計画ねりねり1
「んーと、問題はなんだ?」
やると決めたからにはしっかりとやる。
ただ保護して匿えばいいということではなく、できるなら迎えにいってほしいという話でもあった。
キリエもちゃっかりとしているものだ。
地図を眺めながら、どう逃げていくものかと考える。
ただジケは別にどう逃げてもいいんじゃないかとふと疑問に思った。
問題となっている国はオルトロンという国である。
ただ、エルオアはもう最初の亡命の時にオルトロンを脱出している。
他の国にいるのだからあとは移動すればいいだけではないかと考えたのだ。
「確かにそれはそうかもしれませんが……相手も必死になってくる頃でしょう」
病に倒れた王は何を考えるか。
次の王の治世を憂うか、愚息の安泰な王政を望むか、それとも自分の反乱を思い出すか。
常にどこかに前王が残した双子の存在はあっただろう。
反乱で手にした王座がまた反乱によって奪われる恐怖が消えることはない。
自分が倒れた状況はきっと、自分がやってきたことと重なる。
自分の息子に王位を継がせるために王様は本気でエルオアを狙う。
流石に表立って軍は動かせないが、秘密裏に暗殺者を送り、あるいは汚いことに手を染める人を雇うかもしれない。
ただ迎えにいって連れてくるだけに終わる、というのは考えうる中でも最善のシナリオなのだ。
「考えるべきは最悪か」
ジケは小さくため息をつく。
何もないだろうと考えて動くのが一番良くない。
悪いことが起こる可能性があると考えて動かねばならない。
「王に見つかって、追いかけられて、襲われる」
現状での最悪なシナリオはこうなる。
相手の攻撃がなかったので、これまではエルオアがどこに潜伏しているのか相手にはバレていない。
しかし何かのきっかけでバレてしまうことはありうる。
特に反乱の機運が高まり、何かを計画して動き出している時にはなおさらだ。
「護衛は何人?」
知るべきことは多い。
前提となる条件によっては多少考えも変わってくる。
「二人。私も含めると三人」
グッと真剣に話を聞き出そうとするジケの目を見てキリエは少し驚く。
そもそもジケに会う前は、ジケのことを警戒していた。
ユディットがウェドンの息子じゃないかと気づき、ユディットに注目していた。
同時に情報も集めた。
その中でキリエはユディットがジケに忠誠を誓っていることを知る。
子供が子供に忠誠を誓う。
しかも貴族でもなんでもない貧民の子供に。
何をしたらそんなことになるのだ、とキリエはジケのことを警戒していたのだ。
だからパーティーの時には軽く睨みつけるように見てしまったのである。
ユディットに話を聞いてみると魔法の忠誠まで誓っていた。
ほんのわずかに怒りまで覚えたものだけど、話を聞いていくほどに子供とは思えないような人であることも分かった。
最終的には説得されて頭を下げたものの、どこか納得していない自分がキリエの中にいたことは否めない。
しかしジケに直接会って話してみると、キリエは自分の認識の方が浅かったのだと反省していた。
「まあそれぐらいが限界ですよね」
本来なら常に多くの人を周りに配置しておきたいところだろうが、隠れておくためにはそうもいかない。
近くにいても関係性を誤魔化せる人数としては、それぐらいになってしまう。
移動の時だってあまりに人が多いと周りから不振がられてしまうだろう。
エルオアとキリエも含めて四人。
何処かに隠れて住むにも、移動して逃げるにもそれぐらいがいい感じになる。
「実力は? みんなキリエさんぐらい強いんですか?」
キリエの実力は分かっている。
リアーネよりも強いという時点で相当な実力者だ。
キリエレベルが他に二人いてくれるなら、実際の問題なんてあってないようなものである。
「自慢ではないが、私の腕前は相当な域だ。流石に私のような強さのものはいないよ。一人はそこそこ、もう一人はあまり……といった感じだ」
「エルオアは?」
「最近自分でも強くなりたいと剣を握り始めたばかりだ」
「うーん……」
腕が立つのが二人。
微妙そうなのが二人。
なかなか難しい。
迎えにいくのだってゾロゾロとしていては目立つかもしれない。
「ユディットは行かせるとして……」
「なぁーんであんたがここにいるんだ!」
少数精鋭がいいだろうとメンバーを考えていたら、リアーネが帰ってきた。
家に入るよりも先に窓からキリエの姿が見えて、勢いよくドアを開けて入ってくる。
「……彼女も誰かに仕えていると聞いたけれど……まさか」
「俺にですよ」
リアーネを見てキリエは驚いた顔をする。
もちろんリアーネは強くてキリエの記憶にも残っていた。
ただユディットのように調べたわけじゃないので、誰かに仕えているということは知っていてもジケに仕えているとは知らなかったのだ。
ユディットだけでなくリアーネも従えている。
そのことには驚きを禁じ得ない。
改めてジケは何者なんだと思わざるを得なかった。
「ユディット、説明を」
「はい」
キリエを雇うのかもしれない。
そうなれば自分の立場が危うくなるかも。
そんなことをリアーネは考えている。
改めて一から説明するのは面倒だからユディットに任せる。




