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第十六話……鎧クマのクマ太郎

「出でよ、火炎の雷。ファイアボルト!」


 ……先手必勝。

 私は鎧クマに火炎魔法を叩きこんだ。


 火炎が掌より迸る。



「……ググゥ……」


 ……げげ。

 魔法でできた火炎は、銀色に輝く鎧に吸い込まれた。

 きっと、魔女のナンシーが魔法を使わなかったのには、こういう理由があったのだ。



――ガシッ

――ガシッ


 クマが両刃の大刀をふるってくるのを、盾で受け止める。

 相手は文字通りの獣。

 凄まじい怪力だった。


 だが、こちらもただの人間ではない。

 ガウから付与された魔力は絶大だった。



「……宿れ怪力。エンチャントウエポン!」


 私の唱えた呪文に、私に宿る魔界のプリンスが応じた。

 すぐさま、私の肉体に、はち切れんばかりの膂力が宿る。



「でやぁ!」


 私は渾身の突きを放った。

 刀身はクマが着込んだ鎧の隙間に吸い込まれる。



「ギャァァアアア!」


 クマが絶叫し、鎧の隙間からは鮮血が迸る。

 その血の色は蒼く、このクマが単なる熊ではないことを現していた。


 ばったりと倒れるクマ。



「ふぅ」


 ……意外とあっけなかった。

 鎧クマは大の字で私の足元で蹲っている。



「痛いクマ……、助けてクマ」


「ぇ……!?」


 なんだかかわいらしい声に変わるクマ。

 しかし、大怪我を負ったクマを助ける術はないのだが……。



「助けてくれたら、なんでも言うことを聞くクマ……」


 よく見たらクマの眼もとに涙。

 どうやら泣いているらしい。

 私は徐々に助けてみたい気になっていく。



「ナンシー、何とかなるかな!?」


 私は後方で休んでいた魔女のナンシーに尋ねた。



「……いいですわ。高くつきますけどね」


 魔女は二ッと笑った。

 彼女は壺に入った軟膏を取り出し、魔法を添えてクマに塗ってあげた。

 みるみるうちに、クマの出血が止まった。



「ぉぉ!?」


 味方の傭兵から感嘆の声が漏れる。

 彼等は、治癒の魔法を見るのが初めてだった。


 ……何のことはない。

 私も見るのが初めてだったのだが。


 私は魔法の道具入れから包帯を取り出し、クマに巻いてやった。



「ナンシー、傭兵たちの手当てを頼む!」


「はいはい!」


 後で知ったのだが、彼女は戦闘より治療行為の方が得意な魔女らしい。

 そう言えば、彼女は以前、人里で薬屋をやっていたよね。



「……でクマ、言うことを聞いてくれるんだよな?」


「……っ、はいクマ」


 全高2mに達する鎧クマに、何を頼もうかと考える。


 よく考えたら、全身鎧を着たままなら、クマってバレないよね?

 きっと、人里におろしても大丈夫だよね?


 ……よし、配下にしてしまおう!



「クマさん、今から私の僕になりなさい!」


「……それには、条件があるクマ!」


 ……!?

 なんだと。

 この期に及んで条件があるのか。



「この森のクマには手を出さないって約束して欲しいクマ……」


「……ぬうう!?」


 意外なことにこれは難題だった。

 山に食料を求めているのは何もクマだけではない。

 人間も木の実や芋など、山の幸の恩恵に与っていたのだ。


 ……だが、クマの話を聞くにつれ、それは大した問題ではないことが判った。

 この鎧クマを通して、クマと人間のテリトリーの線引きを、念入りに交渉できるとのことだった。



「……よかろう」


「じゃあ、僕になるクマ」


「ちなみにクマだと呼びにくいな。名前はないのか?」


「……ないクマ」


「じゃあ、今からお前はクマ太郎だ!」


「了解クマ!」


 こうして私は、傭兵隊長として貴重な戦力を手にした。

 全高2mほどとはいえ、クマ太郎は立派なクマ。

 その筋力は人間の比ではなかったのだ。


 ちなみに、周辺で人間と揉めるクマと、このクマは別個の個体らしい。

 よく考えれば、当たり前だ。

 こんなのと普通の人間が出会ったら、瞬殺されてしまうだろう。


 この後、私は山を降り、周囲には鎧の勇者を雇ったと喧伝。

 部下の四名の傭兵にも内緒にするように言い含めた。


 こうして野生の……?

 ……いや、魔物崩れの熊を仲間にしたのだった。



「……いてて」


 ダークロードのガウを憑依させた痕が痛い。

 私は家に帰ってから、三日三晩痛さに耐えることになった。




☆★☆★☆


――数日後。

 あばら家に等しき我が館に、プロトン王家から勅使が来た。

 大きな白馬に跨り、金糸で刺繍された絹の服をまとった、如何にもやんごとなき風の二人連れである。



「……汝に、騎士爵位とミューゼル家の家門を授ける!」


「はっ、謹んでお受けいたしまする!」


 私の名はロバート。

 つまるところ名字がない。

 騎士様に名字がないというのはイカンということで、以前に絶えたミューゼル家の家督を頂戴することになったのだ。


 こうして私は王家に認められ、与えられた領地はミューゼル領として、正式に私のモノになった。



「旦那様、おめでとうございますわ!」

「おめでとうクマ!」


「「おめでとうございます!」」


 その晩は周辺の村人も招き、ささやかに宴を催す。

 別段ご馳走も出ないのだが、葡萄酒だけはジェスターの街で買ってきたのが好評で、村人たちに大いにふるまったのであった。

 そして、愛馬のスコットにもニンジンをたっぷりとあげた。


 ささやかな宴であったが、それは私が村人たちに領主と認められた瞬間であった。

 

☆★☆


お読みいただき有難うございます。

お気に召しましたら、ブックマークやご採点をいただけると大変嬉しいです。

誤字脱字報告も大変感謝です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] デカい身体で『…クマ』語尾の、愛嬌あるクマさんが仲間になり、ロバートさんも正式に騎士になり、順風満帆ですね♪ [一言] やっかいごとのフラグが立った予感が……。
[良い点] ヽ(=´▽`=)ノくまさんキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!! ますます楽しみになって来ましたね(*´艸`*)
[一言] クマさんが仲間になるのは初めてでしょうか。
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