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灰王勅命・達成不可能任務 天剣抜刀

「GAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 竜王は吼え猛ると同時に突撃した。その禍々しき大剣を大きく振りかぶる。全力の突撃だった。技の介在などしようもない程の一撃は、何者であろうとも止められぬほどの力に満ち満ちていた。


「【――――――】


 剣神はそれをわずかな動作で回避する。空を切り叩き付けられた大剣は、その一打で深層全体を激しく揺らし、地面を粉砕して叩き割った。砕けた地面と飛び散る大量の本、その隙間を縫うように剣神は跳び、瞬く間に竜王の背後につき、その場で回る。


「【――――】」

「GOOOOOOOOOO!?』


 同時に、剣神の尾――――その刃が奔る。両腕の洗煉された刃ではない。無数の剣が重なって、まるで棘のようになった殺意の塊だった。それが竜王の身体を抉り取る。しかし竜王はえぐれ、欠損しても尚意に介さなかった。


「【――――!?】」

「OO』


 尾によって砕かれた竜骨の欠片が変貌(かわ)る。散らばった骨が繋がり、長い竜の首へと変貌し、剣神の身体を絡め取った。無論、全身が刃に等しい彼女を捕らえようとした瞬間、首は引き裂かれていくが、竜は構わず振り回し、壁に叩き付ける。


「GRRRRRRRRRRRRRRRR!!!』


 壁に叩き付けられた剣の化身へと、竜王は脚を叩き付ける。剣神は素早く一転し、その場から逃れるが、竜王は壁を足場に蹴りながら追い回し続けた。


「【――――――】」


 逃げ回る間も、剣神は微塵も揺らがず剣を構え、狙いを定めていた。だがそれは、


「【OOO……!!】」


 灰の竜王も同じだった。竜骨の顎から灰炎が溢れる。それは間もなく全てを焼き払う光球となって、間もなく放たれた。


「【GAAAAAAAAAA!!!】』

「【――――――――!!】」


 放たれた咆吼を、剣神は両断する。真っ二つに両断された【咆吼】はその背後の壁に着弾した。【咆吼】を引き裂いた剣は直後にボロボロと焼け焦げて、砕けていく。【灰炎】が剣神の剣を浸食し、砕いたのだ。

 砕けた剣を即座に造り直して、剣神は後方へと飛んだ。


「【――――】」


 双剣が輝きを増した瞬間、呼応するように星天の剣が無数に出現した。その全ての切っ先は竜王に向けられる。その剣全てに例外なく、絶対両断の権能が与えられているのは明らかだった。


「…………!!』


 竜王も、それを理解したのだろう。大剣の柄を顎で咥え、四肢を地面につけてまさしく獣のように構えた。同時に全身から灰色の炎が吹き上がり、全身を覆う。一切を飲み込み、焼き払う灰炎は骨竜の鎧と化した。

 そしてそのまま、地面を蹴り駆け出す。

 それとほぼ同時に、星天の剣が雨となりて降り注いだ。


「OOOOOOO!!!』


 咥えた剣を振り回し、灰の炎で剣を焼き払い骨竜は剣神を追う。剣神は後ろへと飛びながらも絶え間なく剣を放ち続ける。刃は途切れはしなかった。

 剣は確実に竜王の身体を引き裂いていく。灰炎の鎧は削れ、骨の鎧は容赦なく貫かれる。その奥の肉体から血が吹き出す。だがそれでも、微塵も竜王は脚を止めることはしなかった。


「RRRRRRRROOOOO!!』


 激闘の影響か、螺旋図書館の上空から本棚が落下してくる。竜王はその尾でソレをつかみ取ると、そのまままっすぐ、前方の剣神へと投げつけた。


 当然、それが剣神に直撃することはない。一瞬にして哀れなる本棚は真っ二つに両断された。そして同時に、納められていた無数の魔本が飛び散って、剣神の視界いっぱいに広がった。


