忠誠の騎士3
「美味しかったらまた持ってくればいいですし、美味しくなかったら大変です。だから半分こしましょう? はい!」
リンデランはお皿からサンドイッチを手に取ってジケに差し出す。
美味しいと言って持ってきたのではないのかと頭の隅で思うが、今はそんなことを考えている余裕もない。
パージヴェルの視線も突き刺さっている。
グラスを割らないようにとリンディアがパージヴェルの手から取り上げている。
過去ではもういなかったはずのパージヴェルもいまだに元気だ。
「パクッ!」
「あっ! ウーちゃん!?」
差し出されたサンドイッチをどうすべきかと悩んでいたら、横から顔を出したウルシュナがパクリと食べてしまった。
「うん、確かに美味しいね。オススメできるよ」
「もー! 何するんですか!」
「へへーん、リンデランの好きにもさせないよ!」
リンデランとウルシュナが睨み合う。
流石にリンデランのような積極性は、ウルシュナには発揮できなかった。
でもちょっと邪魔するぐらいならウルシュナにもできる。
「……何か持ってくるか。フィオスも食べるだろ?」
相変わらずユディットやリアーネは囲まれている。
貴族ではないので、誘える可能性があるように見えているのだろう。
だが二人ともジケに対して魔法による忠誠も誓った騎士なのだ。
どんなに誘われようとも忠誠が揺らぐことはないと信じている。
「ふんふふーん」
ジケは鼻歌を歌いながら料理を皿に取っていく。
本来立ちながら食べるためにそんなにたくさん取らないのがマナーなのだけど、貧民にそんな関係ない。
いざとなればフィオスが全部食べてくれる。
片っ端から料理を試していくつもりだ。
「よく食べる。それが君の強さの秘訣か?」
「えっ!?」
気づいたら後ろに人が立っていた。
「君の剣術は非常に優れていた。木剣で木剣を切ることは容易くないだろう。後でこっそりと切り口を確認したが、まるで鉄の剣で切ったようだった」
「え、ええと……」
「ああ、自己紹介もしていなかったね。私はブルンスディンだ。カルクアッド・ブルンスディン」
「えと、ジケです。急に……なんですか?」
ジケの後ろに今のは男性部門の優勝者であるブルンスディンであった。
魔力感知は一応使っていたが、人が多くて怪しい動きでもしない限りは特に周りに警戒はしていなかった。
ブルンスディンはほとんど気配もなくジケの後ろに回り込んでいた。
話しかけられるような覚えもなくてまた驚いている。
「私の見立てでは、子供部門で優勝の可能性がありそうな実力がありそうなのは三人。実際に優勝したユディットさん、途中で棄権してしまったジケさん、それにジケさんが倒したライナス君ですね」
「ええと……?」
ブルンスディンは困惑するジケをよそに一人で話を続ける。
「私の予想として……あなたが優勝すると思っていました。ライナス君とどちらが勝つのか最後まで予想はできなかったのですが、最後に焦りが生まれてしまったのがいけませんね。ほんの一瞬の隙も見逃さないジケさんの目には感服いたします」
「は、はぁ……」
「やめないか!」
「んがっ!」
すごい勢いで話し続ける。
ジケが引いているのにも関わらず話すブルンスディンの頭を、白髪のおじいさんが引っ叩いた。
「すまないな。集中するといつもこうで」
おじいさんが小さくため息をつく。
「……何が言いたかったのかと言いますと、あなたとも戦ってみたい。五年後ぐらいには戦えるでしょうか?」
頭をさすりながらもブルンスディンは話をまだ続ける。
「こら!」
とんだ戦闘オタクだなとジケは苦笑いを浮かべる。
戦うのも好きそうだけど、戦いを分析をするのも好きそうだ。
後に聞いたらおじいさんはブルンスディンの祖父であり、師匠である人だった。
ブルンスディンは思っていた倍は不思議な人だったけれども、悪い人はなさそうだ。
「我が主人に忠誠を!」
「私はお前にしかついてくつもりないからな!」
「ちょっ……人前で……おい!」
最終的にはスカウトがウザくなったユディットとリアーネが、再びジケに忠誠を誓うなんて荒技で周りの貴族を一掃する事件があった。
このせいでジケは大変注目を浴びることになり、対応疲れをした二人を連れてそそくさとパーティーから退散することになったのである。
「ユディットさんもジケさんに忠誠を……上に立つ才能もあるのか。しかし今回棄権してしまったし何年後かに戦えるかどうかは……」
「ううむ……あの子はお主の興味も引いてしまったようだな……」




