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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十九章

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畏怖せよ4

「好きに呼ぶといい。だが我が存在を僭称し、勝手なことをするのは許せないな……」


「せ、僭称だと……何を」


 黒いモヤは悪魔が作り出したものである。

 それなのに支配権を奪われて驚くことしかできない。


「畏怖するのは構わない。当然のことだからな」


 黒いモヤが悪魔の首を締め上げていく。


「だが、我が与えたものを奪い取り、我を偽ってくだらぬ児戯に利用するは許さない」


「与えたもの……偽る……まさか!」


 金色の瞳と強い圧力、それに普段聞き慣れないような言葉遣い。

 長年生きた悪魔はハッとしたようにジケの中にいるものの正体を察した。


「そんなバカな……なぜ……」


 悪魔の体が震える。


「なぜただのガキの中にドラゴンがいる!」


 ジケの中にいるのがドラゴンであると悪魔は思った。

 むしろ、黒いモヤの制御を奪い取れる存在などそれぐらいしか思いつかない。


 だがドラゴンという存在はほとんど表に出てこない稀有なものである。

 加えて人の中にいるなんて話は悪魔でも聞いたことがない。


「我はただの思念に過ぎない。この子の中にいるのは……ある種の運命なのかもしれない」


「何を言って……」


「偶然の出会いさ。古の約束。我は人に夢や希望を与えた。その時の残滓が巡り巡ってこの子に宿った。そしてそれをお前は奪い取ろうとしている」


 首だけではない。

 全身に黒いモヤが絡みついてミシミシと音を立てる。


「我の姿を侮辱するような使い方も気にさわる。その下手くそな笛が我のことを起こしたのだ。それは本来そんなことに使うものでもないだろう」


 ジケは剣をゆっくりと持ち上げる。


「お前は眠れるドラゴンを起こしてしまったのだ」


「や、やめろ……」


 ジケの剣に黒いモヤが巻きつくように集まる。


「このようにすることはいけないのだが……」


 剣に巻きついた黒いモヤが金色に輝く魔力に変わっていく。


「夢と希望を奪い、我に対する畏怖の念を悪用したお前を断罪する」


「嫌だ嫌だ嫌だ! せっかくこうして復活したのに!」


「運命が貴様を次に導くことがあれば、敬意を払い、畏怖することを覚えておけ」


「やらねばならぬことがある……力を集めて……」


「お前もドラゴンを怖がるべきだったな」


 金の魔力をまとった剣が振り下ろされる。


「どうしてこんな……」


 迫る金の魔力に対して悪魔は指の一本も動かせなかった。


「なんだ!?」


 ジケが消え、ライナスが水晶の箱の中に閉じ込められた。

 ビクシムもリアーネも怒りに燃えてどうにか悪魔を探し出そうとしたけれど、いくら攻撃しても悪魔の姿は見えない。


 だが急に黒いモヤのドラゴンの動きが止まった。

 何かをするつもりなのかと警戒していると、突然黒いモヤのドラゴンの中からまばゆいばかりの光が漏れ出した。


 一瞬閃光のように金色の光が走ったと思ったら、黒いモヤのドラゴンが二つに割れる。


「ジケ!」


 黒いモヤが消えていき、うっすらと金色の魔力に包まれて宙に浮くジケの姿が見えた。

 金色の魔力がフッと消えて、ジケが落ち始める。


 リアーネは剣を投げ捨てて走り、落ちてきたジケのことを受け止めた。


「いでっ!?」


 ジケの様子を確かめようとしたリアーネの頭に笛が落ちてきて当たる。


「これは悪魔が持っていた……」


 ビクシムは笛を拾い上げる。


「見ろ。子供たちが……」


 子供たちを捕らえていた水晶のような箱も黒いモヤとなり、そして消えていく。


「ん……」


「ライナス、大丈夫か?」


 ビクシムの近くにいたライナスが小さく声を上げ、目をしばしばさせる。


「何が……あったんですか?」


 寝起きのように頭がぼんやりしている。

 それでも悪魔と戦っていたことはライナスも思えていた。


「分からない。だが……戦いは終わったようだ」

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