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八男って、それはないでしょう!   作者: Y.A
みそっかす編

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第51話 飼料用穀物

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「アグネスもシンディもベッティも、だいぶ上達したじゃないか。見事な田んぼだ」


「これも先生の指導のおかげです」


「アグネスたちに才能があったからさ。いくら教えても、素養がないと覚えられないからな」


「先生、土地はまだまだ余ってますよ」


「未開地のままだとお金にならないってローデリヒがうるさいから、全部田んぼにしてしまえ」


「早くお仕事が終わったら、四人で王都にデートに行きたいです。先生、新しいスイーツのお店ができたんですよ」


「それは必ず試食に行かないと。シンディ、目につくところは全部やってしまえ」


「任せてください」


「先生、この隣の地区も来週には開墾をする予定ですよ」


「ベッティ、ついでにやってしまおう。そうすれば、休みも増えるはずだ」




 やはり俺は、根が真面目なんだと思う。

 ローデリヒから頼まれた仕事を前倒しすることにより、休みを増やす作戦を実行中なのだから。

 バウマイスター辺境伯領には移住者が多いから、彼らに配る田畑を増やしたい。

 だがバウマイスター辺境伯領では、魔道具の農業機械が普及しているから、一人あたりに配る田畑の面積が広くなってしまう。

 狭い農地しか持たない農民は収入が頭打ちになり、バウマイスター辺境伯領の経済にも悪影響だからな。

 つまり広大な田畑を開墾する必要があったので、アグネスたちと相談して作業の効率化を突き進めていた。

 おかげでこの一ヵ月ほど。

 俺たちは広大な農地を、ローデリヒに言われた面積以上、開墾することに成功した。


「さっさと移住希望者に配って、みんなに農作物を作ってもらおう」


「他の貴族の領地だと、耕す農地がないから領地を出る人も多いのに、バウマイスター辺境伯領では逆ですね」


「誰でも広大な農地が貰える。先生は真の貴族です!」


「移住希望者が殺到するかもしれないので、急ぎ田畑を開墾しましょう」


 アグネスたちの尊敬の眼差しが俺に集中した。

 俺も悪党じゃないので、いつ生活に困った人たちがバウマイスター辺境伯領に移住してきても、すぐに田畑を渡せるよう頑張ろうと思っている。

 同時に、できるだけ効率よくやって休みを増やそうとも考えているけど。

 しかしまぁ、バウマイスター辺境伯領は広いよなぁ。

 この数年、全力で田畑の開墾、用水路の掘削、土壌の改良を続けているけど、なかなか終わらない。

 俺が死ぬまでに、ある程度の目処がつくかな?

 いや、フリードリヒたちにも仕事を残しておいた方がいいのかな?

 多分、バウマイスター辺境伯領内の開発がある程度片付いても、リンガイア大陸にはもっと広大な開発地があるし、ほぼ手つかずのガトル大陸もある。

 俺の子孫たちの仕事は減らないだろうなぁ……。






「お館様、困ったことになりました」


「困ったこと?」


 開墾を終えて屋敷に戻ると、ローデリヒが浮かない表情をしながら駆け寄って来た。

 なにかあったのだろうか?


「ここ三年、バウマイスター辺境伯領は常に豊作で、温暖なので三毛作、三期作が可能です。その結果……」


「その結果?」


「穀物の価格の大幅な値下がりが……」


「つまり、豊作貧乏ってこと?」


「はい……」


「えっーーー! ローデリヒは俺と顔を合わせれば、どんどん開墾しろって言うから。なあ、アグネス」


「はい。そういう事態に陥らないよう、開墾する農地の量をコントロールするか、穀物の相場をコントロールするのが、バウマイスター辺境伯家の家宰であるローデリヒさんのお仕事だと思います」


