笛の音色に誘われて4
「ななな、なんだよ……アレ? みんなどうしたんだよ?」
正気に戻ったライナスは涙目でみんなのことを見る。
「うわっ! 何これ!」
岩山の穴を見てライナスは驚く。
「お前ここに入ってこうとしたんだぞ」
「俺が? いつ?」
「覚えてないんだな……」
目がうつろだった時のことをライナスは覚えていないようだ。
ひとまず笛の音は子供に影響を与えるようであり、聞こえなきゃ影響は小さくなるみたいである。
多少手荒な手段だけど、衝撃を与えれば目を覚まさせることも可能なようだった。
「そっか……なんか笛の音を聞いてたらぼんやりして……あとは覚えてないや」
軽く説明してやるとライナスも状況を把握したようである。
「ここに入ろうとした……なんだここ? 暗いな?」
「……多分ここダンジョンだ」
「えっ!?」
「魔力感知で先が見えない」
ちょうど岩山は日を背にしている。
まだ顔を出したばかりの日では辺りは薄暗く、見えている穴の中が暗くてもおかしくはない。
だがよく見ると真っ暗で、少し先も見通せないのだ。
それは目で見てというだけじゃなく、ジケが魔力感知で先を見通そうとしても同じであった。
つまりこの岩山はダンジョンだということになる。
「笛の音が止んだな……」
ダンジョンの奥から聞こえていた笛の音が止んだ。
笛の音が止むと辺りは静寂に包まれる。
「ともかくこのダンジョンに子供たちがいそうだな」
笛の音の正体がなんなのかは分からないものの、子供たちがどうして急にいなくなって、どこに行ったのかは分かった。
また笛の音がすると面倒なので一度岩山を離れる。
「ダンジョンだなんて……どうしたら」
夫婦は困りきった顔をしている。
ダンジョンといえば何かしらのロマンもあるが、大体の場合魔物も出てくる危険な場所でもある。
子供たちのことも心配だが、戦いの心得がない人が軽く入っていいわけじゃない。
ひとまず夫婦を村まで送り届けた。
村とはいうが、大きな町に挟まれるような位置に存在しているために割と村としては規模が大きい。
村の大人たちも子供たちはどこに行ってしまったのかと憔悴しきっていた。
ダンジョンがあって、子供たちがそこにいるかもしれないという話に一旦は希望を持ったものの、やはりダンジョンというところに困った様子であった。
村は規模が大きいが、兵士や冒険者なんかもよく周辺を通るために魔物に対する自衛の手段もしっかりした備えがない。
ダンジョンに入って人を救い出せるような人員がいないのである。
いつの間にか日も完全にのぼり、子供たちを捜索していた他の大人たちも戻ってきた。
ただやはり人が増えても状況は進まない。
「これは厳しそうだな……」
仮に子供たちが生きていると仮定して、時間が経つほどに子供たちを助け出せる可能性は低くなるだろう。
しかし村を見るに今すぐ動ける状況ではない。
だが助けを求めても動き出すのは難しいかもしれないとジケは思った。
今は武闘大会の予選中である。
色々なところで札の奪い合いが起きていて、殺し合いに発展しないように色々なところに兵士を配置している。
すぐに兵士を動かすのは難しいかもしれない。
加えて冒険者の方は武闘大会に参加しているような人も多いはずで、こちらの方も動いてくれるような人がいるのか分からない。
このままだと手遅れになる可能性がある。
「なぁ、ジケ」
「なんだ?」
ライナスがこっそりとジケに声をかける。
「このままほっとけないよな?」
「……まあな」
流石にこの状態を放置して行くのは罪悪感が芽生えそうだ。
「一人さ、心当たりあるんだけど」
「なんのだ?」
「手伝ってくれそうな人」
「ダンジョン攻略するつもりか?」
「だってそれしかないだろ?」
ライナスはやるつもりだった。
このまま子供たちを見殺しにはできない。
何が待ち受けているか分からないが、ダンジョンに入るつもりであるのだ。
「ちょちょっと行って連れてくるからさ! 待っててくれよ!」
ライナスは助っ人を呼んでくるらしい。
「あっ! 札守ってくんね?」
「分かったよ。行ってこい」
「オッケー! 待ってろよ!」
ライナスはセントスにまたがると走っていってしまう。
「誰連れてくるつもりなんだか……」
ジケは預かった札をフィオスの中に取り込んでもらって、ライナスの背中を見送ったのだった。




