忠誠の騎士1
「それで、あれは誰なんだ?」
「私も分からないですよ……すごく困惑してます」
キリエがユディットに対して膝をつき、ユディットとの関係がザワザワと噂されている。
ユディットのことを知らない人は、ユディットが他国の貴族なのでないかなんて予想をしている人もいる。
ジケとしても気になるので聞いてみたけど、ユディットは本当に知らないらしくてただ困った顔をしている。
「後で話したいとは言われました」
膝をついての挨拶の後、キリエはユディットに対して話がしたいとこっそり伝えていた。
ユディットとしてもどうしてあんなことをしたのか気になるところ。
話をしたいというのなら断る理由はない。
「お前の母親……」
「いえ、違います」
「そっか……」
ユディットの父親については少しだけ聞いたことがあるけれど、母親についてあまり聞いたことはない。
もしかしたら、なんて思ったが違うようである。
確かに態度としても母親っぽさはなかった。
リアーネを倒すほどの実力がある人とユディットの関係など、考えても全く答えが出ない。
「ほれ、呼ばれたぞ」
「い、行ってまいります……」
今は王様もホールに現れて授賞式が始まった。
武闘大会におけるそれぞれの部門の三位までが、王様から直接受賞の盾を受け取る。
色々な背景の人がいるので、邪魔になりにくいようにかなり小さく作ってあるようだった。
大きなトロフィーもらっても飾るような場所もない人だっているかもしれない。
そんな配慮なのである。
緊張した面持ちのユディットが前に出る。
「優勝おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
王様は機嫌が良さそうだった。
裏では聖杯が返ってきたということもあるし、武闘大会という大きなイベントが無事に終わったというところもあった。
優勝したユディットは自国民であるし、それなりの面目も保てた。
「君が仕えているあの子はこの国にとっても大切な存在だ。その力をもってこれから守ってやってくれ」
「もちろんです。俺の全力をもって、あの方をお守りします」
「優勝者でもある君をスカウトできないのは残念だが……彼に仕えているのなら我が国の利益になる。もし仮に彼の元が嫌になったなら……いつでもウチに来るといい。そんな時が来るかは分からないがな」
王様からこんな言葉をかけてもらえる自分の主人のことをユディットはとても誇らしい気分になった。
そして、改めて自分の力を評価してもらえることにも抑えきれぬ喜びを感じている。
「胸を張りなさい。仕える騎士の所作一つも、主人の威厳に関わってくる」
「……分かりました!」
ジケも棄権しているし、多少優勝を喜ぶのをはばかるような気持ちもあった。
しかし王様に言われて、ユディットは素直に喜び、誇らしく思うことにした。
拍手が巻き起こり、ユディットの優勝が祝福される。
ジケも笑顔で拍手をしていてくれて、ユディットは自然と笑顔を浮かべていた。
そして、ひっそりとキリエもユディットには拍手を送っている。
「こちらを会長に捧げ……」
「いらないよ。自分でちゃんと持っとけよ」
優勝の盾をジケに渡してこようとするので、ハッキリと断っておく。
流石にそんなものもらっても自分で飾る気にならない。
ユディットが勝ち取ったものなのだからユディットが持っていればいい。
「嬉しくないとは言わない。でもこういうものは自分の力で勝ち取ってこそ、だろ?」
ユディットの気持ちとしては嬉しい。
優勝という栄誉を捧げてくれようとする忠誠心は受け取ろう。
だが実際に優勝して得られたものはユディット自身のものである。
「これからもそばにいてくれよ。それでいいんだ」
「……はい!」
ユディットは感動した目でジケのことを見ている。
世の中には部下の活躍に嫉妬してしまうような人もいる。
しかしジケはユディットの活躍を喜び、少しの嫉妬もない。
なんてできた主人なんだと感動しきりだ。
人たらしたるジケの力は別に女性相手に限った話でもないのであった。
「次は女性部門か」
子供部門の次は女性部門だ。
リアーネが呼ばれて王様の前に出る。
王様に何かの言葉をかけられると、リアーネは大きく頷いていた。
三位というやや不本意な結果には終わったものの、リアーネも子供ではない。
結果を受け入れて前に進むことのできる人である。
三位でも立派な成績だ。
ジケはリアーネにしっかりと拍手を送る。
女性部門の二位はリアーネと同じく冒険者の人だった。
正直リアーネより実力が劣りそうだけど、トーナメントという形式上対戦相手の運もある。
そして一位はキリエだ。
ユディットに拍手を送っている時には柔らかい顔をしていたのに、今は全くの無表情で盾を受け取る。
王様も何かの言葉を送っているけれど、たとえ王様を前にしてもキリエの態度は変わらない。
ある意味ですごく芯のある人と言えるのかもしれない。
ただここまでの態度や王様に対する対応から貴族たちの反感を買ってしまった。
キリエに向けられる拍手はやや少ないものとなってしまっている。
それでもキリエは平然としていた。




