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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十九章

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笛の音色に誘われて1

「げっ、暴れ女だ!」


「あいつには手を出すな!」


 どんな作戦で札を手に入れるかは人それぞれだ。

 隠された札を探す人もいれば、町中で札を持っていそうな人を探す人もいる。


 だが他の作戦を取る人だっているのだ。

 札を集めた人がどうするかなんて分かっている。


 コロシアムに行って、札を提出するのである。

 つまり町を出る人は札を揃えている可能性が高いということだ。


 わざわざ町中で札を持っているか持っていないかどうか見極め、倒せそうか倒せなさそうか見極め、それでも戦って札を持っていないなんて可能性よりも、町の外で待ち伏せして札を持って帰ろうとしている人を襲う方が確実だと考える人もいる。

 出発するジケたちを見てヒソヒソと会話する人がいた。


 襲いかかってくるかなと警戒していたのだけど、リアーネの顔を見て逃げ出してしまった。


「ちょ……人のこと暴れ女って!」

 

 挑戦してくる者全員のことを正面から叩き潰したリアーネの噂は広まって、暴れ女なんて不名誉なあだ名を付けられていたのだった。

 町を出る人に目をつけて、札を奪おうとしていた人は暴れ女には勝てないと逃げたのである。


 流石に暴れ女なんて言われるのは心外だとリアーネは拗ねたような顔をしている。


「失礼だな。こんなに可憐な少女なのにな」


「う……可憐も恥ずかしいけど、少女って年でもねぇよ……まあ、悪くない……? いや、やっぱ恥ずかしいな」


 これがコイツの悪いところだなとライナスは目を細める。

 ジケとしては場を和ませる冗談だったのかもしれないが、リアーネは顔を赤くして満更でもなさそう。


 仮に同じセリフを思いついたとして言えるだろうか。

 多分言えないし、言ったところでかなり嫌味っぽい冗談に聞こえるかもしれない。


 そもそもこんなセリフを瞬間的に思いつきもしない。

 こんなのだから周りに女の子が多いのだろう。


 羨ましいと思う反面、自分はこうなれないなとライナスは思う。

 だがジケとしてもそこまで意図していない発言なのだからタチが悪い。


「なんだよ?」


「なんでもねぇよ」


 暴れ女を一瞬で女の子にしてしまうのだからジケは悪い男であるとライナスは小さくため息をついた。

 ともかく、リアーネのおかげでスッと町を出発することができた。


 行きは景色なんて流れていくようで、見ている暇などなかった。

 帰りは多少のんびりと歩いて景色でも楽しむことにする。


 町に近いところには畑がある。

 牧歌的で落ち着いていて、歩いていても気分がいい。


 畑になっていて見晴らしがいいので魔物をそんなに警戒しなくてもいいところもまた良いのだった。

 札は各々で管理している。


 ジケは札をフィオスに任せている。

 フィオスの中では三枚の札がくるくると回転していた。


「ふぁ……こう平和だと眠くなるな」


 今のところ魔物も襲いかかってきそうな人もいない。

 平和なのはいいけれど、ただ歩いているだけなのも暇だとライナスは大きな欠伸をする。


「まあ、いいじゃん、平和」


「悪いとは言わないさ。でも暇だなって」


「それは否定できないよな」


 ライナスにリアーネも同意する。

 魔物に絡まれながら帰りたいとは思わないが、一回ぐらいなら戦ってもいいかもしれないとも思うのだ。


「俺は暇好きだからな……」


「嘘つけ」


「嘘なんかじゃないって」


 ここまで忙しく走り抜けてきた。

 けれども最後にはのんびりしたい、という目標のために頑張っているのだ。


 暇を楽しみ、暇に過ごす。

 そんな日々を夢見ているのだから暇が好きなのである。


 ただ周りから見れば、ジケは常に何かしているように見える。

 何かを考え、何かの計画を抱え、なんだか忙しなく動いている。


 暇なんて作らない人に見えていても仕方ないのであった。


「私としては微妙なところだな」


 リアーネは少し悩んでしまう。

 ジケの騎士や護衛としては危ないことはしないでほしい。


 ジケが平穏無事に暮らしてくれれば、リアーネとしても嬉しいところはある。

 ただジケが平和だとリアーネも平和だということになる。


 悪くはないかもしれないけれど、多少の刺激は欲しかったりするのは仕方ない。


「とりあえず町までは何もなきゃいいんだけどな」


 この先も何もないということは厳しいだろうことはジケも分かっている。

 何かの事件はあるだろう。


 でも町に戻る今は何もなきゃいいなと思ったのだった。


 ーーーーー


「……ケ…………ジケ!」


「んあっ?」


 休憩所で寝ていたジケは激しく揺すられて目を覚ました。

 久々に硬い地面で寝たけれど、やっぱりアラクネノネドコは欲しいなと思った。


 目を開けるとライナスがジケのことを覗き込んでいる。


「なんだ……交代の時間か?」


 寝ている間に札を盗まれることもある。

 だから一応交代で見張りをすることにしていた。


 ライナスの次はジケだったのでそろそろ交代だったのかと体を起こす。


「違うんだよ!」


「何が違うんだよ? 交代じゃないのに起こしたのか?」


「だってよ……」


「少し落ち着け。何があった?」


「札が盗まれたんだよ!」


「……なんだって?」


 ライナスの言葉にジケは半分寝ていた意識が一気に覚醒していく思いだった。

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