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かくして少年は迷宮を駆ける  ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~    作者: あかのまに
外伝 悪食のカルメⅡ 悪食冒険者の経営コンサルタント
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騙魔茸


 自分はどんな風に死ぬのか、と考えたことはある。


 冒険者なんて職業を選ぶと、どうしたって死というものは近くなる。

 昨日飲んだくれていたヤツ、楽しそうに笑ってたヤツ、うだつあがらないヤツ、そう言う奴らがある日突然いなくなると言うことはある。

 だから死ぬことは考えるようになる。

 どうせ死ぬなら、仲間を助けたりだとか、なにかを護ったりだとか、そういう死に方がいい。劇的な死に方なんて、木っ端冒険者には望むべくもないとわかっていても、そう思う。


「う、うう……!」


 だから、こんな風には死にたくはなかったと冒険者のケルルは思った。


 わからなかった。なぜこんなにも追い込まれているのか。

 いつもどおり魔物を退治した筈だった。決して油断はしなかったし、抜かりはなかった。確かに少し、()()()()()()もあったが、違和感程度のもので、気にすることもなかった。


『ooo……』


 そう、いつも通りだったのに、今ケルルは無数の魔物達に囲まれている。

 そんなはずがない。絶対に、こんなにも多くの魔物に囲まれるはずがない。ちゃんと周囲を探索していた。魔物は可能な限り退治して森の中を進んでいった。

 一体一体、確実に倒していった筈なのだ。

 なのに今、こうなっている。


「け、ケルル……!」

「な、なんでこんなことに……!」


 仲間達の怯えた声。既に傷を負って、動けなくなってる者もいる。この無数の魔物達の包囲を超える手立ては見当たらない。


 死ぬ。終わる。そんな悪寒が身体を震わせる。


 でも、納得できなかった。選択が間違っていないはずなのに、こんな風に追い詰められるのはあまりにも腑に落ちない。もしかしたら、自分が気付かない間に間違いをしてしまったのかもしれないが、それならそれを教えて欲しかった。


 なにも分からず、なにもできず、無為に死ぬのは嫌だった。だけど、


『ooooooooo!!』

「ッ!!」


 勿論、魔物にそんな嘆きは聞こえない。奇妙なヒトガタの魔物が、棍棒のような巨大な腕をこちらへと振り上げる。

 絶望と死が、ケルルへと迫り――


「良く持ちこたえたな」


 ――その死を、彼女は断ち切った。




               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 魔物一体から取れる食材の量は相当なもので、できる料理も多種多様だ。


 しかしそれを試食するのは女子三人、カルメは相当な健啖家だが、それでも限界がある。ライバル店の偵察も挟まったことも考慮し、一度しっかり腹休めを挟むこととなった。

 その間、カルメは「新たな食材を調達してくる」と再び外に出かけた。残されたナナとソフィアはというと、


「うんっしょ……! っと……!?」

「ほら、ムリしなさんな。私に任せなよ」

「お、おお……さすが冒険者ですね……!」


 店の模様替え作業を開始していた。

 現状、閑古鳥が鳴いている現在の店の状況をそのままにしてしまっては、客を再び呼び込むことは難しいだろう。リニューアルしたのだ、ということが外観でも分かるようにするために、模様替えをする必要があった。

 とはいえ、もちろん業者を雇ったり、新たに家具を購入する余裕まではない。ということでナナとソフィアは一緒に店舗の刷新に奔走していた。


「一応それらしくはなった、かね?」

「そ、そうですね……!」


 やや小さな机を並べてくっつけてテーブルクロスをかけて、窓の光が良く差し込むように、開放的に、そうやって家具の配置を変えていくと、いくらかそれらしくなってきた。


「でもよかったの?」

「なにがですか?」


 こうして作業を一通り終えて一息ついていると、不意にナナがそう言った。彼女の表情は少しばかり申しわけなさそうで、ソフィアは首を傾げた。


「アンタの店だろ? 私らの口出しでどんどん変えちゃって」


 そんなソフィアの疑問に答えるように、ナナは続ける。


「何度も言ってるけど、店舗経営については私ら素人だよ? 助言の通りにしたからって上手くいく保障はしない」

「それは――分かってます」


 確かに、ナナの言うとおり、彼女たちは冒険者としてはベテランであっても、店舗経営のプロではないだろう。魔物料理はともかく、店そのものの印象に関しては、あくまでも客としての感想にすぎない。それはわかっている。