「うっ! アグネス様のおっしゃるとおりです。面目ない。拙者は常に食べ物が足りない世界のみを見てきたので、豊作貧乏になるなんて思わなかったのです」


 確かに、バウマイスター辺境伯家の家宰になるまでのローデリヒの生活を考えると、食料が余るなんて事態はあり得ないか。


「ですが、拙者が頼んだ以上の面積を開墾して、少しでも休みを増やそうとしたお館様たちの責任も……」


「バウマイスター辺境伯と、家宰ローデリヒが一丸となって、この問題に対応していくんだ!」


「先生、私も協力します!」


「私も!」


「先生、頑張りましょうね!」


 俺と共犯関係にある、アグネス、シンディ、ベッティの四名は、お互い手を取り合って、豊作貧乏の解決策を考えると決意をした。


「とはいえ、そんなに難しいことはないけど」


「お館様、解決策があるのですか?」


「あるけど、ローデリヒが思いつかないのか。不思議だな」


 ローデリヒは、俺よりもはるかに優秀な政治家なのに……。


「解決策はこれだ!」


 そう言って俺は、魔法の袋から粒の大きな米と麦を取り出した。


「随分と粒が大きいですな」


「ブライヒブルクの市場で見つけたんだ。この米と麦、昔はよく栽培されていたそうだけど、今はあまり栽培されていない」


「どうしてですか?」


「凄く不味いから」


 この米と麦は、栽培が簡単で収穫量も多いが、とにかく不味い。

 昔、試しに食べてみて、そのあまりの不味さにビックリしたことがあった。

 昔の食料が不足しやすかった時代ならともかく、現在ではほとんど需要がないものだ。


「これを栽培するのですか? 売れそうにありませんし、収量が増えると余計に穀物の相場が落ちてしまうのでは?」


「ローデリヒ、これは人間が食べるものじゃないよ。家畜の餌だ」


 人間が食べると不味いけど、家畜は特に気にしないでよく食べるのは実験済みだ。


「バウマイスター辺境伯領では畜産が盛んになりつつあるから、その餌として大量に栽培する」


「家畜の餌ですか。それは盲点でした」


 ローデリヒが気がつかなかったのは、少し前までは畜産を大々的に始めようとする者が少なかったからだ。

 だから彼は、穀物を人間に食べさせることしか考えるとことができなかった。


「あとは、これだな」


 魔法の袋から、別の米と麦を取り出す。

 これはとても美味しいが、栽培が難しい品種だ。


「これで高品質なお酒を作るのさ」


 普通の米と麦で、庶民向けの安価な酒を作ってもいい。

 バウマイスター辺境伯領の領民たちの生活レベルも向上しつつあるから、お酒の需要は増す一方なのだから。


「いいお酒を作れれば、これは輸出しやすいから」


「なるほど。ただ穀物を食べるのではなく、それを使った高付加価値商品を売るのですね」


 人間が食べる、家畜の餌、酒の材料。

 どの程度の割り振りにするのかは、ローデリヒの仕事だな。

 ただし家畜の餌用は単価が安いから、なるべく広い田畑で農業機械を使って、栽培コストを落とす必要がある。


「おおっ! そこまでの深謀遠慮。さすがはお館様です!」


「そんなに大したことは言ってないけど」


「急ぎ、領内の農地の栽培割り振りを決めなければ!」


 ローデリヒは俺たちを放置して、自分の執務室へと走って行った。


「……相変わらずのワーカーホリックぶりだな」


「でも先生、大量の穀物を家畜の餌にするって聞くと、なんか勿体ない気がしますね」


「それだけ、我々の生活が豊かになった証拠でもあるんだけどな」


 昔は穀物が主食で、それも不足気味だった。

 肉を食べたければ狩猟で手に入れるか、狩られたものを買うしかない。

 昔から畜産をやってはいたが、あまりに生産量が少なくて、嗜好品扱いだったからだ。

 それが今では、バウマイスター辺境伯領だけだが、穀物の豊作貧乏を解決するために、家畜用の穀物を栽培するなんて言い始めたのだから。


「酒造りも同じさ。生活レベルが上昇したからこそ、領民たちが嗜好品に目を向けられる」


「みんなの生活を豊かにしてしまうなんて、さすがは先生です」


「まあ、俺は魔法使いだからさ」


「それだけじゃないと思いますよ。だって、導師様も先生に匹敵する魔法使いですけど、みんなの生活をよくしたお話は聞きませんから」


「……はははっ……」


 シンディ、それは事実なんだけど、それを言っては、というやつだ。

 ミクロの話では、導師だって善行はしているはずだし。


「飼料用の穀物が増産できれば、今後は畜産も盛んになりますね。お肉も安くなって、みんなが食べられるようになります。お兄さんに、肉料理の新メニュー開発をするように言っておこうかな?」


 ベッティの兄さんは、経営に回らなければ優秀な料理人だからな。

 肉が安くなったら、肉料理の販売に力を入れてもらいたいものだ。


「明日からも、頑張って開墾を続けるか」


「はい」


 豊作貧乏の心配がないのなら、頑張って田畑を広げないと。

 ああ、そうだ!

