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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十九章

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笛の音色に誘われて2

「お前の札が?」


 ジケが体を起こすとすでにリアーネも起きていた。


「俺のもそうだし……お前のもだよ!」


「うそっ!? ……本当だ。どうやって……」


 ジケは慌ててフィオスを見る。

 札はフィオスに守ってもらっていた。


 フィオスの体の中に入っていたはずの札が一枚ないのである。


「なんで……どうやって?」


 すごく不思議だ。

 フィオスがちゃんと守っていたはずなのにどうやって札を盗んだのか。


 スライムが無害というのは多くの人が知っているが、それも自分から手を出さない時ということも同じく知られている。

 色々なものを溶かしてしまうという性質があって、ただちょっと触るだけならともかく、スライムの中に手を突っ込む人はいない。


 実際生きているものを溶かすのは得意じゃなく、わざと長時間手を突っ込んでいない限りは大丈夫なんてことは、スライムマスターなジケぐらいしか知らない。

 だが一般の人で札を盗むためにそんなことする人はいないはずなのである。


 ただ仮にスライムに手を突っ込む勇気がある人がいてもおかしい。

 逆にそんな人がいるなら札全部持っていくだろう。


 なのに盗まれたのは一枚というのも変なのだ。


「誰が盗んだんだ?」


 それにライナスが見張っていたのに盗まれたのも不可解だ。


「妖精だよ!」


「妖精?」


 何を言い出すんだとジケは眉をひそめる。


「ウソじゃないって! 妖精が何匹かいて、俺とかお前の札盗んでったんだって!」


「妖精……札を盗むこともある……のか?」


 妖精という魔物はいる。

 比較的危険度の低いモンスターであるが、人にイタズラをすることもある。


 時に凶暴性を見せるが、基本的には大人しめな魔物である。


「今はリアーネさんの魔獣が追いかけてくれてるから、早く行こうぜ!」


「……分かった!」


 ともかく札を盗まれたままじゃいけない。


「あっちだ、いくぞ!」


 見ると空はうっすらと明るい。

 夜明けの妖精追跡が始まったのだった。


 ーーーーー


「フィオスが自分から札を?」


「ああ、そうなんだ」


 リアーネについて走りながら何があったのかライナスが説明する。

 ライナスが言うには急に何匹かの妖精がフラフラと現れたのだそうだ。


 休憩所で泊まって休んでいるのはジケたちだけで、しばらく遠巻きに妖精は観察するようにしていた。

 ライナスもちょっと気にしながら見ていたのだけど、ふと妖精が一匹、フィオスに近づいた。


 フィオスの上に座って何かしていたと思ったら、急にフィオスが札をぺっと吐き出したのである。

 驚くライナスをよそに妖精は札を掴んで飛んでいき、気づいたら他の妖精もライナスの札を盗み出していたのだった。


「妖精捕まえようとしてるとリアーネさんが起きて……」


 札を盗まれたライナスが妖精を捕まえようとしているとリアーネが起きた。

 リアーネも札を盗まれていて二人で捕まえようとしたのだけど、妖精に逃げられてしまった。


 札を多めに持っているリアーネが少しぐらい盗まれても構わないが、ジケとライナスは盗まれたら札を集めねばならない。

 リアーネがケフベラスを呼び出して妖精を追いかけてもらい、ライナスはジケを起こしたのだった。


「フィオス? 何かあったのか?」


 ジケは抱えているフィオスにチラリと視線を落とす。

 走る振動でプルプル震えるフィオスは何も答えない。


 ライナスの話を聞く限りではフィオスは自ら妖精に札を差し出していることになる。

 なんでそんなことをしたのか。


 ジケに見られたフィオスは気まずそうにちょっとだけ体をへこませる。


「……何かあるんだろうな」


 三人それぞれ札を一枚ずつ盗まれた。

 フィオスが自分から札を妖精に渡したことも含めて考えるとただのイタズラではなく、何かがあるのかもしれないと思った。


「ケフベラス!」


 走っていくとケフベラスの姿が見えた。

 体を低くして、高いところにいる妖精にうなっている。


「ここはなんだ?」


 妖精は奇妙な岩山の上にいる。

 家ほどの大きさがありそうな岩山が林の中に急にあってジケは妙だなと思った。


「おい! 札返せよ!」


 ライナスが怒ったように妖精を見る。

 ひとまず今は場所の奇妙さよりも札である。


「えっ? あれ?」


 ライナスに怒鳴られた妖精はポイッと札を投げ出した。

 岩山を転がって札が落ちてきて、ライナスは驚いてしまう。


「思いの外あっさり返してくれるんだな……」


 ジケが札を拾い上げて確認する。

 札に変わったこともないので、盗まれものに間違いない。


 見上げてみると妖精はまだジケたちのことを見ている。


「……何が目的なんだ?」


 一応妖精に声をかけてみる。

 けれども妖精も答えない。


「誰だ!」


 人の気配を感じてリアーネが剣に手をかける。


「あっ……あなたたちこそこんなところで何を……」


「あなた、そんなことより!」


 現れたのは中年ぐらいの男女だった。

 夫婦のようである。


「子供を見ませんでしたか?」


 こんな時間に出歩いているジケたちに男の方は少し訝しむような顔をしたが、女の方はなんだか余裕がないように見えた。


「子供?」


「ここには俺たち以外いないけど」


 子供なんて見ていない。

 ジケたちは顔を見合わせる。

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