。
平均的な平民よりも結構上かもしれない。
「…………良い主人を見つけたんですね」
信頼できて心から仕えたいと思える主人の方が少ない。
ならばせめて金払いぐらいはいい人がいいというのは当然の話。
ユディットはジケに仕えられて嬉しそう。
さらにはお金もしっかり払ってくれるのなら言うことはない。
主従の関係性もいいし、ジケの性格もいい。
同僚たるリアーネやニノサンも人柄は悪くなく、働く環境としても良さそうだ。
エルオアとの隠遁生活も悪くはないが、羨ましいとどこかで思ってしまうところはある。
「良い主人です」
「そういうのは本人いないところで言うもんだよ……」
ユディットはにこやかに答えるけれど、むしろ普通に答えられる方がジケにとっては照れてしまう。
「と、とりあえず……今後の計画を改めて確認しよう!」
ジケはわざとらしく咳払いして話題を変える。
のほほんとしているが、これからやろうとしていることは意外と危険である。
「行きはまっすぐエルオアのところに向かう。危険少ないと思う。だけど問題は帰りだ」
行きがけにジケたちが襲われる可能性は低い。
キリエがいるので無いとは言い切れないものの、ジケたちが迎えに行っているなんておそらく相手は知らないはずだ。
武闘大会で目立ってはいるのだけど、遠く離れた国の人がキリエに目をつけるとは思えない。
キリエによると目立つつもりはなかったけど、ウェドンを探す目的で参加していたらいつの間にか優勝していたのだと。
腕に覚えがある人として、強い相手に負けるのはプライドが許さないという気持ちはジケにもちょっと分かる。
ともかくリスクが低いと考えて行きは素早く移動する。
そしてエルオアたちと合流する予定だ。
「問題は帰りだね」
「そう。見つからず、狙われず……なら嬉しいんだけどな」
行きと違って帰りは迂回ルートを取るつもりだった。
直線的に移動するとオルトロンが近いところを通ることになる。
リスクが低い行きはいいが、合流した後の帰りは危ない。
なので帰りはオルトロンに近づかないようにして移動するルートを予定している。
「必要そうなものは持ってきたし大丈夫だと思うけどな……」
たとえ襲撃されても戦力的には十分。
武闘大会上位入賞者が揃い踏みである。
「それにしても兄の方……トルオアは大丈夫なのか?」
キリエに抜けてもらいたいとは思わない。
しかしやはりキリエの実力は高く、反乱の方に行かなくてもいいのかという思いがあった。
「……大丈夫だと思います。それに私はトルオア様からもエルオア様をお守りするように言われているのです」
「そっか……」
守りたい人を守るためなら信用できる一番強い人に任せる。
ジケでもそうするだろうし、そんな信用できる強い人がキリエだったのかもしれない。