 飼料米と麦を広大な農地で栽培する、企業経営的な農家の情報をエリーに頼んで手に入れておこう。

 畜産も規模を拡大するから、こっちも情報が欲しい。

 なにしろその分野では、魔族の方が圧倒的に進んでいるのだから。






「えっ? 穀物の価格が下がってない? あの不味い飼料米がこんなに高いの? なんで?」


 俺、アグネス、シンディ、ベッティ、テレーゼ、カタリーナまで加わって広げた農地の面積は広大で、さらにまたも大豊作だったのに、なぜか穀物の価格は高止まりしたままだった。

 この不思議な現象の理由を、俺はローデリヒに訪ねる。


「それが、穀物の輸出が大幅に増えておりまして……。注文に対して量が足りないので、自然と高く買ってくれるところが優先になります」


「穀物を輸出かぁ……」


 地球ならともかく、この世界で遠方の土地に穀物を輸出して利益なんて出るのだろうか?

 最近は魔道具の進化が著しく、魔導飛行船の運行が増えているとはいえだ。


「バウマイスター辺境伯領内では、魔導飛行船を使った輸送網の強化が進んでおるから運賃が下がっておる。それに加えて、空軍の練度を上げる訓練目的で遠隔地に運んでおるそうじゃぞ。目的もなく空荷で遠くに出かけるくらいなら、他の貴族の領地に、販売した穀物を運ぶ方が空軍の予算も減らせる。荷の積み降ろしも訓練になるしの。魔族たちのおかげで魔導飛行船が使う魔石の量も減っておるから、空軍ですらわずかだが黒字になるらしい」


「それは知らなかった」


 さすがというか、テレーゼは随分と事情に詳しいようだけど。


「それに加えて、領内で畜産を始めた貴族が多いというのもある。農業に向かない広大な土地を抱えた貴族が、こぞって畜産を始めておるそうじゃ」


 だがそういう貴族は、家畜に食べさせる餌が不足する。

 そこで、バウマイスター辺境伯で栽培されている飼料用の穀物に目をつけたわけか……。


「穀物は保存しやすく、大きな船で大量に運べば価格も抑えられる。じゃが、ライバルが増えて相場が下がらぬのであろう」


「それってつまり……」


「お館様! 可及的速やかに、家畜の飼料用の穀物を栽培する農地を開墾してください!」


「やっぱりそうなるか!」


 とはいえ、これはバウマイスター辺境伯領だけでどうにかなる話ではない。

 俺は開墾の合間を縫って、ブライヒレーダー辺境伯の元を訪ねた。


「ああ、この米と麦ですね。簡単に沢山栽培できるのですが、とにかく不味くて。これを家畜の飼料用として栽培するなんて、さすがはバウマイスター辺境伯ですね」


「とにかく飼料用の穀物が足りないので、ブライヒレーダー辺境伯領でも栽培してほしいんですよ。大規模農業のノウハウは、魔族が教えてくれますから」


「穀物なんて運ぶのが大変なのに売っても儲からないから、近隣のみへの輸出か、飢饉の時に緊急で運ぶか、高級品を嗜好品扱いで販売するくらいだったんですけど、大きな魔導飛行船で大量に運べば採算がとれるようになるなんて、時代が変わりましたね」


「ブライヒレーダー辺境伯、小領主混合領域のエチャゴ草原には、農地になりそうな広大な草原が余っているじゃないですか」


「エチャゴ草原には貴族の領地が点在していますからねぇ……。利害調整がちょっと大変ですけど……。ブライヒレーダー辺境伯家が寄親だから、私がやるしかないですね」


「よろしくお願いします」


 土地が余ってるのはブライヒレーダー辺境伯領も同じで、他にも小領主混合領域があるエチャゴ草原も農業ができる土地が有り余ってるので、ここでも飼料用穀物の栽培が始まれば需要を満たせるし、相場ももっと安くなるはずだ。


「(なにより、ブライヒレーダー辺境伯にも負担を押しつけることに成功したぞ)」


 バウマイスター辺境伯領ばかりが農地を広げ、飼料用穀物の栽培量を増やしても、なかなか俺の仕事が減らないのだから。


「ではお願いしますね」


「なんとかしますよ」


 無事、ブライヒレーダー辺境伯との交渉を終えた俺はアグネスたちと開墾作業を続ける。

 ブライヒレーダー辺境伯は、仕事のない暇な家臣たち……そんな家臣が存在するのが驚きだけど、現代日本の会社にも社内ニートなんて存在がいるから、おかしくはないのか……にも開墾をやらせるので好都合だったらしい。

 大切なところは、魔族を雇ってやらせるらしいけど。


「ブライヒレーダー辺境伯領とエチャゴ草原でも飼料用穀物が栽培されるようになれば、俺たちも少しは暇になるかな」


「あまり作りすぎると、この前みたいにローデリヒさんが豊作貧乏になるって大騒ぎになるかもしれませんからね」


「そこのコントロールが難しいんだよなぁ」


「ローデリヒさんの腕の見せ所ですね」


 そんな話を、アグネスとしたからなのか。

 数年後、またもローデリヒが血相を変えて俺の書斎に飛び込んできた。


「お館様、飼料用の穀物ですが、やはりまったく需要を満たせずに価格が高騰しています」


「それ、おかしくないか?」


 ブライヒレーダー辺境伯領とエチャゴ草原でも大規模に飼料用穀物の栽培が始まり、今年は特に大豊作だって聞いたけど。

 どうして俺が知ってるかって?

