前編
古い家屋が並ぶその村を目にした時、セーラー服の少女・田浦は浮かない顔で呟いた。
「ここが肉噛村……なんだか不気味な雰囲気ですね」
「そうか? ただの良い景色じゃないか」
田浦の隣で暢気に微笑むのは、道着を着た筋骨隆々の大男だった。
彼の名は東雲鉄砕。
日本トップクラスの霊媒師である。
東雲は助手の服装を一瞥し、不思議そうに言う。
「それより田浦君。やけに重装備だね」
田浦はヘルメットを被り、手には金属バットを持っていた。
しっかりと両手で握っていつでも振り回せるように身構えている。
主に村の方角を睨みながら、田浦は小声で言う。
「そりゃ、どう考えても危ない目に遭うのが確定してますからね。これくらい準備はしますよ」
二人がこの辺鄙な村に赴いたのは、数日前に届いた手紙が原因だった。
血痕の付いた手紙には、走り書きで依頼が記されていた。
――私の故郷、肉噛村の因習を止めてください。どうかお願いします。
手紙には村の住所が書かれていた。
東雲と田浦はそれを参考に出発して現在に至る。
「あの手紙……不親切ですよね。因習について、もうちょっと具体的に書いてほしかったです。これだけ大雑把だと対策できませんし……」
「別にいいじゃないか。村に着けば色々わかる。解決方法なんて後で考えればいい」
「そんないい加減な……」
文句を言おうとした田浦は、前方の異変に気付いて固まる。
村の入り口に、若い男の生首が串刺しとなっていた。
壮絶な苦痛を訴える生首の口から、垂れ幕がはみ出している。
『肉噛村へようこそ! はじめまして! 依頼人の鈴木です!』
垂れ幕の文字を読んだ田浦は、反射的に口元を押さえる。
込み上げる吐き気を我慢しながら、彼女は呻くように言った。
「こ、これは……」
「依頼人の鈴木さんだな。随分と愉快な挨拶だ」
「いやいや、何言ってるんですか! どう見たって殺されてますよ! 早く警察に通報――」
田浦がスマートフォンを取り出したその時、村から「おーい」という声が聞こえてきた。
二人の来訪に気付いた村人達が笑顔で駆け寄ってくる。
その手には斧やクワ、鉈、包丁といった凶器が握られていた。
顔面蒼白の田浦は後ずさる。
「ヤバいですって! 逃げましょう!」
「笑止。あの程度の脅威に怯える東雲鉄斎ではない。君はタピオカミルクティーでも飲みながら見物したまえ」
「タピオカミルクティーなんて持参してませんけどね……ってちょっと!?」
東雲が勢いよく走り出した。
彼は懐から出した呪符を拳に巻き付けると、迫る村人達に襲いかかる。
「呪符パンチ!」
膨大な腕力に物を言わせた拳撃が、軌道上の村人を派手に吹き飛ばす。
脳筋霊媒師・東雲鉄斎の蹂躙が始まった。