「【――】」


 だが剣神に動揺はない。

 見切りは力の一端でしかない。一つの能力に依存などしていない。

 剣を放つのを止め、待ちに姿勢を変える。鞘は無くとも刃を納め、力を溜める。そして、


「GAARRRRRRRRRRR――――』

「【――――】」 


 竜王が飛び込んできた、その瞬間刃は閃き、竜王の身体は頭部から縦に、真っ二つに、両断された。それはあまりにも呆気なく、そしてそれ故に剣神はすぐに気づく。

 両断された竜王には中身が収まっていなかった。切り裂かれたのは骨の外装のみだ。そしてさらに変化は続く。


「【!?】」


 両断された竜骨の鎧が変化する。鎧そのものが竜の首となり、顎が剣神を喰らった。刃の鎧は剣神の身体を守る――――だが、その直後に飛び出してきた本物の龍王から逃れる術はなかった。


「KAAAAAAAAAAAA!!!!』


 自らが生み出した骨の牢ごと、その顎で掴んだ大剣を全身で回し、一刀両断し刃を叩き付けた。


「【――――ッ!!】」


 砕けた骨の中で剣神はその一撃を受けた。純粋な力の勝負であるなら、圧倒的に竜王に軍配があがる。剣神の身体は一気に地面に叩き付けられ、更に幾度かの階層を突き破って叩き付けられた。


 肉の潰れるような音。

 剣がひび割れるような破砕音。

 尚も剣神の輝きは褪せる事は無いが、それでもダメージは確かに入った。


「GAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 それを見て、竜王は躊躇う事なく追撃を行う。雄叫びと共に片腕をあげる。その骨鎧の内側に収容した竜牙槍が顎を開く。その砲口を地面に叩き付けられたユーリへと向け、即座に解き放った。


「【WRRAAAAAAAAAAAAAAA!!!】』


 放たれた咆吼は空間を狂わせ、万象を焼き、喰らい、滾らせ、焦がし、眠らせ、変貌て、尚突き進む。七罪の炎が具現し、バベルの深層を破壊し尽くす。轟音が辺り一帯に響き渡った。


「【――――】」


 叩きつけられ、浅くないダメージを負った剣神は、それでも即座に復帰し、周囲の障害を全てを切り裂きながら空を駆け、それを回避する。

 放たれた【咆哮】を両断しようとはしない。竜王の攻撃が両断の範疇を超えている。自身の能力の限界を剣神は良く理解していた。そこに驕りもしなければ相手を侮りもしない。回避に専念し、攻撃の切れ目が来るのをただ耐えた。


「【AA……!!』


 そしてそのタイミングはやってきた。

 【咆哮】が途切れたその瞬間、剣神は飛び出した。背中の翼剣が飛び散り、まるで牢獄を作るかのように竜王の周辺に展開し飛び回る。その中に剣神は飛び込み、その剣を振るった。


「【――――――!】」

「GAAAAAAAR!!!?』


 流星が駆け巡る。

 自らが作り出した翼剣を足場にして、すれ違いざまに竜王の肉体を切り裂く。竜王が反応し反撃する頃にはもうそこにはいない。向かいの翼剣を足場に再び跳ぶ。縦横無尽に駆け、そのたびに竜王は切り裂かれる。


「GAAAAAAAAAAAAA!!』


 抗うべく、自身を捕らえ、囲う翼剣を破壊するために尾を振り回す。灰炎を纏った尾は、それだけで翼剣を蹂躙し、破壊し尽くすが、既にその場に剣神の姿はない。竜王の動きを視て、見切った彼女は結界から距離を離し、残る翼剣の全てを束ねていた。


「【――――――!!!】」


 竜王の握る大剣に勝るとも劣らぬ大剣をかざし、創り出す。それを即座に放った。刃は一切を切り裂き、回避しようと動いた竜王の腹を貫いて壁に縫い付けた。


「GAAAAAAAA!!!?』

「【――――】」


 即座に、灰炎が溢れ、自身を縫い付ける剣を焼いていく。拘束は長持ちすることはない。それを理解して剣神は跳んだ。両腕の双剣が輝きを更に増す。眼前の竜を滅さんと。

 既にその瞳は竜王の心臓位置を――――その内にある灰王の心臓を――――その観察力で見定めていた。


 貫き、殺す。その為に剣神は空を駆けた。


『OOOOOOOOO!!!』


 その殺意を理解したのか、あるいは闇雲の反撃か、縫い付けられた状態で竜王は【悪霊剣】を強引に振り下ろした。強引なれど、その威力は本物だ。直撃すればただでは済まないと、既に剣神は視ている。