 結局、ブライヒレーダー辺境伯家の家臣たちが役に立たなくて、俺たちがブランタークさんの助っ人で開墾作業を手伝ったからだ。

 ブランタークさんが、『あの役立たずども、それでもクビにならないからすげぇよなぁ』と皮肉を言ってたのを思い出したからだ。

 役に立たなくても、代々の家臣で裏切る心配がないからクビにしない。

 大貴族の家臣あるあるであった。

 そんなわけで、飼料用作物の生産量は数年前の数倍になっているんだけどなぁ。


「ローデリヒ、どうして足りないんだ?」


「畜産を始める貴族が大幅に増えたからです。しかも、アーカート神聖帝国の貴族たちからも飼料用穀物の問い合わせがありまして」


「そこを他国に頼っていいのかな?」


 現代日本でもあるまいし、食料自給率は落とさない方がいいと思うけど……。


「人間が食べる穀物は完全自給しているので、問題がないとは言いませんが、帝国が食料で王国に首根っこを掴まれることはないと思います」


「帝国に運んでも採算が合うんだ」


「帝国は魔族に、飼料用の穀物を大量に運ぶ超大型の魔導飛行船の建造を頼んだそうでして。その船は燃費もだいぶ改善されていると聞きました」


「そうだったのか!」


 まるで現代日本が、畜産用の穀物を大量に外国から輸入しているかのようだ。


「なにより、アーカート神聖帝国は北方にあって、穀物の収穫は南部の一部で二毛作が精一杯で、大半の土地では年に一回しか収穫できません。一方、バウマイスター辺境伯領を含む王国南部では三期作、三毛作が可能です。帝国は、バウマイスター辺境伯領、ブライヒレーダー辺境伯領、エチャゴ草原を『黄金の三角地帯』と呼び、外交を強化するとか」


「それは微妙に迷惑だな」


「そうですね」


 ヘルムート王国とアーカート神聖帝国は貴族の領地の連合体であり、貴族はその気になれば所属を変えられる。

 滅多にいないが大昔、ヘルムート王国と揉めた貴族がアーカート神聖帝国貴族に所属を変えようとして大騒ぎになったそうだ。

 南部貴族がアーカート神聖帝国と懇意にしすぎると、鞍替えするのではないかと疑われる……そう大騒ぎするバカ貴族たちが出るに決まっているのだから。

 痛くもない腹を探られるのは面倒で仕方がない。


「讒言で潰されたら堪らないよ」


 その時は、諦めて帝国にでも亡命するけど。

 基本俺は、江戸時代の武士のような忠誠心なんて持っていないから。


「心配する必要はないと思いますよ。もし帝国がこれからも飼料用の穀物を輸入し続けたければ、王国と揉めないことが肝要なのですから。それよりも、前倒しで飼料用の田畑を広げる必要があります。ブライヒレーダー辺境伯領とエチャゴ草原の土地も、なるべく早く、しかもできるだけ広く開墾してほしいそうです」


「仕事が減らねぇ!」


 その後も俺たちは、死ぬ直前まで魔法を使って田畑の開墾を続けた。

 のちには、南の大陸でも飼料用の穀物を作る広大な田畑を開墾するようになり、そちらは俺の子孫たちが引き継いだが、大半が終わったのは俺の玄孫たちが老人になってからであった。





