異端がいたんです2
「……ということで入ってみると中に悪魔がいたんです。それで……」
手紙にも書いてはあるが、実際人からちゃんと聞くということも大切なのだろう。
ジケはしっかりと何があったのか悪魔と戦うことになった経緯を説明した。
バルダーは優しく頷きながら聞いてくれて、ウィリアは話のメモをとっていた。
「それは大変だったな。そして残されたのが……あの布の中にある笛ということか」
バルダーはテーブルに置かれている布の塊に視線をやる。
今の所危険な感じは一切ないが、話だけ聞いてみると危険物になるだろう。
布で巻いて、大神殿に持ち込んだのはいい判断である。
「一つ聞きたい」
「何ですか?」
どうやって倒したか。
なんて聞かれると答えられないなとジケはドキリとした。
「他に悪魔が落としたものはなかったか?」
「他に? ……どうだ、リアーネ?」
悪魔を倒したのはジケであるが、気づいた時にはもうダンジョンから運び出されていた。
悪魔が倒された後にその場にいたのはリアーネの方である。
「何かあったか……ジケのことしか見てなかったようなもんだからな」
リアーネはアゴに手を当てて、その時のことを思い出そうとする。
笛がジケと一緒に落ちてきたことは覚えている。
気味が悪いし触らないでおこうと思って、ジケの確認を優先したことも覚えていた。
「うーん……特に記憶にないな」
何かあった可能性はある。
ただリアーネの視界には入らなかったか、あるいは入っても気づかないぐらいに小さいか目立たないものだったのだろう。
少なくともダンジョンが無くなった後にあったのは笛だけである。
「そうか」
「何かあるんですか?」
「……いや、悪魔の証拠でもあれば楽だったのにと思っただけの話だ。まあダンジョンに現れたというし、悪魔の一部を持ち帰ろうとしても消えてしまう可能性はあるがな」
「そう……ですか」
何となく、そんなことではなさそうだとは感じたのだけど、だからといってどういうことなのかも分からないのでジケは踏み込まなかった。
「さて、悪魔に接触したのだから体に異常がないか調べておこう。体に触れるぞ」
バルダーはジケの肩に手をおく。
肩に置かれた手から魔力が流れ込んでいく。
「むっ?」
「えっ? な、なにか?」
バルダーの魔力が体の中を駆け巡る。
こうやって他人の魔力を流し込んで刺激してやると、悪魔の影響が顔をのぞかせることがあるのだ。
バルダーから声が漏れて、ジケはちょっと不安を覚える。
特別、体に異変はないけれど、何かあったのかと思ったのである。
「変わったな」
「…………何がですか?」
魔力を流し終えて、バルダーはフッと笑った。
「魔力の経路が太くなっている。君の魔力経路は細かったのに、全身の経路が少ししっかりとしているのだ」
体には魔力が流れる経路というものがある。
そこを流れて魔力が全身をめぐる。
魔力の経路にも個人差があって直接的な強さには関わらないものの、魔力の移動のしやすさなんかに関わってくる。
ジケの魔力の経路は細かった。
以前ボージェナルでの事件後もバルダーに悪魔の影響がないかを見てもらった。
その時は何ともなく、魔力の経路が細いのによくグルゼイの技術を習得してやっているなとバルダーは思っていたぐらいである。
だが今ジケの体を見てみると、魔力の経路がいくらか太くなっているのだ。
「悪魔の影響は見られない。魔力の経路が太くなったことは良いことだ! はっはっはっ!」
「いでっ!」
バルダーはそのままバンバンとジケの肩を叩く。
何があったのかは知らない。
基本的に魔力の経路は生まれ持ったもので変わらないのだけど、太くなったというのなら喜ばしいことである。
「普通魔力の経路が拡張するようなことがあれば、全身バッキバキになるのだが……心当たりはあるようだな」
ジケの顔を見てバルダーは目を細める。
ちょっと前まで歩くことすら厳しい状態だった。
まさかあの絶不調にそんな意味があったなんてと意外な思いだった。
ドラゴンの贈り物。
恨みに思った全身の不調に意味があったのなら多少は許してやろうかなとジケは思ったのだった。