 それでも、彼女達の指摘は的外れには思えなかった。今まで料理にばかり気を取られてできていなかった部分だ。


「諦めたくはないんです。だからできることは全部やりたいんです……!」


 今のソフィアはやる気に満ちていた。少し前まで停滞し、しかしどうしていいかもわからないまま、うなだれるしかなかった。だけど、今のソフィアにはやれることがある。それが嬉しかった。

 なにをして良いかも分からず蹲って、そのまま死んでいくよりはずっと良い。頑張ればきっと、今度こそ――


 そんなソフィアの答えに、ナナは肩を竦め笑った。


「ま、良いっていうなら構わないけどね。私もできる限り手伝うよ」

「ナナさん……!」

「もちろん報酬は払ってもらうけどね?」

「うっぐ、が、頑張って成功して、稼ぎます……!」


 当たり前ではあるが、この最後の挑戦にまで失敗したら、店が潰れるのみならず二人に報酬を支払えなくなる。ソフィアは気を引き締め直した。


「頼むよ? 私はともかく、銀級のカルメはちゃんと報酬受け取らないと――」

「――戻った。新たな魔物食よ」

「まあ、当人は食欲優先なんだけどね」


 自分のことを心配しているなどとつゆ知らず、巨大麻袋を掲げるカルメにナナは苦い顔をするのだった。



               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 さて、次はどのようなゲテモノを用意したのだろうか、とソフィアは身構えたが、


「あ、キノコ、ですか」


 中身は、これまでの連中と比べると比較的マトモな見た目……というよりも、そのまんまキノコだった。なにやら胴体にうっすらと、顔のような模様が見えるのが少しブキミで、サイズがかなり大きいが、それ以外は普通の食材に見えた。


「うわ、でた」


 しかし一方で、ナナの方はそれを見た瞬間大変嫌そうな顔になった。他の魔物食への忌避感とは別の、なにやら嫌そうな顔である。


「知ってるんですか? ナナさん」

「悪名高き()()()()、【騙魔茸(ダマノコ)】って魔物」

「初見殺し?」

「とある新人冒険者の一行(パーティ)が森の中で、魔物討伐に向かった」


 森の中の魔物達は、それほど強くなく、新人冒険者達は順調に倒していった。しかし倒していく途中で、何か違和感に気がついた。


 ――倒しても、魔石が出てこない魔物がいる。


 通常の魔物は、その内側に魔石を有している。依頼とは別に、それを集めて都市国と取引して金銭を得るのが冒険者にとって貴重な収入源だ。にも拘わらず魔石が手に入らない魔物がいる。


 だが、魔石が出てこないことは、割とある。


 たとえば魔石が小さくて気付かなかったり、受肉していたため身体が崩れず肉体のどこに埋まっているか分からなかったり、あるいは魔物ではなく単なる野生生物と間違えた可能性もある。


