後編
東雲が全力疾走する。
音速を超える突進が、肉噛村の住民に容赦なく迫る。
「呪符タックル!」
理不尽な筋肉との衝突により、村人達は肉片となった。
血煙が大地を染め上げ、衝撃波が家屋を木っ端微塵に破壊する。
東雲の残像が村中を駆け回る。
一部の村人が猟銃で彼を狙うも、そんなものが当たるはずもなかった。
「呪符キーック!」
青空に響き渡る技名。
東雲のドロップキックが炸裂し、猟銃を持つ村人が滅茶苦茶に爆散した。
ものの十秒足らずで視界内の村人を殺した東雲は村の奥へと進む。
そこには麻袋を被り、チェーンソーを持った男が佇んでいた。
急ブレーキをかけて止まった東雲は、不敵な笑みを湛えて対峙する。
「ほう、なかなかの筋肉だな。悪くない」
「あはははははははは!」
無邪気に笑う男がチェーンソーで攻撃を仕掛けた。
高速回転する刃が肩に触れて火花を散らす。
道着がズタズタに引き裂かれているが、その下の筋肉は無傷だった。
薄皮一枚も切れておらず、艶やかな輝きを帯びている。
「ただの金属が、鍛え上げた筋肉を凌駕するはずないだろう」
東雲が右手の指を揃えて掲げた。
愛する筋肉を躍動させて彼は叫ぶ。
「呪符チョップ!」
無慈悲な一撃が、男の脳天に叩き込まれた。
麻袋を被った頭部が潰れ、そのまま首にめり込んで鎖骨を砕きながら陥没する。
身長が四十センチほど縮んだ男は、手足を痙攣させながら倒れて死んだ。
東雲は意気揚々と村の最奥まで進む。
そこには古びた祭壇があった。
祭壇の前には、巫女服を着た若い女が跪いている。
振り返った女は、東雲を見て微笑んだ。
「あら、妙な人間ね。生贄にちょうどよさそう――」
「呪符パンチ!」
会話を拒絶した東雲が、問答無用で拳を打ち込む。
彼の攻撃は巫女服の女――ではなく、その背後に浮かぶ靄のような物体を捉えた。
派手にひしゃげた靄が地面を転がった後、甲高い声を発して狼狽する。
「えっ、あ、なぜ霊体を殴れるの? そもそも視認できないはずで」
「呪符パンチ! 呪符パンチ! 呪符パンチ! 呪符パンチ!」
東雲は靄を袋叩きにする。
マッハ10を突破した拳のラッシュは、靄をぐちゃぐちゃに打ち砕く。
やがて彼は残骸を拾い上げ、持参していたプロテインシェイカーに入れた。
毎秒七万回の高速シェイクでとどめを刺した後、一気に飲み干す。
「ははは、これにて一件落着!」
「この人が怪異じゃん……」
ようやく追いついた田浦は、呆れた様子で呟く。
狂気に支配された住民が死に絶えて、元凶の土着神も滅びた。
こうして肉噛村の因習に終止符が打たれたのだった。




