第十二話……土地の購入と講義
「まいどあり! では、これが権利書となります」
「ありがとう」
私は貯めていたお金を使って、ジェスターの街の郊外の農地を少し買ってみた。
栽培の技法などはよく分からないが、近くの農家から苗木を貰ってきて植えてみた。
早く大きくなって実をつけて欲しいと願った。
……しかし、実がなると言っても、それは当分先のことだ。
ゲームの中で待つだけはつまらない。
「ナンシーに早く育つ植物を貰うぽこ~♪」
……そうだな。
タヌキのポコの言う通りだ。
彼女は元は薬屋で、魔界の植物に詳しいとのことだったのだ。
しかし、私は少し彼女のことが苦手なので、彼女は魔法陣に封じ込めたままだった。
「魔界の徒よ、出で給え!」
ボフンという音とともに、魔女のナンシーが出てきた。
今日はツインテールに、厚底メガネという出で立ちだった。
「ご用ですか? ご主人様!」
「……ああ、いきなりなんだけど、はやく育つ魔法の植物なんかないかな?」
なんだか少し拗ねている様子の彼女だが、カバンから少量の種を分けてくれた。
「これが治癒のハーブの種です。植えてから7日目の晩に白い葉が芽吹きますので摘んでください。怪我に対して治癒の効果がありますわ」
「へぇ、ありがとう!」
「旦那様、御礼にチューしてください!」
「却下!」
私はナンシーを素早く魔法陣の中に送還。
その後、ポコと一緒に植えるべき畑を耕したのだった。
「ナンシーが可哀そうじゃないかポコ?」
「う~ん」
ポコは魔法陣に封じられたナンシーに同情しているようだ。
……だけど、いきなりチューなんて……。
私の方が幼いのかと、少し顧みた午後だった。
☆★☆★☆
「掘れたポコ~♪」
「お? 大きいな!」
私とポコは午後から、近くの山林で山芋掘り。
ゲームの中とは思えないくらい虫が出て、汚いくらいに土まみれになった。
「今日は芋粥にしようかな?」
「やったポコ!」
芋粥はポコにとってはご馳走だ。
彼の分だけ、あとで爬虫類の焼き物を混ぜ込むのだ……。
――その晩。
「美味しゅうございますわ、旦那様!」
「主は料理も上手ぽこ♪」
ポコが可哀そうだというので、ナンシーを加えての晩御飯。
チューとかは無しと言い含めての食事だった。
「あ~お腹いっぱいだな!」
「食べたポコ♪」
いつの間にか私は、タヌキのポコの話す言葉を、安易に理解できるようになっていた。
多分、他の人間が聞けば、ポコポコ言っているだけに聞こえるかもしれない。
ちなみに魔女のナンシーは、姿を消す魔法を使えるとのことだ。
よって、魔力のない普通の人間からは、完全に視界から消える術を持っていた。
……まさしく、魔女といった能力であった。
☆★☆★☆
――翌日。
私はジェスター男爵の館に呼ばれていた。
「ようこそ、ロバート殿!」
「今日はお世話になります!」
今日はこの世界の地理について、家宰のスクリュー殿から学ぶ日であった。
「……では、はじめます! ごほん……」
この講義には、なつかしい顔ぶれが居た。
私は新米騎士のケインズが隣の席だったのだ。
この講義は傭兵や兵士たちに地理を学ばせ、戦場で役に立ってもらおうとの趣旨だったのだ。
……であるからして、教養のある貴族や、家柄が正しい騎士などは参加していなかった。
このジェスター男爵家の領地は、仕えるプロトン王国領の最南端に位置する。
これより南側は、敵対するアルゴン帝国領だ。
ジェスター男爵領の東端の入り江には、ハリスという小さな港町がある。
ハリスは小さな漁村だが、この港を巡って、プロトン王国とアルゴン帝国が争うこともあった。
そもそも、プロトン王国には海が面している地域が多いのだが、アルゴン帝国には沿岸部が乏しく、海に面している地域が少ない。
物資の輸送や貿易という観点からしても、このジェスター男爵領は、度々アルゴン帝国側からの侵略を受けやすい要地であるということだった。
また、ジェスター男爵領の西部地域は荒れ地であり、小さな砂漠も分布する。
変わって北部は山脈が走り、山の隙間を縫って北部への道が開けていた。
領内にはプリン川という河川が流れ、比較的裕福な土壌が拡がる。
主な産物は、小麦や大麦の他、羊の放牧が盛んにおこなわれていたのだった。
また、ハリスで獲れる魚介は多くが干し物にされて、陸路を伝って販路を築いていた。
しかし、ハリスは港と言うには小さく、あまり大きな貿易船は入れなかった。
この港を大きくすれば、さらなるアルゴン帝国からの大攻勢を招きかねず、小さな港のままで我慢するのが現状であった。
「ふあぁぁ~」
ケインズが私の隣であくびをしている。
彼には、このような授業は退屈なのだろう。
その隣のあいた席では、姿を消した魔女のナンシーが真面目に勉強していた。
後で聞いたのだが、人間の世界を知る機会は珍しいことで、とても面白いらしかった。
「次回もきちんと出席するように……」
講師のスクリュー氏がそう言って授業は終わった。
だが、大方の出席者は肉体仕事の得意な兵士たちで、授業は不評であったのだった。
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