計画ねりねり2
「リアーネさん、僕が説明します」
「ちょっ……えっ、浮気者!」
「……おい! 人聞き悪いぞ!」
リアーネはユディットに別の部屋に連れていかれる。
最後の捨て台詞は流石に聞き流せなかった。
「ふふ、自分の部下と距離が近いのですね」
キリエは思わず笑ってしまった。
自分が騎士であった時に仕えていた王にあんな態度を取れば、罰は免れないだろう。
しかしジケのところではみんなのびのびとしている感じがある。
ユディットもジケのことを話している時は楽しそうだったと思い返す。
騎士としてあるべき姿ではないのかもしれないが、悪くはないとキリエは思った。
ある程度の主従もありながら、どこか友のような関係。
昔だったら受け入れられなかったかもしれない。
しかし主君の子を連れて逃げ、明確な主従が崩壊したような中で生活してきた。
エルオアは今キリエが仕えている主君だが、小さい頃から面倒をみているので娘のような感覚もどこかにある。
外じゃエルオアのことを知られないように砕けた関係で話す。
いつの間にかジケたちの主従関係と近いような関係に、キリエたちもなっていたのだ。
緩やかな関係も悪くはないと今から思える。
「忠誠を誓ってくれてるけど、厳しく縛り付けるつもりはないからな」
一番ピシッとしているのはニノサンだろう。
ユディットも騎士っぽくはしようとしているけど、やっぱり経験不足や若さゆえなのか緩さが出てくる。
騎士の先輩もいないのである程度しょうがないし、ジケも厳しく言わないのだからそうなってしまうのも当然なのだ。
「……ちなみに給料は支払っているのですか?」
「そっちはどうなんですか?」
「もちろん払えるわけないので……私たちが普通に働いています」
「そう……なんですね。うちは俺がみんなに支払ってますよ」
「どうやって……」
ジケの身なりは小綺麗だと思う。
貴族には見えないが、平民街に住んでいたらもう平民にしか見えないだろう。
だが騎士を三人も雇えるようには見えない。
「ユディットからは何も聞いてないんですか?」
「彼があなたについて話すのを好きにさせておいたら、反乱が終わってしまいそう」
キリエは困ったように笑う。
「俺は商会を持ってるんです。結構軌道に乗ってて上手くいってるんですよ」
「商会を? そういえばあなたのこと会長と呼んでいたわね」
「主君とか主人とかだとちょっと気恥ずかしくて」
キリエは驚いたように目を丸くする。
商会を持っているということも驚きだが、騎士の給料を払えるほどに儲かっているのも意外なことだ。
どれだけ払っているのかは知らないが、払えるほどに余力があることがすでにすごい。
「……多彩なのね」
武闘大会でも強さを見せていたのに、商才まであり、騎士として仕えたくなる人望もある。
ユディットが嬉しそうにジケのことを話していた理由がよく分かった気がした。
「直線ルートがいいか……迂回ルートがいいか……」
地図を眺めるジケはどう逃げるかを考えていた。
現在隠れているところからジケのところまで直線で線を結ぶと、途中でオルトロンをかすめる形になる。
近いのも一瞬なのでどうなのか、と悩んでしまう。
リスクを避けて迂回した方が安全かもしれない。
「話は聞いたぜ!」
「……なんか元気だな」
リアーネがバーンと登場する。
「私も手伝うぞ!」
「急にどうしたんだ?」
「今回のことが成功すればキリエ……さんはこの国に来るってことだろ?」
「まあそうだな」
エルオアを匿うことになれば、仕えていて護衛であるキリエもここにいることになるだろう。
細かいことは決まっていないが、多分そうなる。
「ここにいてくれればリベンジも楽だからな!」
良いこと思いついた!
そんなふうな顔をしてリアーネは胸を張る。
「確かに、あなたが来てくれるなら心強いわね」
「……リアーネも参加か。考えることも多いな」
頭が痛くなってきそう。
考えるのに疲れたジケは上を向いて、フィオスを手に乗せる。
紅茶でほんのりと温かくなったフィオスが疲れた目に染みるようであった。