「ふふふっ、さすがはこの私の右腕ヴェンデリンだ」


「ヴェンデリン? バウマイスター辺境伯殿が、なにかなされたのですか?」


「帝国と戦争になる確率を大幅に下げたのだ。それも軍備を増強することなくだ」


「それはどのような方法なのですか?」




 私は先週から、ヴァルド殿下の指名でお側に仕えさせていただいているが、殿下はバウマイスター辺境伯殿が大のお気に入りだ。

 よく彼の話をするので、彼を嫌う……いや嫉妬する貴族も少なくなかった。

 だが、彼は優れた魔法使いだし、広大なバウマイスター辺境伯領を王国でも有数の豊かな領地に育てあげた。

 魔法使いだから殿下に気に入られているんだ、と思っていた貴族たちからしたら、今のバウマイスター辺境伯領を見ると腹が立つのだろう。

 貴族としても負けているからだ。

 さらに殿下は、バウマイスター辺境伯殿が手柄を立てたのだと言う。

 私は、それがなんなのか気になって尋ねてみた。


「バウマイスター辺境伯領のみならず、ブライヒレーダー辺境伯領、エチャゴ草原に広大な田畑を作り、飼料用の穀物を帝国に輸出し始めたのだ」


「飼料用の穀物ですか」


「アーバン子爵、その意味がわかるかな?」


 殿下は、無能な貴族が大嫌いだ。

 それが理由で罰したり、改易したりしないが。役職を与えないか、与えてもお飾りの役職に据えて放置してしまう。

 私が殿下の指名でお側に仕えるようになったのも、前任者が無能だったからだ。

 殿下は前任者を栄転という形で移動させたが、現実はお飾りの役職で飼い殺しにしているに過ぎなかった。

 だから私は、殿下のお考えを正確に読まないといけない。

 それができなかったら、私も前任者と同じ結末を辿ることになるのだから。


「帝国は人間が食べる穀物については完全自給を成していますが、家畜の餌をヘルムート王国貴族であるバウマイスター辺境伯たちに依存することになります。もし王国と帝国が戦争状態になった場合、帝国の民たちが飢えることはありませんが、食べられる肉の量は減って不満が出るでしょう。狩猟のみで補うのは無理がありますし、人間は生活水準が下がると不満を持つものです。魔物を狩る人手も戦争に取られますから、帝国は王国との関係悪化を懸命に防ごうとするはずです」


「アーバン子爵、そのとおりだ。ヴェンデリンは軍備を増やすことなく、経済で王国の安全保障政策を担うようになったのだ。この功績を、ヴェンデリン嫌いの貴族たちも否定できまい」


「最近、畜産を始める貴族が増えていますからね。彼を敵に回すと、自前で飼料を手に入れないといけません」


「飼料用の穀物の栽培は、広大な農地に転用可能な未開地を持つバウマイスター辺境伯たちが圧倒的に有利だ。パルケニア平原でも大規模栽培はできるが、あそこは人間用の穀物が最優先だ」


 現在も懸命に開墾を続けているパルケニア平原だが、あそこで栽培されている穀物は王国の食料政策に必要不可欠な存在だ。

 そう簡単に飼料用の穀物に転換できないし、パルケニア平原では春麦と秋麦の二期作が限界だ。

 なので、南部貴族たちが飼料用の穀物を大量に栽培し、多くの貴族たちや他国にまで輸出することは、王国にとっても大きな利益となっていた。


「アーバン子爵、貴殿はよくわかっているようだな」


 どうやら私は、殿下から合格点を貰えたらしい。

 しかしながら、広大な未開地であったバウマイスター辺境伯領から大量の飼料用穀物を栽培、輸出して帝国と戦争になる確率を下げるなんて。

 並の貴族では思いつくまい。


「バウマイスター辺境伯、ただの優れた魔法使いじゃないんですね」


「そうだ。そして私の大切な親友でもある」


 殿下にそこまで信用されているとは。

 これからのヘルムート王国において、バウマイスター辺境伯の力はますます増していきそうだ。

 殿下のお側に控える身として、彼の動きに注視しておかねば。


 ……私の娘が年頃だが……。

 さすがに難しいかな?






「はくしょい!」


「汚いなぁ、ヴェル。急にくしゃみをするなよ」


「すまん、すまん。このところ外で開墾ばかりしているから、風邪でも引いたかな?」


「こんなに暑いのにか?」


「疲労が溜まっているんだよ、きっと」


 今日も魔法で田畑を開墾しているが、最近こればっかりしているから疲労で免疫力が落ちて風邪でも引いたのかもしれないな。

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― 新着の感想 ―
ヴェルくんはアーカート神聖帝国の名誉伯爵でもあるので、採算が合うのであれば安心して輸入できるのですよ(笑) なにせ、元女公爵がヴェルくんの嫁の一人なのですから。
高付加価値の加工食品は魔族というラスボスが待っているから、飼料穀物は妥当だなぁ。 都市部の豊かな生活は、周辺部の第一次生産力に担保されているから、後世で大金星扱いされる政策かもしれませんね。
現実だと畜産物の需給バランスが破綻すると思うけど、日本の農業・畜産業もこれくらいのダイナミズムが欲しいね。当事者はたまったものではないだろうけど。
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