あの子は何者2
「ありがと、リンデラン」
「うわっぷ!」
「えへへっ……」
あまりにも撫でて欲しそうに見えて、ジケはウルシュナの顔にフィオスを押しつけてリンデランの頭を撫でる。
リンデランは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「私も応援してたのにさー」
「ウルシュナも撫でてやろうか?」
フィオスを顔から剥がして抱きかかえたウルシュナが、拗ねたように口を尖らせる。
「いらない」
「遠慮すんなって」
「……ぷぅ」
いらないとは言っていたけれど、撫でてやると拒否もせず膨れた頬から空気が漏れる。
「女性部門優勝キリエ様、ご入場です」
「おっ、とうとう来たか」
「あのお方がリアーネさんを倒した……」
「ふふーん、着飾るつもりもないんだね。なんかちょっとカッコいいね」
リンデランとウルシュナとじゃれていたらまた一人会場に入ってきた人がいた。
みんながドレスなんかに着飾る中で、平然と武闘大会の時と変わらぬ格好で入ってきたその女性は、リアーネを倒して女性部門で優勝した人だった。
リアーネですらドレスなのに、キリエという人は全く着飾るつもりもないようで薄汚れたマントを肩にかけている。
なかなか独特な人のようだと、ジケはキリエを遠巻きに眺めながら思った。
だけど同時に少し不思議だった。
見た目を気にしないような人なのに、こうしたパーティーには出てきた。
そんな人なら、別にパーティーすら出ないようなものじゃないのかなと思っていたのである。
現に今も声をかけてくる貴族を冷たくあしらっている。
どこかの貴族に雇われたいというような感じもない。
「不思議な雰囲気の人だな」
出会った頃のリアーネのような、一匹狼的な雰囲気がある。
ジケも声をかけてみようと思っていたけど、応じてくれるような気はしない。
「タダ飯食べにきたってわけでもなさそうだしな……」
ジケはタダで美味しい料理でも食べられるならとパーティーに来た。
貴族に誘われても誰かに仕えるつもりはないし、特に交流を広げようなんてつもりもなかった。
タダ飯を食べに来たのではないと断定もできないけれど、そんな雰囲気の人に見えない。
「リアーネさん大丈夫?」
「えっ? んー……問題は起こさないと思うけど……」
ウルシュナに言われてリアーネを見る。
貴族に囲まれるリアーネはキリエのことを睨みつけるような目をしている。
ジケが褒めた後は悔しがることも無くなっていたのだけど、本人を目の前にしてまた悔しさが込み上げてきた。
悔しさはあるだろうが、こんな場所でいきなりリベンジに襲いかかるようなことはないはずだとジケは苦笑いを浮かべる。
「おい」
リアーネは、険しい顔をしたままキリエに声をかけた。
ピリッとした空気に、自然と貴族たちはリアーネの周りから離れていく。
「なんだい?」
キリエは穏やかにリアーネに答える。
いつもなら保安のために武器も預けるのだけど、今回は武闘大会のパーティーということで武器も込みで会場に入れた。
なのでジケもちょっとヒヤヒヤとして様子を窺う。
「次は負けないからな」
流石のリアーネもこんなところで戦うつもりはない。
負けたことは認める。
悔しさも認める。
次があるのかは分からないけれど、もし仮に次があるのなら悔しさも乗り越えて勝ってみせるとリアーネは誓った。
キリエに対して宣言することで、自分の中の思いを確実なものとした。
「……ふっ、次も私が勝たせてもらうよ」
キリエは目尻に小じわを寄せて笑った。
リアーネの挑戦の気持ちも汲み取ってくれたようだった。
「……チェッ」
精神的にも相手の方が上だと感じて、リアーネはつまらなそうな顔をする。
「……あれは」
思っていたよりも穏やかな終わりを迎えたなと思っていたら、キリエが何かを見て少し驚いたように目を見開いた。
「あなたのことを探しておりました」
「えっ……えっ!?」
リアーネの横を通り過ぎたキリエはユディットの前に立った。
そしてそのまま膝をついて、ユディットに頭を下げた。
ユディットはなんでそんなことをするのか分からず、困惑したような顔をして、ジケのことを見た。
「いや、俺を見られても分からないぞ……?」
ジケだって驚いている。
キリエとユディット。
どんな関係があるのかと聞きたいのはジケもユディットも同じなのであった。




