第九話……利水工事と家
「ロバート、君は土壌や地質に詳しいか!?」
「……ぇ? そのようなものは存じませんよ」
あれから私は盗賊討伐を3つこなし、ジェスター男爵家の家宰様に気に入られて、男爵の屋敷によく出入りするようになっていた。
今日も男爵のお屋敷に、家宰様から呼び出しを受けていたのだ。
「それは困ったなぁ……」
「家宰様、どうなさったのです?」
「いやなに、近隣の集落の収穫が思わしくなくてな。何とかしたいと思っていたのだよ。その点、君は各地をまわっており物知りだ。なにか対策を知っているとおもってな……」
「それはどこの集落なのです?」
そう尋ねると、家宰様は机に地図を広げた。
「丁度このあたりだ。よければ見に行くだけでも行って欲しい」
「わかりました!」
私は荷馬に荷物を積み込み、指定された集落に向かった。
☆★☆★☆
「この有様でして……」
「ふむう」
集落に着き、家宰様の使いの者と告げると、年長の者が畑を案内してくれた。
土を触ると乾燥しており、見るからに栄養がなさそうな土だった。
「……なんとかなりませんかね?」
「魔法でもないと無理かなぁ?」
「あはは、御冗談が巧い!」
集落の年長者には冗談に聞こえたらしい。
……が、私はこのゲームでは土属性の魔法が得意なのだ。
しかし、どうもこの世界では魔法の存在を聞かない。
ゲームのチャンネルさえ変えた世界なら、魔法は幾らでも存在する世界だったのにもかかわらずだ……。
私は魔法の存在する方の世界へと移り、土壌の向上の魔法の書を漁ってみた。
……が、意外なことに無い。
土壌を汚染や浄化する魔法はあっても、豊かにする魔法は私が調べた中には載っていなかったのだ……。
「なぁ、ハルノブ。土壌を豊かにする魔法ってないかな?」
サービスが終わろうとしてもゲームに入って来るオトコ。
ゲーム廃人のハルノブにも聞いてみたが、
「聞いたことないなぁ、そもそもゲームにそんな魔法要らないだろう? 魔法って傷を治したり、敵をやっつけるためにあるだろ?」
……たしかにそうだ。
生活系のMMOでも土壌改良の魔法があるゲームは少ない。
この『黒い王城』というゲームは、そもそも生活系のゲームでは無かったのだ。
「あ、ありがとうハルノブ。またな!」
「おう、てかお前、最近ゲームに熱心だよな。なんかあったのか?」
「……いやなに、ちょっと気が向いただけさ!」
……大嘘だ。
同じゲームのもう一つの世界であるチャンネルに入りびたりである私。
とてもハルノブのことをゲーム廃人呼ばわりできない最近である。
私は再びチャンネルの選択に戻り、ゲームの世界を選びなおした。
☆★☆★☆
――三日後。
「ロバートさん、何をしているんです?」
「いやなに、これを近くの小川まで運んでもらえないだろうか?」
家宰様と相談したのだが、この辺りは利水がうまくいっておらず、十分に水がきていないとの調査結果が出たのだ。
主たる用水路も壊れ、修理が必要だった。
しかし、遠くの山から補修の材料になりえる岩を切り出すのは苦労が絶えず、この集落の利水工事は行われていなかったのだ。
そのため私は、積み上げたり組んだりをし易く加工したブロックの生成を試みたのだ。
私は土壌改良を諦めたが、辺りの土を魔法で硬質化させたブロックを昨晩中に無数に拵えた。
これを小川まで運んで、堤にしたり、用水路にしたりと使ってもらうとしたのだった。
「いいでしょう。やってみましょう!」
「お願いします!」
集落の年長者の働きかけにより、集落中の若者がブロックの運び出しと積み込み工事をしてくれた。
ジェスターの街から来た土建技術者の指導もあり、数日後には整備された水を漏らさぬ用水路の修理が無事に完成。
乾いた畑に水が導かれると、集落中から歓声が上がった。
「やりましたな! ロバート殿のブロックのお陰で集落に水が来ましたぞ!」
「ええ、意外と上手くいくものですね」
「いやいや、ありがとうございました!」
年長者の賛辞に照れる私。
もちろん主たる工事を担ったのは村の若者たちであったが、材質のいいブロックがなければ工事が難しかったのは誰が見ても明らかだった。
私は集落で小さくも誠意ある歓待を受けたあと、ジェスターの街に戻った。
――後日。
ジェスター男爵の館にて。
「ロバート殿! いやいやよくやってくれた。盗賊の退治も巧いが、利水のことまでできるとは……」
どうやら、家宰様に『殿』付きで貰える立場になったらしい……?
「どうかな? 我が男爵殿に仕えてみては如何かな?」
「……ぇ?」
どうやら仕官させてくれるらしい。
「いやいや、私はこっちの方が好きなので!」
私はニンマリとした顔で、ご褒美の入った銀貨の袋を頂戴する。
仕官は悪くないが、私はもう少し自由でいたかったのだ。
「……では、お住まいだけでも手配させて頂きますぞ!」
「あ、はい」
どうやら、他の地域に移ってほしくないのだろうか。
あまり断るのも悪いので、家の件は有難く受けることに決めた。
よってこの日、私は行きつけの宿から、小さな貸家に住み家を移すことになった。
この世界の私の初めての住み家。
それは都合4部屋もある、比較的大きめの家だった。
……ただ、隙間風がはいるほどボロかったのだが。
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