第十一話……魔女『ナンシー』
「……いえいえ、魔女だとなんて思ってませんよ! 冗談です!」
私はかぶりを振って、必死にごまかした。
きっと、分からないふりをすれば、見逃してくれるかもという情けない算段だった。
……が、
「いや、貴様には見えているはずじゃ! わらわの醜い姿が!」
「いえいえ、見えてません!」
明らかに見えているが、見えていないことにしたいのだ。
この建物は敵のアジトだろう。
こんな相手が有利なところで戦いたくはなかったのだ……。
「……いや、貴様には見えている。なぜなら普通の人間には魔力がないはず。しかし、貴様にははっきりと魔力があると感じるのだ……」
……ぇ!?
この世界の普通の人間って魔力がないの?
きっと私が魔法を使えるから、この老婆が魔女ってわかるのかな?
「いやいや、魔力があるもの同士、仲良くしましょうよ!」
今、私はとんでもなくカッコ悪いかも知れない。
……が、私は正義のヒーローでも何でもないのだ。
これこそが金で動く真の傭兵の姿だと思うのだ。
「……では、貴様の心臓をよこせ!」
……!?
これは交渉決裂だな。
私は観念したように態度を一変させる。
「出でよ魔界の徒、我に力を授け給え!」
私がダラダラと魔女と交渉していたのは、背中の荷物入れから魔法陣をとりだす時間を稼ぐためでもあった。
羊皮紙に描かれた魔法陣が煌めき、ダークロードの力が私に憑依する。
「何という力! ……貴様、一体何者だ!?」
今度は魔女が驚き慄く。
こちらの力を察して驚いている様だった。
「ただの傭兵だ! 怪しい魔女め、くたばれ!」
私は魔女と聞いて用意していた銀のナイフを取り出す。
ゲームで魔族は銀に弱いというのは定番だったからだ。
しかし、あくまでも食事用のサイズだったが……。
部屋の中を逃げまどう魔女に、ナイフで斬りかかる。
狭い屋内だけに、剣を振り回すスペースがなかったが、ナイフならゆうゆうと振り回すことが出来た。
私のナイフを魔女が必死に躱す。
途中、魔女の裾がまくれ上がり、イチゴマークのパンツが見えた。
……げ!?
なんかヤバいものを見た気がする。
「死ねい! ファイアボルト!」
一瞬油断した私に、魔女の火炎魔法が迫る。
魔女はニンマリといやらしくほほ笑む。
――ボフン。
……が、その魔法は、一瞬で私の左手に吸い込まれた。
「貴様は悪魔か!?」
「何とでも言え!」
魔女に悪魔呼ばわりされるも、私は再び逃げる魔女に斬りかかった。
狭い部屋内だ。
逃げるのに疲れた魔女は観念し、床にへたり込んでしまった。
「わかった! お主に降伏する! 使い魔にでもなんでもしてくれ!」
……使い魔!?
その手があったか!
魔女を使い魔にしたら、とても便利かもしれないのだ。
「よかろう! 我が僕と成れ!」
私はすぐにナイフで指を少し切り、この魔女と血の契約を結んだ。
やり方は【黒い王城】のゲームそのままの方法でOKであった。
「私は魔女のナンシー。これからも、よろしくですじゃ!」
煙と共にボフンと音がし、魔女は私が描いた魔法陣の中へと消えたのだった。
☆★☆★☆
――その日の晩。
「この通り魔女は退散しました」
「「おお!」」
やって来た村の人々に、魔女がいなくなった家屋を見せた。
やたらと埃の多い店だったが、どこにも魔女の姿はない。
「有難いことですじゃ! ささ、どうぞこれを!」
私は銀貨という御礼を貰い、そそくさとその集落を後にした。
そもそも退治したわけではないし、退治した証拠の品を出せと言われる前に、さっさと退散したのであった。
……しかし、なぜ老婆が魔女と村人にバレたのだろう?
その点のみが合点がいかず、少し悩んだのだが、考えるのをやめにした。
まぁ、ゲームだしね。
楽しけりゃあいいさ……。
私はジェスターの街の家に帰りつくと、現実の世界へとログアウトしたのだった。
☆★☆★☆
「おかえりなさいませ!」
……ぇ?
だれだっけ?
ゲームの中の家に戻ると、若い小柄な可愛い娘がいた。
黒い髪の三つ編みで、家の中を箒をもって掃除をしてくれていたのだ。
しかし、まったくもって見覚えがない……。
「……えっと、どちら様ですか?」
「ぇ? 先日、旦那様の僕になったナンシーですけど?」
「ぇ!? あの魔女の!?」
「……ええ、以前の姿は仮の姿。今の姿が真の姿ですわ!」
……話し方まで変わっている。
本当にあの老婆の姿が仮の姿なのだろうか……。
「まぁいっか! 頑張ってね!」
私がごまかし、さりげなくそう返すと、
「まぁいっか、じゃありませんわ!……私の下着をはじめてみた殿方ですもの。しっかり責任をとってくださいね!」
「……ぇ!?」
……てか、あのイチゴマークのか。
いや、あれはゼロカウントだろ。
今の姿と全然違うじゃないか。
「旦那様、結婚式は何時がいいですか!?」
「ぇぇ~!?」
小柄な娘の姿の魔女が、私の背中に抱き付いてくる。
柔らかい二つのふくらみの感触がヤバい。
……というか、本当にあの老婆がこの子!?
「……あ、ごめん。ご領主さまのところへ行ってくるわ!」
「いってらっしゃいませ!」
急いで家から出ると、ドアのところで手を振るナンシー。
……まぁ、きっとこれからいろいろあるかもしれないが、彼女が新たな仲間であるのは間違いなかったのであった。
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