第54話 桃色カバさん再び(その3)
新作「誰か、前世が凄腕の機動兵器操縦者である私に平穏を!」が連載中です。
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同じくロボット物です!
「(仮題)異世界で死にかけた少年と入れ替わった独身アラフィフサラリーマン、スキルが『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』だった」
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「バウマイスター辺境伯が性的不能に陥っただと? それは本当なのか?」
「王都中で噂になっていますね。さらに、そのことを陛下が 憂慮されたとか」
「バウマイスター辺境伯には子供が沢山必要だからな。しかし、そんな情報まで世間に筒抜けとは。人気者は辛いな」
「ええ……。王城には彼に嫉妬する貴族も多いので、 そこから漏れたのかもしれません」
「無能な宮廷雀たちのやりそうなことだ」
桃色カバさんへの監視が厳しく、魔法で狙撃はできるが死体の回収が困難なので、しばらくは様子見か?
などと考えていたところ、王都中でとんでもない噂が流れてきた。
あのバウマイスター辺境伯が性的不能に陥ったというのだ。
彼が興したバウマイスター辺境伯家が安定するには、もっと多くの子供が必要だ。
だから陛下も憂慮されたのだろう。
「桃色カバさんの卵の殻を使った精力剤は使ったのだろう?」
「そのはずです。確認できたわけではありませんが」
「確認できる類の情報ではないからな」
王国が、バウマイスター辺境伯に桃色カバさんの卵の殻を使った精力剤を回さない理由はないはずだ。
つまり、それでは効果がなかったのだろう。
「これはチャンスか?」
「お館様、さすがに怪し過ぎませんか?」
家宰のドーマが、実はバウマイスター辺境伯が性的不能に陥ったという情報は嘘で、もしかしたら、桃色カバさんの密猟をしているワシらが彼に接近するのを待ち構えているかもしれない。
罠ではないかと意見したのだ。
「その可能性もゼロではないが、バウマイスター辺境伯ほどの大貴族が、嘘の恥ずかしい噂を流すとは思えん」
性的不能に陥ったなど、かなりセンシティブ(繊細)な情報だからな。
それを密猟者を捕らえるためとはいえ、王都中に流す。
プライドのある、それも有名な大貴族が甘受するとは到底思えぬのだ。
「とはいえ、あまりにタイミングがよすぎて怪しいのも確かだ。人を使って探らせよう」
ワシは、密偵を王都バウマイスター辺境伯邸へと送り込んだ。
すると数日後、密偵が衝撃的な事実をワシに告げた。
「お館様、バウマイスター辺境伯が性的不能になったのは事実です。私は実際に聞きました」
王都にあるバウマイスター辺境伯邸に潜り込んだ密偵は、バウマイスター辺境伯の妻たちの会話を聞いたという。
『ヴェンデリン様はきっと、少しお休みすれば元に戻りますから』
『エリーゼ、治癒魔法でヴェルのその……駄目なのを治せないのかしら?』
『イーナさん、残念ながら治癒魔法では難しいです。今のヴェンデリン様の状態は、怪我や病気ではありませんから』
『そうなんだ。でもさぁ、効果抜群だって聞く、桃色カバさんの卵の殻から作った精力剤も効果なかったじゃん』
『ですからルイーゼさん、他の精力剤を試すしかありませんわ』
『カタリーナ、他の精力剤は怪しい。ヴェル様の体が心配』
『桃色カバさんの卵の殻から作った精力剤では効果がなかったのです。他の精力剤を試す必要はあるでしょう』
『どうかな? その精力剤って怪しくないの?』
『カタリーナさん、他の怪しげな精力剤でヴェンデリン様の身になにかあったら大変です。今はしばらく様子を見ましょう』
『エリーゼさん、それはいつまでなのでしょうか? 私は次の子が欲しいのです』
『カタリーナ、それはみんな同じ気持ちだけどさぁ。ヴェルだってショックなんだから』
『そうね。ヴェルを追い込むのはやめましょう。余計に回復から遠ざかるもの』
『イーナの言うとおり。今は静かに様子を見守ることも必要。カチヤたちも同意している』
『私は、試せるものは試した方がいいと思いますから、安全な精力剤を探してみますわ』
「といった感じの話を、とても深刻そうに話していました」
