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【第十九章完結】スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~  作者: 犬型大
第十九章

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師弟対決2

「開いてんな」


「確かに開いてんな」


 契約場も一応公共の施設である。

 ただ契約にしか使わないために、普段は閉じられていたりする。


 人に道を聞いて契約場までジケとライナスはやってきた。

 閉められているはずの契約場が、開いていることをちょっと離れたところから確認していた。


 何かがありそうな気配はしている。

 けれど他の人が出入りしているような様子もない。


「とりあえず行ってみるか」


 ウェザーラの言い方だと札を隠してあるんじゃなくて誰がいるはず。

 ジケとライナスは契約場に向かう。


「あら、可愛らしいお客さんね」


 受付には暇そうにしているお姉さんがいた。

 ジケとライナスを見て受付のお姉さんはにっこりと笑う。

 

「奥に入っていいわよ。そこで親友を見せて……あなたの望みを伝えなさい」


「望み?」


「ええ、それによっては大変だけど、あなたたちなら大丈夫よ」


 望みってなんだとジケとライナスは顔を見合わせる。

 ともかく契約場に何かあることは間違いない。


 笑顔のお姉さんに見送られてジケとライナスは契約場の奥に入っていく。

 モンスターの暴走が起きても壊れないように、天井のない円柱状の中庭が契約を行うための場所である。


「あれは……」


「うげっ!?」


 契約場のど真ん中には一人の男性が立っていた。

 男性を見てライナスがすごく嫌そうな顔をした。


「ほう、お前たちはこっちに来たのか」


「し、師匠!?」


「なんでビクシムさんがここに?」


 契約場にいたのはビクシムであった。

 王様を守るロイヤルナイトの一人であり、ライナスの師匠である人だ。


「色々とあってな」


「ジケ、帰ろうぜ……」


 ライナスはゲンナリした顔をしている。


「ここまで来てただ帰るなど許さんぞ」


「一体何させるつもりですか?」


「俺の役割は言うなれば、一つの試験官だ」


「試験官?」


「まずは親友を見せてみろ」


「わかってるくせに……」


 ライナスはセントスを呼び出す。

 ジケは最初からフィオスを抱えているのでそのままである。


「俺の親友のフィオスです」


「セントスです……」


 フィオスはプルンと揺れ、セントスはビクシムを前にピシッと背筋を正してお座りしている。

 セントスもライナスと一緒にビクシムに手ひどくやられた記憶があるので、逆らうような態度も取らないのだ。


「ふむ、よし。札を何枚望む?」


「札を何枚って……」


「一枚から三枚……あるいはもっと欲しいならそれでもいいぞ」


 望みとはこういうことだったのか。

 ジケはようやく納得した。


「……でもタダじゃないですよね?」


 欲しい札の枚数聞いて、そのまま渡してくれるはずもないとライナスは疑いの目をビクシムに向ける。


「ははっ、さすがは俺の弟子だな。そうだ。何事も簡単にはいかないものだ」


「何をさせられるんですか?」


「聞いているだろう? 俺に認められればいいんだ」


 ビクシムは剣を抜く。


「あー、嫌だ」


 何をさせられるのかジケもライナスも分かった。

 認めさせるのは力。


 札を受け取り、予選を突破するのにふさわしいと認められればいいのである。

 自信があるなら三枚の札を要求して戦い、自信がないのなら一枚の札を要求して戦う。


 おそらく札の枚数で合格の基準が上下するのだろう。


「自分の札は持っているな?」


「持ってるけど……一枚コースで……」


「ダメだ。二枚コースだな」


「くぅ……」


 ライナスは肩を落とす。

 一枚持っているのだからもう一枚あれば事足りる。


 そう思ったのだけど、ビクシムも甘い師匠ではない。


「がんばれ〜」


「お前ら……この……」


 ジケはスーッと離れて壁際でライナスの応援を始める。

 ついでにセントスもジケの後ろに隠れて、ライナスを応援するように鳴いていた。


「くそっ……今日こそ師匠倒してやる!」


「はははっ! その意気だぞ!」


 こうしてライナスとビクシムの師弟対決が始まった。


「くらえー!」


 ビクシムと距離を詰めたライナスは剣を振り下ろす。

 魔力を噴出させて加速を得た剣は、一瞬でビクシムに迫る。


「師匠に対しても容赦のない一撃……いいな」


 かなりの速度の一撃だった。

 しかしビクシムはライナスの剣を正確に見抜いていた。


 左足を半歩下げて体を横に向けるという少ない動作で攻撃を回避してしまった。


「速いな……」


 今ならなんとなく二人の動きも分かる。

 魔力で体を保護しながら、魔力を噴出させて加速を得る。


 ただ加速しっぱなしではなくて、逆噴射もさせて無駄な動きにならないようにコントロールしていた。

 ビクシムは体の動き一つにも魔力をわずかに噴出させたりして高速で動いている。


 ライナスも必死に食らいついているが、同じく加速しているのではなく経験に基づいてなんとか対処しているに過ぎない。

 自分ならどう戦うかをジケは頭の中で想定する。


 素早い一撃は驚異的であるが、攻撃はやや直線的だ。

 急な停止や急な加速ができるので動きを曲げることもできるけれど、柔らかく動いてくるような感じではない。


 ジケの剣技はグルゼイから習ったものであり、柔らかく動き、魔力感知による先読みも駆使している。

 どう動くのかを先読みすれば、攻撃の防御や回避もできるかもしれないとジケは真剣に戦いを眺めていた。

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