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ラウターラ魔術学園⑤


 かつて、大罪迷宮を封印した“白の魔女”は弟子をとっていた。


 白の弟子達がどのようにして白の魔女に弟子入りし、どのようにして彼女の技術を継いでいったのか。何故彼女が類い希な己の秘術を、血縁関係すらない弟子達に惜しみなく分け与えたのかは定かではない。

 危機を前に、備える必要性を感じたのだとも、大罪迷宮との戦いに命を費やしすぎた結果、死期が迫ったため、自分の技術を残そうとしたのだとも言われている。確かなのは、彼女が弟子達をとり、そして彼らにそれぞれ教え与えたということ。


 その弟子の一人が、リーネの先祖だ。


 その当時は官位はおろか、レイラインという姓すらもってはいなかった。もっと言えば、名前すらなかった。

 何しろ、リーネの先祖は奴隷だったのだから。

 小人は、かつて迷宮が出現する前は、被差別種族だった。

 どのような経緯で、小人を白の魔女が弟子に選んだのか、これもまた様々な説がささやかれたものだが、今は置いておく。ともかくとして、その小人はその技術を学び、同時にレイラインの姓を受け取った。後に出来る大罪都市ラストの一員として受け入れられ、そしてその子孫へと白の魔女を技術は受け継がれた。


 だが、引き継がれたその魔術は、“特殊”だった。


 魔法陣。

 それがレイラインが継いだ魔術である。決して、それ自体は珍しいモノではない。魔術を多少かじるモノならばだれでも扱えるような基礎魔術。今や都市の中を歩けば必ず目につくであろう、魔術の基本中の基本。


 それを、“尋常ならざる域”まで構築したものが、レイラインの魔術だった。




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 リーネは描き、舞う。


 身の丈ほどある魔女の“筆記具”を用いる。【白筆】という、レイラインに伝わる魔法陣を生む魔具。魔力を込め、地を掻き、魔力の線を引く、込められた魔力の光は強く瞬きながらその場にとどまる。

 幾重にも重ねられた式と模様が形をなしていく。力ある光の線が鼓動しながら、まるで絵画を生み出そうとするように細やかな軌跡を描いた。

 リーネがそのように魔法陣を描き始めて、かれこれ10分以上が経過していた。


「……ディズが暇つぶし出来るものもってけと言った理由が分かった」

《にーたんはなによんでるん?》

「魔物事典。面白くないぞ」

《えはきれいよ》

「此処の図書館の本、指輪見せたら貸してもらえるかね……」


 ウルは腰掛け、魔物事典を見ながらも懐から聞こえてくるアカネの声にひっそりと答える。リーネが魔術を構築している間、ウルは本を読みながらその時間を潰していた。

 最初はちゃんと見学していたのだが、やはり最低でも一時間眺め続けるのは無理があり、早々に諦めた。そもそも見学したところで魔術の知識の浅いウルが得るものなどない。どの程度の時間が必要なのかという確認は必要だが、後は結果を見せてもらわねば判断は出来ない。

 余所事を始めたウルにリーネが悪印象を抱くかもとも思ったが、見学者の飽きは覚悟していたのか、あるいは集中してよそ見をする余裕がないのか、彼女は魔法陣を描く手を休めず続行していた。


「……!!…っく……!!」


 鬼気迫る表情で、その小さな身体全てを使い、箒を振り回す。怖いくらい真剣だ。 

 そんな彼女の前で読書などなんだか申し訳ない気もしたが、毒花怪鳥の件はウルにとっても真剣だ。この仲間捜しの本題でもある……が、図鑑を読み返しても得るものはあまり多くない。魔物事典の知識が不足している訳ではない。だがウルは既に何度もこれを読み返している。毒花怪鳥に関しては特に入念にだ。

