22.どきどき撮影会10~ふたりきりで撮影会
一枚、また一枚とシャッターを切っていく。
鴨紅さんが、シャッターの音一つ一つにバリエーション豊かにポーズを変える。
普段の鴨紅さんの控えめな性格からして、こういった動きは信じられないもので、どれだけ今まで撮られていたのかというのが改めてうかがえた。
首をかしげてみたり、両手を頬に当ててみたり、頬杖をついてみたり、そのまま視線を外してみたり。
まるでグラビアを見ているようで、ここまでくると鴨紅さんのお父さんの趣味を疑ってしまうほど、鴨紅さんのポージングは決まっていた。
そして、ファインダー……もとい、デジカメらしく液晶画面に映る鴨紅さんの表情は、かなり落ち着きを戻しているように思えた。一見、良好な状況と言える。
しかし……
シャッターの音が部屋に響く。
鴨紅さんがポーズを変える。
俺が撮る位置を決める。
またシャッターの音だけが部屋に響く。
その間に会話は一切なく、鴨紅さんと共に黙ったまま、ただただその行動を繰り返しているこの状況は、背徳感のようなものをひどく感じて仕方がない。
例えば、だ。この先に考えられる展開といえば……
「な、なんで黙ってるんですか……?」
「いや、それは……」
「あ、あの! 本当はわかってます。わかっているんですけど、まだ心の準備が、できて、なくて」
「いや、それなら無理はしなくても」
「いえ、せっかくお兄さんに撮ってもらえるんですから、私……」
「鴨紅さん……」
「綺麗に、撮ってください……」
いやいや、これはおかしいだろ。何を最低な想像を本人の目の前でしているんだ、俺は。
具体的なことは何一つ想像上の会話の中には出てこなかった。出てこなかったけど。どう見たっていかがわしい方向に向かっているのは自分でも否定ができない。もう自己嫌悪するしかなかった。
「あの、ごめんなさい」
「え、何が」
そうして俺が猛省モードに入っている最中のことだった。むしろ俺が言うべきことが、鴨紅さんの声で耳に届いてきた。
俺の心境を見透かされているような気がして、汗が出そうなほど動揺しているのを自分自身感じながら、聞き返してしまう。
「私なんか撮っていても、つまらないですよね……」
だが、鴨紅さんが帰した言葉は当たり前ながら俺とは違っていた。
何を理由にそんなことを言わせてしまったのか、一瞬悩んだものの、少しして気づく。意識が最低な妄想に走っていた間、俺の手は鴨紅さんにカメラを向けることもせずに止まっていたようだ。現実に、俺のカメラを持つ手は目線の位置になかった。
「何も話してくれないですし……」
「え、えっと」
とはいえ、理由を正直に言えるはずもない。俺は言葉に詰まった。
「その、できれば何か話してほしいです……」
とりあえず俺の想像した展開にならなかっただけ良かった。と、そうなる可能性を少しでも考えてしまった自分自身に呆れながら思っていた。