「それは使えるな!」
バウマイスター辺境伯が性的不能になった件で、妻たちの間に意見の相違があるようだ。
しかも、急ぎ新しい精力剤でバウマイスター辺境伯を治療した方がいいと言った急先鋒が、あのカタリーナとは。
「これは天祐だ!」
カタリーナの実家であるヴァイゲル騎士爵家はルックナー侯爵家の陰謀で改易される前、リリエンタール伯爵家の寄子だった。
ところが先々代は、改易されたヴァイゲル家の復興に手を貸さなかった。
それどころか先代に至っては、ルックナー侯爵家との関係修復を優先してしまい、ヴァイゲル家の復興は絶望的だと思われたその時。
当時は伯爵だったバウマイスター辺境伯が手を差しのべた。
カタリーナはバウマイスター辺境伯の妻となり、ヴァイゲル家は準男爵家に陞爵され復活。
バウマイスター辺境伯家の寄子となった。
なぜか先代は、ヴァイゲル家は恩知らずだと激昂していたが、それならルックナー侯爵家との関係修復よりも、ヴァイゲル家復興に手を貸せばよかったのに。
残念ながら先代の力量ではヴァイゲル家の復興は難しく、それならルックナー侯爵家との関係修復をした方がマシだと思ったのであろうが。
そんな先代はパっとしないまま急死して、ワシに出番が回ってきた。
このチャンスを存分に生かすとしよう。
「カタリーナと密かに連絡を取るのだ」
「畏まりました」
カタリーナはバウマイスター辺境伯の他の妻たちと違って、一日でも早く彼の性的不能を治したいと願っている。
彼女には跡取り息子を含めて二人の子供がいるが、まだ子供が欲しいのだろう。
「バウマイスター辺境伯一門ヴァイゲル準男爵家、拡大するにはもっと子供が必要だからな」
ならばここで、カタリーナを通じてバウマイスター辺境伯に桃色カバさんの肉と内臓を提供して恩を売りつつ、バウマイスター辺境伯家の弱みを握る。
「これでルックナー侯爵家を出し抜けるぞ! ワシに運が巡ってきたのだ!」
関係が途絶していた、ヴァイゲル家との関係も回復できる。
カタリーナ自身も優れた魔法使いだからな。
両家に、リリエンタール伯爵家が財務閥貴族のトップになれるように協力してもらおう。
特にバウマイスター辺境伯は陛下の覚えもめでたいから、リリエンタール家が侯爵になれるよう、王城での工作に手を貸してもらうのもいい。
「夢が広がるじゃないか」
「左様ですな、お館様」
まずは、カタリーナを上手く説得しなければな。
桃色カバさんの密猟が難しい今、 あの子供を引っ込めて、こちらの工作に集中することにしよう。
「リリエンタール伯爵様ほどの大貴族様が、元寄子にどのようなご用件なのですか?」
「いきなり辛辣だな」
「まさか私に親切にされる理由があると、リリエンタール伯爵様は本気で思われているのですか? この場であなたに向けて魔法を放たないだけ、温情だと思っていただきませんと」
「手厳しいな」
ワシの予想どおり、カタリーナはワシに対し嫌悪感を隠しもしなかった。
それはそうだ。
ヴァイゲル家がルックナー侯爵家に改易された時、先々代である父と、先代の甥はなにもしなかったのだから。
「これは言い訳でしかないが、当時リリエンタール伯爵家の一門で家臣だったワシは、ヴァイゲル家の改易を阻止すべきだと父に意見したし、甥にはルックナー侯爵家との関係を修復する前にヴァイゲル家への手当てが必要だと強く言った。残念ながら却下されてしまったがね。寄子を呆気なく見捨てたバチも当たったさ」
リリエンタール伯爵家が、なんの瑕疵もないヴァイゲル家を救わなかった影響は無視できなかった。
そんな寄親は信用できないと、いくつかの寄子が離脱して、他の貴族の寄子になってしまったからだ。
寄子など、金と手間ばかりかかる役立たずだと言う貴族も多いが、寄子が減れば人脈も細る。
地方の在地貴族ならともかく、中央の法衣貴族の人脈が細ると仕事に影響が出てしまい、それに比例して力を落としてしまう。
たとえ金がかかっても、寄子の維持は必要経費として捉えなければならないというのに……。
先々代は、寄子が減ると出費が減るから好都合と思っていたが、あとで仕事に影響が出て困っていた。
財務卿が回ってくる五家の中で、リリエンタール伯爵家は一番力を落としてしまったし、数代前から続けていた侯爵への襲爵工作も頓挫したままだ。
だからなのか?
