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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十九章

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思いぶつかる3

「おりゃー!」


「くっ!」


 勢いに乗り始めるとライナスは強い。

 魔力の噴出を生かした攻撃は力としても強いし、剣の戻りも早くて次の攻撃も素早く出てくる。


 ビクシムとの戦いでどう戦うのかをしっかり観察していた。

 それでも純粋に強いのでなかなか対策も難しい。


「チッ……」


 優勢にはなれた。

 それでも攻めきれずにライナスはわずかな苛立ちを覚えていた。


 攻撃の軌道が分かっているかのように防がれる。

 ほんの少し先の未来でもみているかのようだ。


「こん……にゃろ!」


「あぶね!」


 近づいてのライナスの掌底。

 少し前にビクシムにもアドバイスをもらった攻撃をジケは紙一重で回避した。


「くそっ! どうなってんだよ!」


 少しだけならマグレだろう。

 しかしこうかわし続けられると、自分の動きが見切られているのだとライナスにも分かる。


 だからといってジケも悠々防御しているわけではない。

 割とギリギリで、反撃まで手が回っていない。


「そろそろ……こっちもいくぞ!」


 ジケがやっていることはいつもと変わらない。

 これまでグルゼイにジケが叩き込まれたのは、魔力感知だ。


 むしろそれ以外知らないというぐらいである。

 だからライナスとの戦いでも、魔力感知で戦っている。


 魔力を噴出させる都合上、体の部位に魔力が集中する。

 ビクシムクラスになると体にまとわれている魔力の動きは微弱なままに自在に噴出を操るけれど、ライナスはまだ事前の兆候がわかりやすい。


 噴出部位と攻撃の方向をみて、攻撃を一瞬早く察知して防御していたのだ。

 だから防御はギリギリだし、なかなか反撃できていないのだ。


 かなりキツイけどライナスのリズムってやつもなんとなく見えてきた。

 反撃に出ないと倒せないのだから、ジケも少し無理をすることにした。


「……うっ!」


 斜めに振り下ろされたライナスの剣を受け流す。

 そしてジケは一歩踏み出して反撃する。


 ライナスの勘が告げる。

 ヤバイ、と。


 普通に防いだらいけないと本能的に察して、剣に魔力を込める。


「ちっ!」


 魔法をも切り裂く斬撃は、今や比較的自由に繰り出せるようになっている。

 ライナスと違って金属の武器だろうが、木製の武器だろうが関係ない。


 たとえ木の枝であろうと、魔法を切り裂いてみせる。

 そんな一撃だった。


「うわっ……」


 木の剣同士がぶつかったのに、ライナスの剣の方がわずかに切れた。

 魔力を込めていなかったらそのまま剣を両断されていただろう。


「悪いな、勝たせてもらうぞ!」


 剣に魔力を集中させたことでライナスの動きの勢いが止まった。

 ジケはその隙を見逃さずにもう一撃繰り出す。


 回避か防御か。

 一瞬の判断を迷ってしまった。


 防御はできるだろう。

 魔力を込めたまま防げばよく、ライナスの反射神経なら対応できる。


 だが防御してしまうと次に繋がらない。

 剣に魔力を込めているために、次の部位に魔力を移して噴出させるのにほんの少しの時間を要してしまう。


 だが回避するのにも今剣に込めている魔力を移動させねばならない。

 ワンテンポ遅れた回避が間に合わなければ、今度は剣を切られてしまうかもしれない。


 どちらだろうと判断は迷いなく行うべきだった。


「しまっ……」


 回避も防御も半端になった。

 判断が遅れてどちらでもなく、ライナスは剣に魔力を込めつつ回避しようとしてしまった。


 鋭いジケの一撃がライナスの剣を襲う。

 金属の剣だったら結果は違っていたかもしれない。


 あるいは互いに魔剣だったら剣を破壊するなんて、まず無理だっただろう。

 けれども今使っているのは、お互いに木の剣である。


 ライナスの剣の先が切れて飛んでいく。


「まだ……」


 多少剣が短くなろうとも戦える。

 ライナスはどうにか攻撃しなきゃと魔力を噴出させて剣を振り下ろす。


「焦りは戦いで禁物だぜ」


 始まりは小さな苛立ちだった。

 ジケが粘って防御する中でライナスに小さな苛立ちが生まれた。


 戦いは冷静さを欠いた人が負ける。

 全力での戦いだけど、装備や魔獣禁止なところからすれば本気の戦いではない。


 小さな苛立ちが、ジケの冷静な攻撃を前にあっという間に大きな焦りとなった。

 判断に迷いが生じ、剣先を失った。


 今も攻撃ではなく、思い切り下がって仕切り直すべきだったのだ。


「はっ!」


「あっ!?」


 ジケは下から剣を振り上げた。

 ジケの剣とライナスの剣が一瞬交差する。


 次の瞬間、ライナスの剣が根本から切れて、空高く飛んでいってしまった。


「諦め……るかよ!」


 たとえ往生際が悪いと言われても、あっさりと負けを認めるわけにはいかない。

 ライナスは柄だけになった剣を投げ捨ててジケに殴りかかる。


「俺の……勝ちだ!」


「ンゴっ!?」


 これが誰もみていない戦いなら殴り合いに興じてもよかった。

 だけどこれは一応他の人も見ている試合である。


 ジケはライナスの拳をかわすと剣を頭に落とした。

 ゴンッと鈍い音が響き渡って、ライナスが涙目でフラフラと後ろに下がる。


「くそっ……ずっこい……ぞ……」


 せめて金属の剣だったなら。

 そんなことを思いつつライナスは白目を剥いて後ろに倒れた。


「勝者ジケ!」


 激しいライバルの戦い。

 固唾を飲んで見守っていた観客たちは惜しみない歓声を送る。


「ふぅ……運が良かったな」


 運のみで勝ったわけではないが、戦いの状況としてジケの方が有利だった。


「フィオスの面倒見てくれてありがとな」


 ステージを降りたジケはフィオスを迎えにいく。


「怪我はない?」


「ああ、ないよ」


 まずそれか、とジケは思わず笑ってしまう。


「激しい戦いだったね」


「ああ……負けられない戦いだったからな」


 ジケはエニの目を見つめて微笑む。


「何? その目……」


「なんでもない。ただちょっとだけ……前に進んだんだ」


 エニはジケに見つめられて照れくさそうに頬を赤らめる。

 この勝負が全部ではない。


 本気のライナスと戦えば勝負は分からないなとジケは思った。


「あとは……棄権でいいかな。目立ちたくないし」


 武闘大会に参加する目的は果たされた。

 優勝してしまうとまた目立ちすぎてしまうので、ここらが引き時かなとジケは思っていたのだった。

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