 違和感をそういった“下振れ”の類いと流して冒険者達は先に進む。だが、それこそが罠だった。


「先に進むほど、魔石を落とさない魔物が増えいく。それどころかさっき倒したはずの魔物が復活しはじめる」


 そして最後には消耗し、復活し続ける囲まれて、殺されてしまう。


「要は、その魔物達はこのキノコが造り出した偽物なのよ。コイツの菌糸と魔力を使って周囲の土塊をそれらしい形に整えていたの」


 あくまでも形を整えているだけであるから、経験豊富な冒険者であれば。あるいはこの罠を知っている冒険者ならばすぐに気付いただろう。

 しかし経験の浅い、知識のない冒険者は、この罠に嵌まってしまうのだ。


「でも……その本体のキノコがこんだけ大きかったら気付きません?」

「普段地面に埋まってんのよコイツ。」

「うわあ」


 単純だが、中々の邪悪さである。本体の隠れている場所に気付けなければ延々と、死なない魔物達の相手をしつづけて疲労してしまうのだ。


「呼吸のためなんだか光を受けるためなんだかしらないけど、頭頂部だけは出てる。隠れている位置が分かりづらくてね」

「だから初見殺し……」


 知っていないとどうにもならない邪悪な戦術。魔物というのが人類の敵であると、ソフィアは改めて思い知らされた。


「私は新人こそがコイツを相手すべきだと思ってる」


 しかし、そんな感想を抱いたソフィアとは真逆のことをカルメは言い出した。


「この茸の位置を探る手段は単純。コイツが手繰る菌糸、魔力の流れを辿ればすぐに分かる。そして“魔力の流れの感知”は冒険者は誰もが身につけるべき技術の一つ」

「ま、それはそうだね」


 こういった搦め手を使う魔物以外であっても、たとえば迷宮の探索時、あるいは巨大な魔物の急所を探る手段等々、様々な場面で必要になる技術ではある。


「コイツが一番危険なのは、まったく別の探索中に、予期せぬ形でコイツに騙されて、真っ当な魔物と合わせて囲まれてしまうこと」

「だから、真正面からコイツと戦って学ぶべきと?」

「倒し方を明記して、報酬を乗せた依頼(クエスト)で血肉に染みこませる」

「新人冒険者の育成、か……」

「そして魔物食の理解を更に進める」

「全部食欲で動いてるのがね……ま、それはともかくとして」


 逸れた話を戻すように、ナナはカルメが貫いたであろう、頭頂部を貫かれた騙魔茸(ダマノコ)を指で突いた。


「結局美味しいの? コイツ」

「調理してみましょうか」


 ここからはこちらの領分である。腕まくりしながらソフィアは頷いた。



               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「スープは先にやったので、別の方向で色々と試してみました!」


 というわけで色々と並べてみた。パスタにアヒージ、キノコステーキにキノコソテー等々、ナナと共に大きく広げたテーブルに次々と並べていく。


「ここまでキノコ料理が並ぶのは圧巻……嫌いな奴が見たら卒倒しそう」

「匂いがちょっと独特。でも癖になる」

「あー、なるほどね。私は好きだよコレ」

「大きいから懸念していましたけど、大味な感じでなく良かったです!」

「量も大きいからコスパも良い」

「ま、確かに…………問題は」

「問題は?」


 聞かれて、ナナはしばし沈黙した後、苦笑いしながら言った。


「新人達の生き血を啜ったキノコを皆が食べるかって所」


 一同は沈黙した。暫くした後、カルメはゆっくりと首を傾げる。


「魔物食してて、今更気にするところ?」

「それはそうなんだけどさあ~~~~~!」




               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



  名前:騙魔茸(ダマノコ)

  階級:十二級

 生息域:衛星都市国メニト南部、ルガ深林 深部

 注意点:胴体が土で汚れているので【浄化】などで洗浄すること

     石突きにあたる部分がやたら固いので切り落とす。

 調理法:一般的なキノコと同じで多種多様。

     ただ、香りが独特なので、生かすか誤魔化すかは考える必要がある。

   味:ほのかに甘く、弾力のある触感で噛みしめると旨味がでる。     

  メモ:魔物食の多様さには驚かされる。

     問題は「初見殺し」の異名が食欲減退になりかねないところ?

     とはいえ、魔物食を掲げる以上、そこは元々かも?

     尚、カルメさんは「新人冒険者訓練推奨依頼としてギルドに交渉する」

     と言っていた。

     本当に魔物食を広めるためのカルメさんの行動力は凄いと思った。




次回 11/28


さて「かくして少年は迷宮を駆ける」4巻発売です!

応援してくださった皆様のおかげでございます!ありがとぉー!


というわけで特典紹介!


ゲーマーズ 様:書き下ろしSS入り4Pブックレット

「おうちでできる!簡単家庭菜園!」

https://gamers.co.jp/pd/10843394/

メロンブックス様

書き下ろし小冊子

「竜呑ウーガのよりみち珍道中」

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=3265015

書泉様

「【歩ム者】一行の食事事情、あるいは悪食許容量について」

https://shosen.tokyo/?pid=189411167

BOOK☆WALKER 様

「「珍しい」にご用心」

https://bookwalker.jp/def42ff796-1a7d-40de-be7d-1441bca72cf0/


次ラノノミネート中なのでこちらももしよろしければ!

https://tsugirano.jp/


できる事なら今後ともよろしくです!


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初見殺しを食するために、初見殺し殺しが発生するんかなぁ…?
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