その孫である先代は力を取り戻すために、なぜかルックナー侯爵家との関係修復に動いてしまった。
ワシはそれは間違っていると意見したが、受け入れてもらえなかったがね。
そのあと、先代が急死するとは思わなかったが。
「それは御愁傷様でした。まさか、だから助けてほしいと思っていらっしゃるのですか? もしそうだとしたら、随分と都合のよろしいお話ですわね」
「勿論助けてほしいが、そちらにも見返りはあるぞ」
「見返りですか? それはなんなのです?」
「バウマイスター辺境伯が性的不能に陥ったとか?」
「王都で噂になっているお話ですね。まさかリリエンタール伯爵様が、そのような噂を本気にすると思いませんでしたが……」
「火のないところに煙は立たないと言うではないか」
「この世の中には、まったく正しくない噂の方が多いと思いますが」
「このまま腹の探り合いをしたところで、ただの時間の無駄でしかない。バウマイスター辺境伯の性的不能を治すものが欲しいのであろう?」
「怪しげな魔法薬は勘弁してほしいのですが」
「効き目はバッチリ、桃色カバさんの肉と内臓がある。欲しかろう?」
「……本気でおっしゃっておられるのですか? 現在ヴェンデリンさんは、桃色カバさんの密猟者を捕らえようとしているのですが……まさかリリエンタール伯爵様が……」
「ふふっ」
これは半分賭けだったが、カタリーナは桃色カバさんの密猟をしているワシを糾弾することもなく、警備隊に通報するとも言わなかった。
彼女が、桃色カバさんの肉と内臓に興味を持っている証拠だ。
もしワシを、桃色カバさん密猟の黒幕だと王国に告発したところで、バウマイスター辺境伯の性的不能は治らない。
他の貴族たちの手前、彼が桃色カバさんの肉と内臓を密猟犯逮捕のご褒美として貰えるわけもなく、それらは王国にすべて没収されてしまうはずだ。
「(カタリーナはワシの提案に乗る。必ずだ)」
たとえ密猟品でも、手に入れてバウマイスター辺境伯の性的不能を治したいからだ。
「本当に本物なのですか? 他の魔物の肉や内臓を、桃色カバさんのものだと偽られても困りますので」
「本物だよ。秘密を守るのなら、桃色カバさんの肉と内蔵を無料で提供しようではないか」
「無料でですか? そんなに貴重なものを」
「リリエンタール伯爵家は、ヴァイゲル家に迷惑をかけたからな。今後の関係改善を期待しての無料提供さ」
「今後の関係改善ですか……」
カタリーナは怪しいと思っているようだが、もしバウマイスター辺境伯がリリエンタール伯爵家側についてくれるのなら、桃色カバさんの肉くらい無料で提供しても安いものだ。
なにより、あのルックナー侯爵家を出し抜けるのだから最高ではないか。
それに今のカタリーナは当主代理の立場だ。
いかに妻同士の仲がいいとはいえ、そろそろ独自の人脈を構築したいと思っているはず。
自分の息子のためにも。
どうしてそれがわかるのかといえば、カタリーナもワシも貴族だからだ。
「ただ……」
「ただなんですか?」
「桃色カバさんの肉と内蔵を貴殿に渡したあと、バウマイスター辺境伯にあとでなにも貰っていないとシラを切られても困る。ワシが、直接本人に渡したいのだ」
これは、バウマイスター辺境伯にも共犯関係になってもらうために必須の条件だ。
「いかがかな?」
「お館様に、そのような真似はされられません!」
「しかし、桃色カバさんの肉と内臓がなければ、貴殿は新たに子供を産めない。ワシの言っていることは間違っているかな?」
「……」
悩んでいるな。
しかしワシの提案を断ったところで、バウマイスター辺境伯の性的不能は治らないぞ。
それなら泥を被ったとしても、ワシの提案を受け入れるしかなかろう。
特にこのカタリーナは、貴族への拘りが強いことで知られている。
「(バウマイスター辺境伯との新たな子を産む、家を発展させるためだ。受け入れろ)」
「……お館様を説得いたしますわ」
「それがいい」
上手くいった。
これでバウマイスター辺境伯家は、我々リリエンタール伯爵家のコントロール下に入る。
その力を利用してリリエンタール伯爵家を拡大、発展させ、ルックナー侯爵家を追い抜き、家督をワシの子供と孫が継げるようにしてやる。




