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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十九章

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聖杯を返して1

「一つ聞きたい……」


「なんでしょうか?」


 妙な圧力を感じてジケは少し背筋を伸ばす。


「なぜ棄権したのかな?」


 穏やかな口調。

 だけど棄権することなかったではないか、という裏の言葉が聞こえてくるような気がした。


「え、その……ちょっと怪我して?」


「神官も待機させていただろう?」


「あー、その……お腹痛くて……」


「ほほう?」


 王様の視線が突き刺さって、ジケは冷や汗が吹き出してくる思いだった。

 武闘大会でライナスに勝利したジケは次の試合を棄権した。


 そもそもライナスと戦うために参加した。

 優勝して悪目立ちするつもりはなかったので、あっさりと棄権してしまったのである。


 優勝するまでやればよかったのに!

 という声もいくらかあったけれど、別に優勝なんていいのである。


 しかしまさか王様本人からそのことを詰められるとは思いもしなかった。


「君なら優勝も夢ではなかった……と思うのだけどね。娘も期待していたようだしね」


「それは……はい、ご期待に添えず……」


「まあ、もう棄権してしまったものは仕方ない。君のことなのだ、目立ちたくないとかそんな理由なのだろう」


 どうしてこんなことに、と思うのだけど、今日王城に呼び出されているのは何も武闘大会を棄権したことを問い詰めるためではなかった。


「それで……例のものを見せてくれるかな?」


「もちろんです。ユディット」


「おお、優勝者君ではないか」


「そ、それはおやめください……」


 大きな布の塊を抱えてジケの後ろに控えていたユディットを見て、王様は目を細めた。

 武闘大会の優勝者はなんとユディットであった。


 ジケとライナスが脱落して、大きなライバルがいなくなった。

 ジケが怪しんでいた獣人はハクロウ族のハビシンだったりと、ちょっとした波乱はあったものの、確かな実力を見せつけたユディットが武闘大会初代優勝者となったのである。


 ‘’我が主人にこの勝利を捧げます!”

 そう堂々と告げたユディットは、誰に仕えているのだと騒ぎになっていた。


 優勝したユディットをスカウトしたいような人も多くいたので、すでに誰かに仕えているのは予想外の出来事だったのだろう。

 どこかの貴族に仕えているなどの事前情報もないユディットだったから色々情報も錯綜している。


 当然ながら国でもユディットに声をかけたらしいけれど、もう騎士の誓いも立てているとユディットは話を断っていた。


「こちらです」


 ユディットが布の塊をテーブルの上に置く。

 そして布を解いていく。


 中から現れたのは聖杯だった。

 今日呼ばれたのは聖杯について話すためであった。


 シードンだけではどうにも判断できないと、王様に話が行き、そしてジケは直接呼び出されることとなったのである。

 正直面倒であるが、誰かに聖杯を預けてしまうわけにもいかない。


 さっさと聖杯を渡して話を終わりにしようと思って、布で覆って隠すようにして王城まで持ってきた。


「デシドント、どうだ?」


「恐れながら確かめさせていただきます」


「あっ、あの人は……」


 王様が声をかけたのは、以前人を探していると家を訪ねてきた兵士であった。

 その時も位の高そうな兵士だと思っていたが、直接王様から命令を受けるような人だったことに驚いてしまう。


 兵士は白い手袋を身につけると聖杯を手に取る。


「彼はロイヤルガードの一人なんだ」


「えっ、そうだったんですか?」


 ジケが思わずまじまじと見ていたのを察したように王様が説明してくれる。

 兵士のデシドントはなんとロイヤルガードなのであった。


「代々宝物庫を守ってくれている少し特殊なロイヤルガードなのだ」


「そういえば……」


 そんな話に聞いたことあるなとジケは思った。

 宝物庫は宝物庫を守る存在がいる。


 かなりの実力者で、ソコイも出るのが大変だと言っていたのは宝物庫を守るロイヤルガードの存在があるからだった。

 まさかロイヤルガードだったなんて全く知らなかった。


「これは……!」


 デシドントは驚きに目を見開いている。


「どうだ?」


「結論から言いましょう。これは本物の聖杯である可能性が高いです」


 デシドントは慎重に聖杯を置く。

 興奮した自分を抑えるように長く息を吐き出したあと、王様に答える。


「本当なのか?」


「ええ、本当です。あとは聖水が確認できれば……というところです」


「……そうか。ではこちらの疑問を問う前に、そちらの疑問に答えよう。我々が保有していた聖杯は偽物だ。はるか昔に盗まれて、以来偽物を作って本物であるかのように装ってきた」


 王様は真剣な目をしている。


「なぜ君が本物の聖杯を持っているのか、聞かせてくれないか? なに、責めるつもりはない。答えられる範囲でいい」


「分かりました。実は……」


 ジケは聖杯を手に入れた経緯を説明する。

 ケントウシソウと格闘していたら偶然パルンサンの宝物庫を見つけて、そこで聖杯を入手した。


 聖杯だとは思っていなかったのだけど、たまたま聖水をフィオスが飲んじゃって、その効果に聖杯なんじゃないかと思ってシードンに話を持っていった。


「うむ……なるほど。伝説の大泥棒パルンサンが……そういえばそのような話もあったな」


 王様もジケの話を聞いて驚いていた。

 盗まれたという話だけが伝わっていたが、犯人がパルンサンかもしれないという話もどこかで聞いたことがあると思った。

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