あたたかな陽だまりの中で / そして――
目映い光に目が眩み、そして眼を開くと青い空が見えた。
ウルが座っていたのは、ウーガの中央に存在していた公園だった。現実のウーガは決戦のため一時的にベンチや噴水の類いなども無くなっており、寂しくなってしまった。
だが目の前に広がる光景は以前のままだ。差し込んでる光は暖かかった。
シズクの記憶の再現だと分かった。ウルの隣で疲れ果てたように身体をこちらに預けたシズクが、強くしっかりとウルの手を握りしめているのを見て、ため息をついた。
「ほんっとうに、やれやれだよ……おっと」
掌から何かがこぼれるような感覚を感じて、ウルは右手を開く。するとさらさらと、ロックが残していった骨片が砕けていくのが見えた。
この場所は現実ではない。だけど、目が覚めてもウルの懐にはもうロックの欠片はないだろう。彼は役割を終えたのだから
「ロック。助かったよ」
返事は当然なかったが、何時ものカタカタとした笑い声が聞こえた気がした。その声を送るように目を瞑り、そして開くと、目の前には代わりにディズとアカネが立っていた。
「やあ、お疲れ。と言っても、私も面倒かけた側だけどね」
ディズは肩をすくめ、笑うとウルの隣に腰掛ける。ウルも笑みで返した。
「シズクの百倍楽だったよ、お前の時は」
「もう少し面倒くさい方が良かった?」
「何故」
「面倒くさい女の方が好みなんでしょ?」
要らんことを聞かれていたらしい。ウルは口をひしゃげさせた。
「勘弁しろ。いやマジで。そのままでいてくれ、今のお前が最高だ」
「わーい」
馬鹿なやりとりをしている間に、アカネは少女の姿でウルの隣で座り込んでいるシズクへと近づいた。
「シズク」
声をかけられて、シズクは顔を上げる。あのあまりに昏い場所からでた後も、彼女の顔色は余り良い状態とは言えない。目は腫れて、グッタリとして、本当に疲れ果てていた。
「……はい、アカネ様」
それでも、小さく微笑むことくらいは出来た。普段彼女が見せていたような、他者を魅了する美しい笑みでは無かった。小さく、控え目で、そうと分からないくらいの小さな笑みだった。
「ちゃんとないた?」
問いかけに、シズクはこくりと小さく頷いた。アカネは彼女の額を撫でて、笑った。
「よかった」
アカネはそう言って、彼女の身体を抱きしめた。疲れていたからなのかも知れないが、シズクは拒絶することは無かった。
「私」
しばらくの沈黙の後、声をあげるだけでも体力を消耗するのか、本当にゆっくりと口を開いた。その言葉をウル達は黙って待った。
「私、どうすれば良いんでしょうか」
迷子の子供のような、か細い言葉だった。
この期に及んで、とはその場の誰も言わなかった。壮絶な嵐を超えて、ようやく素の彼女が顔を出したのだと全員が分かっていた。彼女の膝に乗っているアカネは、シズクの顔をのぞき込むようにして尋ねた。
「シズク、これからなにがしたいの?」
「なにを、する」
再び、沈黙した。しかし今度は疲れ果ててと言うわけでは無く、なんとか必死に、自分の内側から言葉を探しているのだと分かった。そして、しばらくすると、
「許されないことを、しました。償わなければ、いけないのです」
後悔の言葉が紡がれた。
後悔の理由は、解る。苦しみの中で、彼女はその痛みから逃れるために地獄へと進んだ。無論、そこには大義は存在したし、間違いだったと断じるのも違うことだ。だけど、彼女自身が、自分から目を背けるために利用していたのは紛れもない事実だった。
それを真正面から指摘されて、耐えられなくなって、心が折れた。
その事に対する後悔は解る。どれだけウルやアカネが彼女を抱きしめても、傷はまだ癒えてはいない。魔術でも、神薬でも、肉体しか傷は癒やせない。それはこれから時間をかけて回復させねばならないことだ。
「わるいことしたら、あやまらなきゃいけないのは、そうよ?」
アカネもそれはわかっていた。だから彼女の手を取って、ゆっくりと話しかける。
「はい」
「でも、シズクだけじゃないのよ」
「私、だけ」
アカネはシズクから離れると、空いている手を両手で握った。
「あなたをつくったひとも、あなたをそだてたひとも、あなたにおしつけたひとも」
シズクがここに至るまで、多くが積み重なった。彼女だけの意思でここまでたどり着く事はなかった。
「ディズだって、わるいわ。イスラリアをたすけようとして、せかいをみすてた。ワタシもそうよ?ディズをたすけたもの、おんなじ。にーたんなんて、いうまでもなくアレだし」
「アレ」
「いま、こうなったのは、みんながえらんだから」
そう、この世界に責任がないものなんていない。
全ての人類が、各々に責任を負うのだ。誰かに託したのなら、託したという責任がつきまとう。そしてそれは権利でもある。
