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陽殺しの儀⑰ 開門




 【大悪迷宮フォルスティア】内部の崩壊は進んでいた。


 至る所が崩れ始めている。柱がへし折れ天井が落下する。だがそれは単なる迷宮の崩壊ではない。内部にいる勇者達を始末するための自爆だ。悪意に満ちた崩壊が、瞬く間にガルーダに降り注いだ。


《―――――!!》


 ガルーダはそれらを回避し、飛ぶ。迷宮の内部ではやはり巨体であり、要所で瓦礫に直撃し、柱に倒れられもするが、尚も突き進む。その機械の身体で瓦礫を跳ね返しながら、必死に崩壊から逃れた。

 無論、それに乗り込んでいる真人達も必死だ。瓦礫の山を弾き飛ばし、守りの術でガルーダを守りながら、周囲を探索し続けている。


「我々が通った道も封じられている!」

「諦めるな!探れ!あくまでも元は迷宮なんだ!何もかも違う形には出来ないはずだ!」


 迷宮は魔力回廊。道である以上、必ず出口までの道は存在するはずだが、それは巧妙に隠されている。既に姿を消した邪神の仕業なのは間違いなかった。

 一つ一つの階層を戻るだけでも一苦労だ。これでは迷宮の崩壊に間に合わない。ガルーダの背に乗りながら、その窮地を理解したゼロは、ディズへと振り返り叫んだ。


「勇者、どうしますか―――!?」


 見てみると、彼女は星剣を握りしめ、集中するように目をつむっていた。


「……太陽神として覚醒した今なら、理屈の上では出来る、筈だ」


 そしてささやく。しかしそれはゼロの問いに答えたものではなかった。どちらかというと自分自身に言い聞かせているかのようだった。


「【星剣】は、神の制御装置であると共に、世界を開く鍵でもある。シズルナリカはそれで迷宮という回廊を創った。用途は違っても、二柱の神は根本的な機能は変わらない」


 そう言って、ディズは静かに星剣を両手で握りしめ正中に構える。幾度も繰り返し続けた剣の稽古。最も集中して剣を振るえる構えに、ディズの肉体は自然と形作った。


「世界を断ち、路を創る」


 迷宮の崩落で荒れ狂うガルーダの上で、彼女の周囲だけは静寂に満ちていた。その静けさの中、彼女は一歩踏み出して星の剣を振るう。


「【星路開門】」


 次の瞬間、音も無く、ガルーダ前方の空間が引き裂かれた。迷宮が崩落し“虚空”を覗かせる光景に少し似ていたが、異なる。それは覚醒したゼウラディアが見せる星天の輝きに満ちた回廊だった。


「進め!!!」

《―――――!!!》


 ディズは星剣を構え、叫ぶ。それに応じてガルーダは一気にディズが開いた空間の狭間へと飛び込んだ。



              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 【真なるバベル】


「あれは、どうなってんだ!?」

「本当に墜ちてくるのか!?」


 大悪迷宮フォルスティアのさらなる変容と明滅に、外周部の戦士達は軽いパニックに陥っていた。【陽喰らい】の戦いを経験しない彼らには、そもそも天空迷宮が直接落下してくる光景自体、未知の恐怖だ。それがさらなる変化をして、怪しく発光を繰り返すともなれば、恐怖に駆られるのは当然と言えた。


「落ち着け!!我々は目の前の仕事をこなすのだ!!浮き足立つな」


 ビクトールは当然、彼らの混乱を鎮めて回り、目の前の戦いに集中させなければならなかった。が、しかし内心では彼もまた、天空迷宮のさらなる変化に驚きと恐怖を感じざるを得なかった。


 陽喰らいの時のプラウディアの挙動をビクトールはよく知っている。


 天空迷宮の落下攻撃には“余裕”があった事をビクトールは知っている。天賢王に負担を与える為であっても、自壊に至るほどの速度は出そうとはしなかった。主である竜の臆病さ故か、それとも迷宮という存在を失うわけにはいかなかったのかは分からないが、“躊躇”のようなものを確かに感じ取れた。


