第五話……騎士『シェリル』
「出発!」
我々の軍隊は、先頭にジェスター男爵が率いる正規軍。
続いて、我々傭兵部隊が続いた。
その数、併せて約250名といったところだった。
「俺様についてくればいいんだよ!」
「……へぃ」
ケインズが渋々と応える。
我々傭兵の取りまとめの役は、とある若い騎士が務めることになった。
その騎士の態度にケインズは不満そうだ。
「貴様ら傭兵は忠義というモノがないよな……。はぁ、まるで人間というモノがなってないよな」
「……はぁ」
「気のない返事だな。だから貴様ら傭兵は何時になっても立派な人間になれんのだ!」
私は若い騎士に説教された。
まぁ思い出すに、現実の会社でも同じようなことは起こった。
本社からやってきた学歴の高い若手に指導されるのだ。
別に指導されたからと言って、成績が上がるわけでは無いのだが……。
行軍の最中、ずっと説教だ。
我々が徒で歩く中、彼は従者がひく馬に乗っていた。
その姿は現実社会の上司に似ている。
私が出会う偉い人は、いつも上からものを言ってくるものだった……。
我々はジェスター男爵の寄り親である、とある侯爵様の援軍に行くらしい。
その侯爵は城を包囲され、我々の到着を一日千秋の思い出で待っているそうである。
……その侯爵に悪いが、若い騎士のせいで、私の足取りはあまり軽くはなかった。
☆★☆★☆
「全体止まれ!」
我々は三日の行軍の末の夕暮れ時。
眼下に敵陣の見える丘に着いた。
敵が城を包囲している様子がおぼろげに見える。
敵は城に対し柵を施し、攻城兵器を並べ、包囲を厳重にしていた。
敵は思ったより多い。
……勝てるのだろうか?
「敵数2500!」
「報告ご苦労!」
斥候が敵の数を報告してくる。
……こちらの10倍だって?
冗談じゃない。
「いいか、戦いは数ではない! その心意気である。皆の忠誠の見せ所だ!」
若い騎士が我々に咆える。
……いや、数も大切だろう?
「シェリル殿、無理はいかんぞ!」
同僚の騎士が若い騎士を窘める。
どうやら若い騎士の名はシェリルというらしい。
「いやいや、我が武勇をお見せ致す! 傭兵部隊突撃!」
……ぇ?
私達は顔を見合わせた。
我々は戦場に着いたばかりで、休息もとっていないのだ。
というか、既に晩御飯の用意をし始めている者もいた。
「貴様ら、何を休んでいるのだ! 突撃だ!」
「……へぃ」
ケインズが『いくぞ!』とばかりに、静かに目線を送って来た。
アインやハティも剣を構える。
「シェリル殿!?」
「兵は神速を貴ぶ、傭兵隊かかれ!」
同僚の声を遮り、シェリルは突撃命令をだした。
角笛が吹かれ、我々は給金の為に命に従った。
我々傭兵隊は僅か150名。
高地からとはいえ、雲霞の如き数の敵に突っ込む嵌めになった。
我々傭兵隊は丘を駆け降り、大声を上げて敵陣に殺到した。
すぐに、どこに誰がいるのかもわからなくなる。
「「「うわああ!」」」
「敵襲!」
意外なことに、こちらが丘を駆け降りると敵が怯んだ。
まさか、少数で突っ込んでくるとは思っていなかったらしい。
「敵は怯んだぞ、かかれ!」
後ろからシェリルの声が煩い。
私は弓に矢をつがえ、敵陣に次々に放った。
刹那、敵陣から三倍返しの数の矢が飛んでくる。
私は急ぎ背中の盾を構えるが、多くの傭兵たちは盾を持っていなかった。
そのため、次々に体に矢を受け、倒れていった。
「敵は少数だ! 掛かれ!」
敵は此方の数が少ないことに気づき、一斉に陣を飛び出してきた。
すぐさま、あちらこちらで白兵戦闘がおこなわれた。
「あれが大将首だ! 手柄だぞ!」
敵からすれば、我々傭兵を倒したところで手柄になるわけがない。
敵兵の目当ては、我々を指揮する騎乗騎士のシェリルだった。
「皆の者、忠義の為に戦え!」
シェリルは声を荒げるが、数に劣る傭兵隊は総崩れだった。
皆、戦いをそこそこに、武器を投げ捨て、争うように逃げた。
その時、丘の上の本隊から角笛の音が響く。
撤退の合図だった。
「貴様ら、俺より先に逃げるな! 踏みとどまって俺様の逃げる時間を稼がんか!」
こうなると、先ほどまで偉そうにしていたシェリルの態度が一変する。
彼も丘の上を目指して、逃げることに必死だった。
私は剣を鞘から抜き、逃げながらに剣を振った。
お世辞にもカッコイイ態ではない。
……しかし、私は必死だった。
捕まれば、殺されないまでも身ぐるみを剝がされるだろう。
それは今までの稼ぎを、すべて取られることを意味していたのだ。
「助けてくれ、おいて行かないでくれ!」
傷つき倒れた同僚が、必死に助けを求めてくるが、こちらにもそんな余裕はない。
……ただ、必死に逃げるのみだ。
追いすがる敵の腕を切り飛ばし、胴を蹴飛ばす。
剣を振っては後ろに下がり、また立ち止まっては剣を振った。
……必死に逃げる。
それ以外の言葉が一切思いつかないような戦い。
「おおう!」
敵から歓声が上がり、我々への執拗な追撃が止んだ。
安全なところまで逃げた時に分ったことだが、シェリルが敵に捕まったらしい。
金にならない我々傭兵は、見逃されたわけだった。
我々は仲間の多くが傷つき、また多くが敵に捕らわれとなった。
捕まった者は、身代金が払えねば殺されてしまう世界。
……これが、私が初めて経験した『戦い』であった。
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