「せきにんは、みんなのものよ。みんなのもの、とっちゃダメよ」
だから、それを全て奪って、自分だけで背負い込んではいけないのだ。
シズクがこうなった過程にも、無数の者達の思いと、責任があった。彼女は実行者に過ぎない。その彼女が、全ての業と責任を背負うのは違うことだとアカネは言っていた。
「アカネはちゃんとしているなあ」
「本当にねえ……」
「ふたりもちゃんとしてな?」
「「はい」」
アカネに言われて、二人は反省した。
「……」
シズクはアカネにそう言われて、その後しばらく沈黙した。まだまだ、回復するには時間がかかるだろう。出来ればもう少し休ませてやりたいところではあるが、
「もう、あまりもたないか……」
ウルは空を見あげると、僅かに上空にひび割れが入っていた。
間もなく、この空間が崩れる。
元々、二人の勇者に同時に干渉するなんていう無茶をしたのだ。加えてウルの力自体も不安定、何時までも維持出来るものではない。時間はない。
だが、まだもう少しこの場所には用がある。
「今の間にやるべき事をやるか」
「やること?」
「暴力なしの話し合い」
最初からこれが出来ればどれだけ早かったか解らない話し合いがようやく始まった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「まず大前提、お前ら二人とも神やるの無理って事で良いな。っつーか無理だった。事実として」
ウルはそう言うと、ディズは少し申し訳なさそうに頷き、シズクは無言でウルの手を握る力を少し強くした。
「…………」
「だね……無責任って言われるかも知れないけど、個人が背負えるものじゃなかった」
ディズはしみじみと語りながらも、ウルを挟んで座るシズクを見て、眼を細める。
「正の感情を糧とする太陽神で根を上げて、情けないことだけどね」
確かに、純粋な操りやすさで言えば、太陽神の方が整備はされていたのは事実だろう。竜によって強引に操られ、膨張していたシズルナリカと違い、太陽神ゼウラディアは七つに分割されていたとはいえ、歴代の七天達はそれらを正しく使いこなしていた。
そういう意味では、先にシズクの精神が潰れかけたのは、なにも当人達の状態が問題では無いのかも知れない…………が、それはそれである。
当人が無理だと自覚したら無理なものは無理なのだ。
「ディズが偉いのは、潰れる前に無理って言えた事だよ。こっちのアホと違って」
「あほー」
「あ、う」
ウルとアカネが左右からシズクの側頭部をつつくと、弱ったシズクは声をあげながらもされるがままになった。本当に弱り切っている。この有様で神様になろうなどと笑わせる。
「ただ、だからってなにもかも投げ出す気にもならないのも本当なんだ」
「…………私も、世界を、見捨てたくはありません」
ディズに続くように、シズクもぽつりと言った。
「嘘もありました。でも、“皆”が、皆を、助けたいと思ったのも、本当です」
「わかってる。俺も魔界にダチできたしな。やっぱナシなんて言いたくねえよ」
ディズとシズクの言葉にウルは頷く。無論、ウルとてそれは同じだ。そしてそれを説明する為にも、今この場を維持している。
「二つの神を使って、惑星そのものを再生する……疑うわけじゃ無いけど、再生なんて可能なの?」
「世界がこうなる前から計画していたグレーレと、ウチのリーネ、魔界の研究者やってたシンタニ、そんでもってノア……方舟の監視装置の話も全部摺り合わせた。確度はある」
方舟、魔界、信頼の置けるウーガの魔術師に、ヒトじゃない存在まで、全員が打ち合わせ、判断したものなのだ。勿論まるっと完璧などと言うつもりはないが、ギリギリまで検討を続け、そして「GO」を出したリーネの事をウルは信頼している。
「再生の過程で魔界も、大変なことにはなる。それは避けられない」
「神も失われるから、連鎖で精霊の繋がりも薄くなると。なるほど、現在社会の崩壊だ」
ディズは情報をテキパキと飲み込んでいく。事前に説明をしていたこともあるが、話が早くて大変にありがたかった。何度か情報を咀嚼するように頷いた後、彼女はシズクへと視線を移した。
「でも今なら、ある程度融通出来るのでは?」
「……」
ディズの言いたいことは解る。
今はシズクがへし折れた。実質的に世界側の戦力はほぼシズク一人で担っていた。その彼女一人で方舟が滅びかかる寸前までいったのは本当に怖ろしいが、その彼女を抑えることができた今なら、ある程度落ち着いて話が進められるのは確かだ。
だがそこにも問題はある。
「口で説明するか?「これから神が消えて、精霊が遠ざかり、方舟が失われますが、敵の世界を救うためなので納得して下さい」って」
「むう」
