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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十九章

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聖杯を返して2

「偽物だと知りませんでしたし、まさか本物の聖杯だなんて思わず……」


「なるほどな。……実はつい先日偽物の聖杯が盗まれた。そんなことがあったものだから少し場内もピリついていて……君でなかったら、疑っていたところだ」


 疑っていたなどと柔らかく言っているが、実際には拘束していたところである。

 あまりにもタイミングとして良すぎる。


 偽物の聖杯が盗まれたと思ったら、本物の聖杯を持っていると主張する人が現れた。

 疑わない方がおかしいというものである。


 実際には偽物の聖杯を利用して、何かしらの詐欺でも働こうとしていると疑うのだ。

 だが今回話を持ってきたのはジケである。


 これまで積み重ねてきた信頼がジケにはあった。

 少なくとも詐欺目的ではないだろうと思っていた。


「だが聖杯が本物の可能性が高い。これは……神がもたらした奇跡なのかもしれないな」


 偽物を失って、本物が帰ってきたのは、神の思し召しだったのかもと王様は考えた。

 あるいは、神の子の力かもとすら思えてしまう。


「本当に本物なんだな?」


「聖水を確認しないことには断定はできませんが、十中八九本物で間違いないかと。偽物は精巧に作ってありますが、実は完全に本物を再現してはいないのです」


「なに? それは初めて聞いたぞ」


「盗まれた当時の王と我々宝物庫のロイヤルガードしか知らないことです。誰かが偽物を見て、複製して本物だと持ってきても偽物、あるいは本物だと分かるように違いを作り、そしてそれを秘密にしてきたのです」


 いつか本物が返ってくるかもしれない。

 そんな時に偽物はむしろ邪魔になる。


 本物と区別し、本物が見つかるまでの間に悪用もされない方法として偽物に偽物と分かる違いを作ってあったのだ。

 もちろん本物の聖杯の形も代々頭に叩き込んである。


 ジケが持ち込んだ聖杯は偽物に作ってある特徴はなく、教えられてきた本物の形と同じであった。

 あとは聖杯の能力さえ確認できれば完璧なのだ。


「聖杯は一年をかけて聖水を溜めます。この様子だと……近々に聖水は使われてしまった様子ですね。話と一致します」


 フィオスが飲んじゃいました。

 これは正直に話した。


「……いや、これは本物だ。このようなタイミングで再び返ってきたのも偶然ではないのだろう」


「そうかもしれません。おっしゃる通りです」


「偽物をもう一個作らせる。先ほど言った特徴のある偽物と区別できる偽物だ。しばらく聖杯の本物はお前が管理して守り抜け」


「……はっ! 命に変えても守り抜きます!」


「おっと、勝手に聖杯を返してもらうように話を進めて悪かったな」


「いえいえ、最初からお返しするつもりで持ってきたので」


 王様たちの中ではもう聖杯は返されたものとして話が進んでいる。

 別にいいのだけど、流石に王様も浮き足立っているのだなと苦笑いしてしまう。


 聖杯の奪還は王国の秘められた悲願である。

 ここで叶うなんて王様も思っていなかったことだろう。


「我が娘との婚姻はどうだ?」


「へっ?」


「王は息子に継がせるつもりだが、君が望むから広い所領と……」


「待って待って待って……何を言ってるんですか!」


 急に話がぶっ飛んでジケは驚いてしまう。

 なんで突然アユインとの婚姻話になるのか訳が分からない。


「王家が代々宿願としてきた聖杯問題を解決してくれたのだ。なんの報奨も無しとはいかないだろう。いや、それどころか何もしないことは王家としての沽券に関わる。これまでの功績を含めて、君なら王家に迎え入れても構わないだろう」


「いやいや! そんな! アユインの意思だってありますし、別にそんな……」


 王家になりたくない。

 こんなふうにいうと流石に失礼かなと言葉が尻すぼみになる。


 だけれども王族入りを果たしたいと思ったことは過去を含めても一度もない。

 大変そうだな、と思ったことは何回かある。


 それにアユイン自身の意思もあるだろう。

 急に婚姻だなんてジケも受け入れられる話ではなかった。


「嫌か?」


「ええっ……あっ、その……」


 娘との婚姻を提示され、王様に向かって正面から嫌ですなんて結構不敬なことではないか。

 一気に冷や汗が噴き出してくる。


 別にアユインが嫌というわけではないが、覚悟もないのに王族としての責任を背負う自信がない。


「ふっ、冗談……ではないが、本気で無理に進めるつもりはない」


 王様は青くなったジケの顔を見て思わず笑ってしまう。

 たとえ王様である自分の前でも常に冷静なジケが狼狽える様をみるのは珍しい。


「君が地位や名誉、それにお金にも興味がないことは知っている」


 仮にジケがそんな俗物的なものに執着しているのならば、とっくに手元に置いていただろう。

 それこそ本当にアユインとの婚姻を進めていてもいいほどである。


 けれども、ジケはそんなもので動く人ではないことを王様も知っている。

 強制してしまえば離れていってしまう可能性すらある。


「……だが何を君に贈ればいい?」


 金もいらない。

 貴族の地位もいらない。


 領地もいらない。

 そんな人物に聖杯の対価として、何を贈ればいいものか王様は分からないとため息をついてしまう。

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