表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の従僕   作者: トール
 第二章 従僕とお店を立て直す
61/99

従僕49



 思わしくない。


 どうも関わっているのは学園側ではなく生徒側の貴族様であるようで。


 従僕の予想と違った展開となってきている。


 学園の自治というのは理事会と言われるメンバーが決めている。わかりやすく言えば学園の出資者や各国の王族でいいと思う。流石に内情まではわからないが。


 つまり学園内、いや外壁の内側の采配はここで決定されているようなのだ。学園街で開くお店や平民の雇用、運営に関する全て。お城のような『学舎』の中は、また違ったパワーバランスがある。あくまでそれ以外である。


 最も力が強い……というか差配を振るえるのは我が国であるらしい。我が国にあるのでそれは仕方がないと思えるが、実情は面倒を投げているだけだとか。


 その上で『こういう店は入れて欲しい』『我が国では必須なので』といった請願というか通ると思っている要望が届くらしいので、そこに嘘はないと思われる。


 つまり学園の理事会、その下請けをしている我が国の事務方が開業と撤退を指示していると従僕は考えた。ここにお店を開いているだけで助成金が出て儲かるらしいので、店側には得しかない。しかも学園にお店を出しているというのはそれだけで名誉なのだとか。理論の上では自ら退くお店など存在しない、と。


 ……本当かな? 従僕も数えられない程の栄誉を貰ってきたが、遠慮したいとは胸の内に秘めることが出来ない想いだ。度々言ってきた。


 恐れ多い、という言葉はそのままの意味だと捉えている。


 そんな従僕の考えが例外だとすると、やはり学園側の決定なのだと思いきや。


 貴族様は撤回すること自体がお好きじゃないようで。


 もしお店の撤退などが決まったとしても、それは学園とお店の両方の合意が得られている場合に限られるそうだ。


 三国の肝入りを入れてきているのに「あ、やっぱり無しで」では面目に関わるんだと。貴族様面倒だな。知ってた。


 なので学園街にお店を出したけれど「あ、やべっ」となったお店は『奇人街』のお店へと寄せられる。あの一角にも意味があったのだと知り従僕はフラフラしたものだ。決してサウナな長時間利用が理由ではないだろう。


 そんな体裁も突破したのなら、あのお店ってもう潰れるべきなのではないかと従僕は思います。


 しかしあのお店を潰して土地の一角を確保したいと圧力を掛けているのが、学園側ではなく生徒側だというから話がややこしくなってくる。


 お嬢様は公爵家の血筋なので、王家の血脈に繋がる。これが学園側がお店の撤退を申し出ているとなると、不死鳥の一声でお店は蘇るだろう。迷惑なことに。


 だが撤退を学園側に申し出ているのが生徒側の貴族。その貴族様に翻意を促せる必要がある。学園内のパワーバランスが関係してくることになる。


 パワーバランス……決闘かな?


 まさか従僕がそれを口にする訳がない。ここはお嬢様の内在的な敵となってベレッタさんの味方をするのもいいかもしれない。


 というのも。


 お休みの二日目は、従僕にお休みをくれたお嬢様。魔道具で疲弊したであろう従僕の体を慮った配慮だ。透けて見える思惑とベレッタさんの視線で二重に気が重くなりました。潰れろとおっしゃってるのか。


 お嬢様の意志のままに情報収集に走る従僕。メイドはお嬢様のお付きなので休みの日の従僕などはノーマークだろう。ベレッタさんへの報告も、お嬢様の行動に関してだ。


 従僕の一日ではない。


 これに「今日何してましたか?」と訊けば済む話なのだが、下々の一日を気にするなど貴族にあってはならないようで、ベレッタさんはその日の報告を求めてこなかった。ベレッタさんの方がお嬢様と一緒にいたために。うるさい方のメイドには菓子をくれてやった。食べている間は静かだろう。


 学園に通う平日となって集まった情報を纏めると、そろそろ動きがありそうな両者だ。


 しかし優勢なのは我が主となっている。


 挫けそうだ。


 もしやメイドとの密会を知っているのではと思えるほどに策を回すお嬢様。従僕と余計な会話を交わすこともなく、淑女然と振る舞う様は外見に騙される哀れな羊を量産されるばかり。