 故に今更読み返したところで、新しい発見が得られるわけではなかった。


「さて、そうなると……」


 ウルは本を丁寧に鞄にしまうと、別のモノを取り出した。手のひらに収まるぐらいの球、子供達が遊ぶためにあるような球だった。


「朝の鍛錬の続き、やるか」

《てつだう?》

「んー……他の学生が来たら隠れてくれな」


 がってんだー、と楽しそうなアカネは笑う。

 ウルはアカネの頭をなでつつ、自身の冒険者の指輪を手の甲に当てる。己の魔名が手の甲に浮き上がった。


「……【二刻】か。シズクにようやくおいついた」


 ウルの魔名は以前のそれと比べ、一画増えていた。

 【二刻】

 冒険者になって二月と少しという事を考えれば、かなり異常な速度と言える。だが、現在のウルの戦闘経験は常識的なものからはかけ離れている。一月で賞金首の宝石人形を打ち砕き、二月で死霊の軍勢を砕いた。それを思えば、遅いと言っても良い。

 魔名は己が魔力の特性の反映、即ち“魔力の貯蔵臓器”である魂の可視化である。魔名の刻印数が増えたということは。魂が魔力を吸収し強くなったことを意味する。


 そして魂は強化が進むと、本人の意思や環境を反映し、肉体に大きな変革をもたらす……筈なのだが


「そろそろ、なにかしらの異能が宿る……はずなんだがなあ?」

《にーたんはいつものにーたんよ?》

「へこむなあ」


 シズクが【聴覚】の覚醒に至ったような異能の獲得を、ウルはまだ出来ていない。

 魔力を吸収した事による単純な身体能力の向上については流石に自覚があるものの、異能、というレベルの肉体の変化は未だウルの中では起こっていない。

 大体銅の指輪を獲得する段階に至れば、肉体が特徴的な強化を得る事が多いという話は聞いている。超短期間での指輪の獲得とはいえ、ウルは遅咲きだった。


《にーたんおっくれってるー?》

「つらい」


 同じタイミングでスタートしたシズクに差をつけられる事に焦りを覚えないほど、ウルは達観などしていない。シズクがどれだけ天才的な少女であると理解していたとしても、やはり焦れる。

 が、同時に、焦ったところで自分の足は速くならないことは理解している。焦り、空回りしてすっころぶような愚を犯すまい、と、ウルは深呼吸を一つし自らを戒めた。


「さて、いくぞアカネ」

《さあこいにーたん》


 ウルは先ほど取り出したボールを掴むと、それを振りかぶり、そして空を舞うアカネへと投げつけた。魔力で強化されたウルの肉体から放たれたボールはすさまじい速度でまっすぐアカネへと向かう。

 するとアカネはボールがぶつかる瞬間にその姿を“大きな手のひら”の形に変え、受け止める。そしてそのままウルへと投げ返す。

 要は、投擲の練習である。死霊術士の討伐以降、ウルはずっと投擲の練習を続けていた。アカネにもその時々でこのような形で手伝ってもらっていたのだ。狙った場所、狙ったところに全力で投げつけ、当てられるように。


《にーたんちょうしいい?》

「ああ、最近、コツが、わかってきた」

《こつ?》

「目標物をよく見ると当たる」

《あたりまえのことをドヤってるのよ》


 おかげで命中精度はかなりよくなってきていた。手に持っているモノがボールに限らず、石ころ、土、木の枝、剣、槍、竜牙槍であってもだ。短期間でなかなかの習熟度に至っている。

 ただし、それは敵から命を狙われない状況下に限る。勿論そういったパターンの練習も続けているが、本番でどこまで正確な投擲が可能か、といわれると難しいところではある。


 その不安を打ち消すためにも、やはり必要なのは練習だ。


 どれだけ時間を引き延ばそうとも、努力を積み重ね続けるだけの時間はウルにはない。それでも、わずかにでも、鍛錬に打ち込む。それがたとえ無駄な努力であったとしても――――


「おやあ?公共の練習場を占領して無駄な努力をしているやつがいるなあ?」


 ぶっころすぞ。と、ウルは思った。



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[一言] 勘違いコントやんwwwwww
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