第26話 世界が変わっても、婚活であり得ない条件を出す人はいる(その1)
新作「誰か、前世が凄腕の機動兵器操縦者である私に平穏を!」が連載中です。
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同じくロボット物です!
「(仮題)異世界で死にかけた少年と入れ替わった独身アラフィフサラリーマン、スキルが『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』だった」
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「そうねぇ……。伯爵家以上の当主様かその跡取りで、背が高くて、細いけど体が鍛えられていて適度に筋肉があって、マッチョなのはナシね。苦手だから。当然顔が良くて。背が低かったり、太っている人や、髪がない人は勘弁してほしいわ」
「年下がいいわよね。私は実年齢よりも若く見られるから、年下でも十分に釣り合うと思うよ。私って可愛い系だから」
「領地の財政状態がいいのは当然よ。貴族の中には爵位が高くて領地が広くても、借金で喘いでいる人もいるから。そんな領地に嫁ぐと贅沢できないもの。王都で外食する時にはランクが高いお店に行きたいし、宝石やアクセサリー、香水やお洋服の購入に制限がかかるのは嫌だわ」
「子供は……。若い妾にでも産ませればいいわ。あとで私が養子にすればいいのよ。子供産む時って痛いんでしょう? 私は痛いのが苦手なのよ。せっかくのスタイルも悪くなってしまうし」
「結婚式は、大勢の人を呼んで豪華にやりたいわね」
「結婚式を豪華にするのは当たり前よ。だって、こじんまりとした結婚式なんて恥ずかしいじゃない」
「新婚旅行はアーカート神聖帝国に行きたいわね。今、新婚旅行は外国に行くのが当たり前なんだから。ミズホにも必ず寄りたいわ。国内旅行なんて貧乏臭いから嫌よ」
「はあ……。私は普通の貴族男性を求めているだけなのに、どうしてなかなか結婚できないのかしら?」
「本当よねぇ」
「こんな世の中は間違っていると思うわ」
「……」
とんでもない仕事が舞い込んできた。
同じく私につき合わされている、ルックナー前財務卿が絶句している。
せっかく多くの貴族たちから嫌われるだけの財務卿職が交代になったと思ったら、こんな骨折り損だけの仕事を押し付けられるなんて……。
同じく、新しく内務卿となった私が陛下より下された命令は、このところ経済的に好調な王国が密かに抱えている問題を解決することであった。
王国が密かに抱えているというか……大半の貴族たちどころか王都の住民たちの間でも公然の秘密のような感じになっているので、厳密に言うと密かに抱えているわけではない。
これまで、王国が積み残してきた宿題と言うべきか……。
結婚できずに実家で暮らし続けている王族、大貴族の令嬢たちをどうにか結婚させることであった。
私の個人的な感想としては、結婚できない娘を抱えていない大半の貴族と意見は同じで、別にこのままでもいいのではないかと思っている。
だが陛下より命令が下った以上、私とルックナー前財務卿は、彼女たちが結婚できるように努力しなければならないのだ。
さすがの陛下も、試しにどんな男性と結婚したいか貴族令嬢たちに尋ねてみた結果、上のような、いい年をして現実が見えていない彼女たちの本音を聞いてしまい、それを聞いても全員が結婚できるとは思っていないだろう。
多分陛下は、結婚できない娘を抱える王族と大貴族たちに強く陳情されて断れなかったのだと思う。
貴族籍の管理をしている内務卿である私と、財務卿として辣腕を振るっていたルックナー侯爵を担当に据え、王国は真面目にこの問題に取り組んでいますよと、大貴族たちにアピールするため、こういう人事となったのだと思う。
「ルックナー侯爵?」
「……エンデルス内務卿、噂には聞いていたしある程度予想はしていたが、思っていた以上に酷いな……」
「ええ……」
彼女たちが結婚できなかった理由の大きな部分に、実家の都合があるというのも確かだ。
王族や貴族の女性が恋愛結婚するのは非常に稀なケースで、ほぼ全員が実家の当主から命じられた男性と結婚する。
ところがタイミングなどの事情があって、釣り合う適齢期の男性が存在せずに婚期を逃してしまう女性が一定数存在した。
彼女たちは、結婚する機会を待ちながら実家で暮らし続ける。
それなら結婚するまで仕事でもすればいいと考えるのは平民の考えで、貧しい下級貴族の娘ならともかく、それなりの貴族の娘が外に働きになど出たら家の評判に関わるので、当主は娘にお小遣いを与えて自由にさせてしまうケースが多かった。
表向きは嫁入りに必要なことを学んでいることになっているのだけど、少なくとも私は、真面目に嫁入り修行に励む、三十歳、四十歳を超えた未婚の貴族女性を見たことがない。
彼女たちは同じ境遇ゆえか、次第にグループを形成し、集まってお茶やお菓子を楽しんだり、買い物に出かけたり、趣味に没頭したりと、自由に過ごすようになる。
こうも長年自由に過ごしてしまうと、もし運よく結婚できたとしても、結婚生活が大変なものになってしまうかもしれない……残念ながら私は、そのような状態にまで至った貴族女性たちが結婚できたケースを見たことがないのだけど。
そして彼女たちは仲間内で、どんな男性と結婚したいか、毎日のようにおしゃべりに花を咲かせた結果、非常に条件がいい男性との結婚を強く望むようになる。
なかなか結婚できずに結婚への憧れが昇華してしまった結果、好条件な男性以外との結婚はお断り、という結論に至ってしまうのだ。