本質的に、外の世界が方舟世界にとって敵である事に変わりはなく、救う理由がない。勿論、道徳的な観点からこちらの意見に同意してくれる者もいるだろうが、そうでないものもいる。民主的な話し合いを行おうとすると、確実にこじれ倒すのが見えていた。下手すれば数十年単位で。
そして、恐らくその間に外の世界は滅ぶというのがシンタニの情報だ。
「魔界側も同じだな。資源不足は解消しますが、より危険なデンジャラス世界になるかも知れませんが呑んで下さい、が通るか?」
「……そもそも、外の世界は今、大部分が断絶しています。話し合いを設けるだけでも何年かかるかわかりません」
「真っ当に話し合っていたら、何も決まらない間に全員が泥沼に沈むか……」
ディズは苦々しい表情を浮かべる。
気持ちはウルにも分かる。実際、全員の意見を聞いて回れるものならそうしたい。特にウルの方針は、全てのものが等しく苦労を背負うことになるのだから、話を聞く権利はあるように思える。
だが、それをやり始めると間違いなく、何も決まらぬまま全てが沈没する。
責務の分担とは別に、始めの一歩を踏み出す者が必要になる。その結果起こる悲鳴や混乱、死を承知した上で踏み出せる者が。
それが太陽神であり、月神であり、魔王であった。
そして、今はウルがその一歩を踏み出す義務と権利を獲得した。
――ああ全く、本当にありがたいご指導だったよブラック。
全てを嘲笑するような憎たらしい笑みを浮かべた魔王の顔が頭に浮かび、ウルは苦々しい顔になり、ため息をついた。選ぶ以上、路傍の石ころを踏み潰す以上、その後は負うべき事は山ほどある。それだけは決して忘れぬようにしなければ――――
「にーたん」
アカネが間近でこちらの顔をのぞき込んでた。
「アカネ?」
「ひとのこといえんで、きをつけてな」
「うっす」
色々とこちらの心中を見抜かれたらしい。両頬を引っ張られたので、ウルは素直に謝った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「まあ、そんなわけで今の混乱と、後に起こる混乱は利用するってのが方針となる」
「ズタボロの世界を立て直す荒療治極まれりか……そしてその混乱でどれだけ被害を抑えられるかは私たち次第と」
情報を整理して、ディズはやれやれと肩をすくめた。
「改めて説明ありがとう、ウル。確かにこれは、皆で頑張るしかない事だね」
「……」
ディズとシズクは頷く。
ひとまず納得は得られたらしい。その事にウルは安堵する。混乱を利用して、多くの意思を無視して突き進むとはいえ、この二人には納得してもらわねば困る。
「後は、最後の仕上げが上手く行くかどうか何だが……」
何せ、まだ問題は残っている。
「まだなんかあるん……?」
アカネが苦々しい顔になった。言いたいことは解る。もう戦いは十分におなかいっぱいである。ウルだってもう勘弁して欲しいと心の底から思う。だがこれはザインとグレーレから警告されている内容だ。
「二人から神を取り除いた後、トラブルが起こる可能性があるらしい」
「……悪感情の魔力の制御でしょうか?」
シズクが尋ねる。確かにそれも懸念点の一つだ。悪感情の魔力の制御が困難であるのは、シズクとの接触時に思い知った。が、そちらはグレーレが動いている。
「ソレとは別だ。ザインが対策に動いてるらしいが……」
「ハッキリしないのな?」
アカネは首をひねる。言いたいことは分かる。コレは曖昧な話だ。
「どうも、ザイン達にも確証は無いらしい。監視者であるノアがこっちについてから、できる限り調べてるみたいだが、時間がなくてな」
バベルそのものが混乱状態にある今ならば干渉可能な“方舟イスラリアのブラックボックス”、平穏な時は近づくこともできなかったその場所を今“友人”と一緒に調べているらしい。
つまり、あるかもしれないし、ないかもしれない話なのだ。
「だからまあ、存外肩透かしであっさり事が済むかも知れないし、心配するな」
「…………」
「…………」
「…………」
「無言やめろ。泣くぞ」
自分の楽観的発言に対する眷属と妹の冷たい視線にウルは泣いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さて、そろそろか」
空のひび割れが更に広がり、そしてひび割れた硝子片が落下していくように、周囲の景観全てが落下していく。真っ白な空間が現れ、更に光が満ちていく。視界が徐々にぼやけて見えなくなっていく。
「この後、私たちも目を覚ますのかな」
「まあ、外じゃあまり時間は経っていない筈だが…………抱えていた神様がいきなり抜けるんだ。反動で二人はしばらく眠り続けるかも、だ」
「了解、おっと」
不意にディズの足下が砕けて、彼女が落下していく。アカネは即座にディズの側へと飛んでいこうとしたが、その前にディズが手をあげた。
