第一話……VRカプセル機器の購入
「……さて、今日もゲームに繋ぐか」
私の名前は高橋遥人。
冴えないサラリーマンだ。
毎月の給料は少なく未だ独身。
安いアパートの一室で暮らしている。
私の家に帰っての趣味はVRMMO。
先日に通販で買った、最新鋭の全身用カプセル型のフルダイブ式接続器が届いたのだ。
早速にPCで設定を行い、すぐさまゲームの世界へとダイブした。
ゲームの名前は『黒い王城』。
よくある中世西洋風ファンタジーゲームだ。
このゲームはVR機器がなくても遊べるが、VR機器を使っての映像は、びっくりするくらい奇麗だった。
「よし! 頑張るぞ!」
私は仕事から帰ると、夕食をそこそこにゲームに没頭。
各種収集品集めと、レベル上げに勤しんだ。
このゲーム世界も例にもれず、最初はゴブリンやスライムといった敵を叩く。
ダメージを受けた敵は消え、あとにはお金やアイテムなどの戦利品が残る戦闘システムだった。
彼等から出るアイテムを集め、店を構えるNPCに売って銀貨を稼いだ。
暫くしてお金が貯まると、魔法の小袋を買った。
これは内部に27立方メートルほど収容でき、しかも重量無視の優れた道具入れだった。
もっと高いものになると、冷蔵機能が付いていたり、もっと多くのものが入れられるらしいが、その多くが非売品であり入手困難であった。
☆★☆★☆
――1か月後。
私はゲームに接続しようと試みる。
自分のアバターであるキャラクターが存在するチャンネルを選択しようとすると、更に下側に新規のチャンネル、つまり新しいゲーム世界が選べるようになっていた。
そのチャンネルの名は『real』と書かれていた。
このゲームは、別の世界であるチャンネルを選択すると、新規にキャラクターを作るか、他のチャンネルでのキャラクターの能力を90%減で使えるとのことだった。
このチャンネルの接続数は、現在のところ0名。
今のところ、自分だけの世界が広がっているといってよかった。
一人だけの世界。
私はとてもウキウキした気分になった。
私はそこそこにキャラクターが育っていたので、能力90%減をまよわず選択。
すぐさま新しいチャンネルへと飛びこんでいった。
☆★☆★☆
「う……、これは凄い!」
新しいチャンネルに入ると、丁度夕日が沈みかかっていたのだが、その情景は既存のVRゲームに無いほどの高品質だった。
まさにリアル、まさに現実そのままといった感じだった。
現在のVRゲームのグラフィックは、どうしても現実の情景には劣ってしまうのが難点だった。
しかし、このリアルと書かれたチャンネルの世界は、その難点を軽々と排除していたのだ。
「……ようし、狩るぞ!」
強さが9割減したキャラクターを育てようと、街の郊外でモンスターを探すもいない。
少なくとも、草原など見晴らしの良いフィールドを歩いている限りでは、一匹のモンスターにも出くわさなかった。
出くわしたのは穴ウサギなどの小動物だけだった。
その後、近くの町に帰り、NPCと思しき宿屋の主人に問う。
「親父、魔物やモンスターの類が全くいないのだけど、どうなっているのかな?」
「お客様、何を子供みたいなことを仰っているのです。怪物などが出てくるのはおとぎ話の世界だけじゃないですか!」
宿屋の親父は、NPCらしからぬ複雑な笑みを浮かべた。
とりあえず困惑する親父を宥め、お金を払い部屋を借りる。
VR世界の時間は、現実世界の時間よりゆっくり動いているので、宿屋で休んでも時間は大丈夫なのだ……。
更に夕食の時間。
出てきた料理に唖然とした。
水に浸さないと食べられないほど固いパン。
もう一つ出されたのは雑穀の粥だった。
「これが晩ご飯!?」
「左様でございます」
親父の顔は笑っているし、他の客も普通に粥を啜っている。
どうやら、この世界では当たり前の食事のようだった。
しかし、一般的なVRMMOの宿屋の晩御飯は、ハンバーグなどの現代的な洋風料理が出てくるのだ。
最近のゲームユーザーの舌は肥えている。
雑穀の粥なぞ出したら、サポートセンターが苦情殺到になるのが目に見えていた。
……まぁ、今のところ接続者は私一人だしな。
私は固いパンを粥に浸しながら、チビチビと食べた後、部屋のベッドでゆっくりと休んだのだった。
☆★☆★☆
翌日、私は再び町の郊外の草原に来た。
宿屋代を稼ぐべく、モンスターを狩るためだ。
……が、しかし、モンスターは一匹も現れなかった。
「……ぁ、痛い!」
私は草むらの草で手を切ってしまった。
表皮に滲み出してくる血液。
……ぇ!? 血液だって!?
私は驚いた。
そもそもVRゲームにおいて出血などのリアルなシーンは、現在においては再現することが禁じられているのだ。
なぜ私の指から血が出て来るのか、さっぱり見当がつかなかった。
☆★☆★☆
――後日。
ゲームの運営会社へ『real』チャンネルのことを、メールで問い合わせた。
すると、帰ってきた返事は、
『当方の運営するゲームチャンネルに、現在realというチャンネルは存在致しません』
とのことだった。
一体どういうことだ……!?
私はゲームの運営会社が知らないというチャンネル世界を、どうとらえていいか分からず、その日はなかなか寝付けなかった。
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