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脳筋霊媒師vs因習村  作者: 結城 からく


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1/2

前編

 古い家屋が並ぶその村を目にした時、セーラー服の少女・田浦は浮かない顔で呟いた。


「ここが肉噛村……なんだか不気味な雰囲気ですね」


「そうか? ただの良い景色じゃないか」


 田浦の隣で暢気に微笑むのは、道着を着た筋骨隆々の大男だった。

 彼の名は東雲鉄砕。

 日本トップクラスの霊媒師である。


 東雲は助手の服装を一瞥し、不思議そうに言う。


「それより田浦君。やけに重装備だね」


 田浦はヘルメットを被り、手には金属バットを持っていた。

 しっかりと両手で握っていつでも振り回せるように身構えている。

 主に村の方角を睨みながら、田浦は小声で言う。


「そりゃ、どう考えても危ない目に遭うのが確定してますからね。これくらい準備はしますよ」


 二人がこの辺鄙な村に赴いたのは、数日前に届いた手紙が原因だった。

 血痕の付いた手紙には、走り書きで依頼が記されていた。


 ――私の故郷、肉噛村の因習を止めてください。どうかお願いします。


 手紙には村の住所が書かれていた。

 東雲と田浦はそれを参考に出発して現在に至る。


「あの手紙……不親切ですよね。因習について、もうちょっと具体的に書いてほしかったです。これだけ大雑把だと対策できませんし……」


「別にいいじゃないか。村に着けば色々わかる。解決方法なんて後で考えればいい」


「そんないい加減な……」


 文句を言おうとした田浦は、前方の異変に気付いて固まる。

 村の入り口に、若い男の生首が串刺しとなっていた。

 壮絶な苦痛を訴える生首の口から、垂れ幕がはみ出している。


『肉噛村へようこそ! はじめまして! 依頼人の鈴木です!』


 垂れ幕の文字を読んだ田浦は、反射的に口元を押さえる。

 込み上げる吐き気を我慢しながら、彼女は呻くように言った。


「こ、これは……」


「依頼人の鈴木さんだな。随分と愉快な挨拶だ」


「いやいや、何言ってるんですか! どう見たって殺されてますよ! 早く警察に通報――」


 田浦がスマートフォンを取り出したその時、村から「おーい」という声が聞こえてきた。

 二人の来訪に気付いた村人達が笑顔で駆け寄ってくる。

 その手には斧やクワ、鉈、包丁といった凶器が握られていた。


 顔面蒼白の田浦は後ずさる。


「ヤバいですって! 逃げましょう!」


「笑止。あの程度の脅威に怯える東雲鉄斎ではない。君はタピオカミルクティーでも飲みながら見物したまえ」


「タピオカミルクティーなんて持参してませんけどね……ってちょっと!?」


 東雲が勢いよく走り出した。

 彼は懐から出した呪符を拳に巻き付けると、迫る村人達に襲いかかる。


「呪符パンチ!」


 膨大な腕力に物を言わせた拳撃が、軌道上の村人を派手に吹き飛ばす。

 脳筋霊媒師・東雲鉄斎の蹂躙が始まった。

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