「アカネ、しばらくシズクについてあげて」
「む」
「お願い。何も出来なくても、一緒に誰かがいてあげることが、一番の薬だから」
アカネは少しだけ悩ましそうな顔をしたが、頷いた。
「えーよ。またね」
「うん、すぐ会えるよ。同じ眷属だから、繋がりがある」
「また後でな、ディズ」
「うん、ウルもね――――」
そう言っている間にディズは落下を開始し、光に飲み込まれた。そしてウル達も間もなく同じように光に呑まれるだろう。その間に、ウルは座り込んでいるシズクへと近づいた。
「大丈夫か」
「……ウル様」
シズクは顔を伏せたまま、か細い声を出した。
「私、貴方に、迷惑をかけて、返すことができません。どうすれば――」
「要るかんなもん」
「でも――――」
引き下がってくるシズクにデコピンでもしてやろうと思ったが、ウルは彼女の表情を見た。これまでの旅でずっと目映く輝き、美しい笑みを周囲に振りまいていた姿からはかけ離れたしょぼくれきった姿を見て深々とため息を吐き出した。
怖くて、心細くて、不安で仕方ないという顔だった。故に、
「要らん。わかってるだろう。これは俺が望んだことで、俺がやりたかった事だ」
「どうして、そこまで――――むにあ!?」
強引に顔をあげる。泣き面でしょぼしょぼになった上、ウルに頬を掴まれた彼女の顔は随分と不細工だった。その顔を見てウルは獰猛に笑う。
「言っただろうが。俺はお前みたいな面倒くさい女が好きなんだよ、ウジウジメソメソそそる顔しやがって、顔あげろやちゅーしてやるから」
「う、あ、あ……!?」
強烈な勢いで愛情をたたき付けるウルに、側を飛ぶアカネは心底呆れ顔で眺めていた。
「にーたんあんまむちゃくちゃしたらきらわれるで?」
「ああ、既に殺したいほど俺のこと嫌いらしいからどうでもいいや」
「むてきになんのやめい」
「痛い」
至極真っ当な突っ込みと共にアカネにしばかれて、手を離す。
「う、なあ」
シズクはぐったりとした顔になったが、少なくとも泣きっ面では無くなっていた。
「そもそも、世界救済云々よりもお前はやらなきゃならないことがある」
「やら、なきゃ……?」
シズクの頬をウルは指で摘まみひっぱった。
「治療だ」
「わ、らひ、びょうきじゃないれす」
「世界滅ぼさなきゃならないくらい精神追い込まれてんのが瀕死の重傷じゃなくてなんだ」
誰がどう見たって、シズクの今の精神状態は重傷で大病人だ。怪我を負って、血を流して病をこじらせたのなら治療しなければならないのは当然だ。償うどうこう以前に、彼女がしなければならないことはそれである。
「正常な判断力取り戻すまでは自分一人で何かを決めるな。感情を口にして、ちゃんと泣け。それも出来ないならせめて誰かの側にいろ」
ロックが彼女の傍に付いてくれていたのは、それを察したからだろう。彼がいなければシズクはもっと悪い方向に思い切りが良くなっていただろうと思うとぞっとする。
「どうしても死にたくなったら俺に言え。死ぬ気無くなるまで嬲ってやるよ」
「……れも」
「い い な」
「……ふぁい」
シズクは頬を引っ張られたまま頷いた。
内心でウルが安堵しながら、彼女を抱きしめる。その内に足下がひび割れて、砕けていく。すると頭の上にアカネが乗った。
「ほんじゃーさいごのトラブルかいけつしにいこっか!」
「トラブル確定みたいに言うのやめないか、妹」
そんなことを言っている間に、視界は完全に光に包まれ、そして――――
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――――ふう」
そして、ウルは目を覚ました。身体を起こすといきなり全身が圧し潰れるような気だるさと、痛みに襲われた。そういえば命からがらなんとか戦って勝利したのだと言うことを思い出して、大変に辛かった。
そうして身体を起こすと、自分の周りに金色の少女と白銀の少女二人が左右に並んで眠っているのを確認した。二人の手をいつの間にか自分は握っていた。彼女たちはまだ目を覚まさないが、少なくとも死んではいないらしい。
「う、ん……」
「…………」
「…………まあ、上出来か……」
その様子を確認し、ウルは改めて安堵する。本当の本当にギリギリだったが、少なくとも今回の戦い最大の目的は果たせたようだ。
「んで、だ」
ひとまず二人から目をそらし、顔を上げる。その視線の先には、
「――――どういう状況?」
『見て分かりませんか?』
のたうち回る、巨大なる“黒い塊”と、それと相対して剣を構える自分の眷属の姿があった。ユーリは目を覚ましたウルを一瞥すると、当たり前のことを聞くなとでも言うように答えた。
『地獄です』
「そっかあ……」
地獄だった。