 だが、ここから仰ぎ見える天空迷宮に、その躊躇が欠片も感じられない。


 明滅し、更に圧力を激しくする。自身の推進を阻む【天陽結界】と勇者が生み出した【巨神】の支えを押し潰さんと蠢き、その振動がこちらにまで伝わり、足下が揺れ動く。世界がひっくり返るようなその振動と圧力は、ビクトールとて畏れを抱かない訳がなかった。


 だが、逃げるわけにもいかない。それはもう分かり切っている。

 ココが人類の最終防衛ラインなのだから―――


「―――格好つけて睨んでないで、仕事してください」


 そう思っていると、魔術の転移が発生した。バベルの塔に出現したのは、転移術を発動させたであろう杖をついたグレーレと―――


「ユーリ!!!」

「離れて、お父さん」


 ビクトールが言葉を交わす暇も無く、星天の輝きに包まれたユーリは剣を構えた。




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 プラウディア中の至る所で竜を刻み続けたユーリは、空中庭園に戻り再び剣を構える。睨む先は、まさにこれから落下しようとしている【大悪迷宮フォルスティア】だ。


「さて、このままでは確実に中にいる我らが勇者は粉みじんとなるな」


 彼女をここまで移動させたグレーレは冷静に状況を語る。空から墜ちる空中要塞そのものを利用したトラップ。本当に豪快なやり方だ。とはいえ、コレを仕掛けてきたのがあのシズクだと考えると納得もいった。


 やはりあの時、何も考えずに殺しておくが吉だったのかもしれない。


 そんなどうしようもないことを考えていると、不意に傍に従者の格好をした女がやってきた。ディズの従者であるジェナだ。彼女は【神薬】をユーリに手渡した。


「貴方は塔の中に避難なさい。ジェナ」


 受け取り、口にしながら指示を出すと、ジェナは首を横に振った。


「ディズ様の無事を確認できたら、そう致します」

「では動かないように。あの世で主と再会したくなければ」


 ジェナは粛々と頭を下げて、言われたとおり距離を取った。全く、如才ない従者だ。ディズにはもったいないくらいには。そんな事を考えながら、ユーリは神剣を周囲に展開した。


「【神剣起動】」


 無数の神剣はユーリの周囲に展開し、陣形を組む。彼女を支える土台の様になった。


「ディズからの連絡は?」


 その状態を維持しつつ、念のためグレーレに確認をするが、彼は首を横に振る。


「あんな有様になって尚、アレは正しく迷宮の機能を有しているのだろう。外部からの連絡手段も無く、転移も出来ない。内部の勇者も手段を講じてはいるだろうが……」

「こまねいているでしょうね」

「断言するなあ?」

「昔からどんくさいんです」


 よくすっころぶ女だった。呆れて手を差し伸べるこちらにニコニコと笑みを浮かべて手を取ってきたが、擦り傷まみれで何が面白いんだと言いたかった。だが、まさかその関係が今日まで続くとは思いもしなかった。

 しかし、だからこそ経験として知っている。

 あの勇者は不細工にすっころんでも、笑ってすぐに立ち上がるだけの根気はある。


「【星剣】が神の依り代ならば、私の力は勇者と繋がっている」


 義手が変容し、剣と化したその腕を身構えて、ユーリは空を見上げる。しかし、視線の先にある空中迷宮を彼女は見ていない。彼女が見つめているのは虚空で有り、その狭間の先にいるであろう、友の姿だった。


「虚空を断ち、門を開く」


 神剣が交わり、ユーリを支える。

 そして次の瞬間よどみなく、ユーリは空を断った。


「【星路開門】」


 空は切り裂かれる。


    ―――――――!!!》


 そして次の瞬間、引き裂かれた世界の断絶から、黄金の不死鳥が飛び出した。



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― 新着の感想 ―
[一言] 文句言いつつ仲良いよな。
[一言] ユーリというか百合というか
[一言] 何気に激重感情持ってそうなユーリよ
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