こんな未婚女性たちに対し、『身の程知らずにも程がある!』と怒る貴族もいるのだけど、ある意味彼女たちは政略結婚制度の犠牲者でもあり……ただ、彼女たちに全面的に同情できるかといえば、そうとも言い切れないのが実情だ。
「老貴族の後妻でいいような気もしますけどね」
「エンデルス内務卿、彼女たちの条件に合う、正妻を失った老貴族というものは非常に少ないのだ。エンデルス内務卿ならその理由がわかると思うが……」
「普通は女性の方が長生きですからね」
正妻に先立たれた老貴族というのはとても少ない。
なぜなら、女性の方が男性よりも長生きするケースが圧倒的に多いからだ。
それに加えて、妻の方が夫よりも年上という夫婦も珍しいので、やはり夫の方が先に死んでしまうケースが大半であった。
「下級貴族や大貴族の陪臣にまで範囲を広げれば、もう少し人数がいますけどね」
「それでは家格が釣り合うまい。彼女たちの話を聞いただろう? 彼女たちはそんな男性は嫌なのだ」
そうなのだ。
今、私とルックナー前財務卿が集めた王族、貴族令嬢たちは実家の家格が高い。
ゆえに下級貴族や、たとえ大貴族でも陪臣に嫁がせるわけにいかなかった。
彼女たちも、自分の立場や身分を落としてまで結婚したくないと思っているのだから。
「こうなってしまっては、少しぐらい条件を緩めてもいいと思うのだが……」
「私もそう思って、ならばとこっそり男性側に聞いてみたのですが、彼女たちはゴメンだそうです」
「……気持ちはわかるけどな」
正妻を失った老貴族が求める後妻の条件にはいくつかのパターンがあるが、その中でも大きな要素を占めるのは『安らぎ』である。
政略結婚で結婚した正妻と仲が悪かったなんてパターンも多く、それでも貴族の義務として結婚して子供を作り、夫婦として生活してきたのだから、老後ぐらいは心休まる女性と過ごしたい。
そんな老貴族からすれば、王族や大貴族の娘なんて気を遣うし堅苦しいので嫌なのだ。
そして貴族は貴族を知る。
老貴族は、なかなか結婚できなかった貴族令嬢の性格に問題があるケースが多いことをよく知っていた。
だから私たちの要請を受け入れるわけがない。
実際今も彼女たちは、自分の身の丈に合っていない好条件の男性と結婚したいと、無駄に話が盛り上がっている最中なのだから。
「類は友を呼ぶというか……彼女たちはもう少し現実が見られないのか?」
「現実が見えていたら、とっくになんとかなっているのでしょう」
「……それはそうなんだが……」
ルックナー前財務卿は頭を抱えていた。
実は、婚期を逃した王族と大貴族の娘が全員結婚できないわけではない。
家格に大きな差があったり、多少条件が悪い人でも容認して結婚する人も一定数存在するからだ。
結婚できなくても、教会で働いて人生をまっとうする人だっている。
だけど彼女たちは、適齢期に上手く結婚させてあげられなかった父兄の引け目を利用して多額のお小遣いを得て、それで毎日のように遊んで暮らしていた。
そして徐々に似たような境遇の仲間と集まり、毎日存在もしない白馬の王子様について終わらない話を続けるのだ。
「で、どうすればいいかな?」
「陛下も、彼女たちが本当に結婚できるなんて微塵も思ってないでしょう。要は、彼女たちにはチャンスを与えたと、関係者が納得すればいいんですよ」
「お見合いパーティーか?」
「ええ。可哀想ですが、この茶番には多くの貴族たちもつき合ってもらいましょう。 我々だって陛下より無理難題を押し付けられたのですから、苦労を分かち合うのが王国貴族というものではないですか」
「……気乗りはしないが、彼女たちが納得するような貴族や跡取りを揃えなければ、彼女たちの父兄も納得できないだろうからな。頑張って知り合いに声をかけるとするか……」
「ルックナー前財務卿も、一人でも多くに声掛けをしてください」
「わかった」
「ああ、バウマイスター辺境伯にも声をかけておいてくださいね」
「えっ? バウマイスター辺境伯? いやぁ……彼は……」
「彼を呼ぶのは必須条件でしょう」
確かに駄目元な仕事ではあるけれど、彼女たちの夫に相応しい貴族たちを呼ばなければ、彼女たちの父兄が納得しないのだから。
その象徴として、バウマイスター辺境伯には必ず出席してもらわなければならなかった。
「ルックナー前財務卿のお願いなら、バウマイスター辺境伯も参加してくれると思うのです。なにも彼に、本当に彼女たちと結婚しろなんて言いませんよ。彼に参加してもらって、彼女たちとその父兄に期待感を持ってもらうのが目的です」
「……頼んではみるが、断られるかもしれないぞ。そうでなくてもバウマイスター辺境伯には妻が多い。本人も常々、『これ以上奥さんはいらない』と口にするほどなのだから」
「もしかしたら一人くらいは気に入るかもしれないじゃないですか。あくまでももしかしたらですけど」
「……(こいつ、本気でそう思って? いや、それはないな)」
「ルックナー前財務卿、なにか仰いましたか?」
「いや、なんでも。一人でも多くの貴族たちに声をかけなければ」
このお見合いパーティーに、バウマイスター辺境伯が参加することに意義があるのだから。
私もバウマイスター辺境伯が彼女たちを気に入るなんて奇跡があるとは到底思えないが、向こうが期待してくれれば問題ない。
「バウマイスター辺境伯には悪いと思いますが、こうでもしなければ彼女たちもその父兄も納得しないでしょう。他の好条件の貴族たちも半ば義務で参加させますので、ルックナー前財務卿。 彼にこのお見合いパーティーの参加を促すのはあなたの役割です」
「……わかった……」
ルックナー前財務卿が嫌そうな表情を隠しもしないが、彼が参加しないと貴族女性たちが納得しないので仕方がない。
バウマイスター辺境伯、この借りは必ず返すので今回は我慢してほしい。