 そう。不要な会話がないのだ。従僕への指示もない。何かの経過を聞くこともない。接触することもない。疑いを持たれそうなことは一切、ない。


 これはつまり従僕が勘違いをしていたのでは? ……などと考えている時に限って……。


「……」


 チラリと視線を溢すのだ。


 嫌なくそ餓鬼に育ったものだ。誰だよ教育係。


「どうされましたマリスティアンさま?」


「わたし、マリスティアンさまのお部屋に行ってみたいわ!」


「まあ! それは余りにも不躾よ」


「……ほんと、おキレイ……」


「あなた顔が赤くなっていましてよ?」


「王都でのお話を……」


 三限が終わり昼食の時間。


 近衛は鈴なりになった貴族のお嬢様方の後ろを離れて歩いている。尤も近衛は俺だけなのだが。


 お嬢様にまとわりついているのは、子爵以下のフットワークの軽い同級生の子女様だ。普段なら澄ました顔をしていても辟易とした雰囲気に包まれているのに、今日なんか極上の微笑など浮かべるものだから通りすがりの男子生徒などが魔の手にかかっている。


「……なんでもないわ。行きましょう」


 ふと思い深げに振り向いたお嬢様に黙礼で返す従僕。そこには指示を待つ近衛といった、ありふれた光景でしかなかった。そして指示せずに歩き出すというのも、この学園ではよくあることの一つだ。


 奴隷頭……外の世界には危険がいっぱいです。戻ってはダメでしょうか?


 学園内でのパワーバランス。


 これは派閥の持つ力が大きく関係してくるのだが、お嬢様は例外的な時の人となっているので、圧力を掛けている貴族様やその理由によっては、あっさりと転ぶ可能性が高い。しかしプライドを重んじられる貴族様にとっては形式だけでも抵抗したと見せるために決闘を行ったりもするそうだ。無論、代理で。転ばなかったルートも同じなのだというのだから、パワーバランスとはなんなのか。


 ……貴族様の剣って痛いんだろうなぁ……。


 目だけで会話する主従というのが存在するそうだが、正確ではない。


『わかってるでしょ?』


『くそ餓鬼め』


『ドキドキね!』


『破裂しろ』


 翻訳によって多少理解が違うのが必然だと思う。


 そんな先週とは明暗が裏返った主従が歩いていると、


「あっ」


 器材を両手いっぱいに抱えた生徒が鈴なりご令嬢の一人とぶつかった。


 まあ、かなり広い道幅ですが人数が人数な上に、器材で視界を塞がれていたようなので仕方ないだろう。


 咄嗟に駆け出して、零れ落ちる器材を片手で器用に受け止めて反対の手で転びかけた生徒の脇を掴む。


 ……しまった。つい奴隷時代の癖で。スープの皿とかぶちまけると悲しい顔になる奴隷が多かったから。


 すわ何処の貴族様だと確認したところ、前髪に隠れるその瞳はいつかの自己紹介で見たお嬢様お気に入りの平民生徒の一人。


「あ、ありがとう、ご……ます」


 ぼそぼそと恥ずかしげに声が消え入る前髪様。


 ううん。こちらこそごめんなさい。


 だってお嬢様が包囲を抜けてツカツカと早足で近付いてきているから。


 本当にごめん。俺に悪魔を退ける力がないばかりに。


 お嬢様は未だに前髪様が持っている荷物を引ったくると、従僕に預けてくる。


 そして前髪様の胸辺りをペタペタと触り出した。


「……え?! …………なっ、…………あ……の! ……」


 顔を赤くされる前髪様にお嬢様は頷く。


「……よし。だいじょーぶ」


「は、はい! だ、だい……」


 なるほど。怪我を心配されていたのか?


 少しお嬢様の行動としては疑問が残るところだが、淑女期間中だ。そういうこともあるだろう。


 再びツカツカとご令嬢の輪の中に戻るお嬢様。少し呆気に取られていたご令嬢方だが、怪我の心配をされたのよという呟きにキャアキャアとハシャぎ始める。


 そして歩くのを再開した矢先に振り向いて、


「……ああ、そうだわ。……ジーク。その方の荷物を運ぶのを手伝ってあげなさい。そのままでは、今度は事故を起こしてしまうわ」


 優しげに微笑まれる。


「畏まりました」


 頭を下げる従僕が横目で前髪様を確認すると。


 夢見るような表情で顔を赤くされているご様子。


 ……お嬢様、既に起こった事故は従僕のせいではないですよね。


 平民キラーと呼べばいいのか。


 呼んだらきっと栄誉を賜ってしまうので止めておこう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