「【――――――――】」

『!!?』


 故に、()()()()で、大剣を止めた。

 両腕の双剣により、非実体の大剣を捕らえ、挟み、そして砕ききったのだ。もとより、軛を外され、不安定になっていた大剣はそれだけで呆気なく崩壊し、込められていた魔力は周囲に霧散し、断末魔のような声を上げる。


『GAAAAAAAAAA!!?』


 腹を貫かれた状態で尚、強引に振り回した剣を破壊され、竜王は姿勢を崩した。隠しようのない明確な隙を視て取って、剣神は懐へと潜り込む。

 殺せる。その確信が彼女にはあった。


 この判断と選択、攻撃に落ち度はなかった。


 【竜王】という脅威を、()()として捕らえるならば、問題はなかった。


 だが、竜王は単身ではなく、灰王と死霊騎士の合身。時に力を合わせ、時に別個に動くことが可能だ。激しい攻防の最中、【竜王】は後者の連携を一度たりとも()せなかった。


 そしてそれ故に、


「【我は己に従い、果てへと歩む灰の焔】」


 直前で、相棒に動作を任せ、剣神の攻撃を待っていた灰王の奇襲は、回避出来なかった。




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 周囲の空間を浸食し、我が物とする迷宮化現象。


 複数の神の断片を統合し、我が物としたウル自身の力が世界を支配する。


 剣神が破壊した悪霊剣の破片、砕け散った竜王の骨片、上層から墜ちてくる無数の魔本、その一切が灰色の炎によって燃やされる――――のではなく、()()()()()()()


「【!?】」


 そしてそれは、ユーリが纏い、操る力すらもその影響から逃れられなかった。彼女が操る翼剣も、炎に呑みこまれ、焼け落ちる。彼女自身が纏う剣の鎧すらもその影響から逃れられない。


 聖邪どちらも内包し、どちらの性質も受け入れる灰の焰。


 竜化によってその力は空間全てに影響を及ぼす。ユーリが操る【天剣】すらもその侵略から逃れることはできず、その力は彼女自身をも焼いた。


「【が、あああ、ああああああ……!!!】」

「ロック!!!」

『ッカカカ!!!』


 そして、その最後の好機をウルは逃さなかった。竜化現象によって魔力は完全に使い果たした。正真正銘最後の攻撃の為に、ウルは駆ける。と、同時に踏み出した先に竜骨が形成される。

 ロックが構築した竜首を道として駆け、まっすぐにユーリへと向かい、槍を構える。

 ユーリもまた、こちらを見た。炎に焼かれ、力を崩され、剣神としての美しい姿が崩れても尚、自身の腕剣だけは炎から守り抜いてた。それを構える。


「【終断!!!】」

「【魔穿!!!】』


 灰炎の槍と絶対両断の剣神は、互いを穿ち、切り裂いた。

 しかし、ユーリの剣はウルの心臓を両断するよりも前に、彼を護るべく鎧となったロックによってほんの僅かに阻まれ、その剣筋は逸れた。その僅かな隙を突き、ウルの槍がユーリの腕剣を貫き、砕く。


「が……!?」

「【……!?】」


 そして、二人同時に落下する。双方が破壊し尽くしたバベルの深層へと落下する。無数の本が積み重なって出来た山の上に二人揃って墜落した。


「っつ……ぅ……!」


 ウルは激痛に悶え、堪えながら身体を起こした。すると、


「【――――…………」


 自分の下に、全ての力を焼かれ、砕かれたユーリがいた。彼女はどこか悔しそうな、あるいは満足したような表情で小さくため息を吐き出すと、組み敷くウルの目をまっすぐ見た。


「殺すなら、私の全てを捧げます」


 なんというか、負けても尚、彼女は潔く、気高かった。

 ウルは気が抜けたように、肩をなでおろす。


「命なんているかよ。だけど」


 そう言ってボロボロの彼女をそっと抱き上げて、彼女の身体に触れる。そして、覚悟するように大きく呼吸をした後、宣言した。


()()()()()()()

「――――どうぞ」


 次の瞬間、ウルの手は、ユーリの心臓を貫いた。



 【終焉災害/剣 討伐戦 達成】


 【天剣抜刀】


 【達成不可能任務・灰王勅命 惑星破壊――――第弐戦、突破】

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― 新着の感想 ―
第ニ?
[一言] きゃー!!ぷろぽーずだ!!!!
[一言] ヒロイン二人が息してないですね
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