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陽殺しの儀⑦ ゼロ

「途中、少々危うい戦線の支援と救助に向かっていたのでね!なんとか間に合った!」


 そういってクラウランはひいひいと汗を拭う。そんな姿はとても戦士からはほど遠い。無論、彼が黄金級の冒険者で在ることは理解しているが、それでも従者達などは「大丈夫なんだろうかこのヒトは」といった表情を浮かべているモノもいる。


「貴方が同行を?」

「そうしたいのも山々だが、私は戦闘能力など皆無でね、殴られたら普通に死ぬ!」


 ユーリが問うと、クラウランは悔しそうに首を横に振った。

 まあそうだろうとユーリも納得する。彼の最も優れたる能力は当人の実力ではなく、彼が生み出すホムンクルス、【真人】だ。

 実際、彼の背後についてきた【真人】らは全員、武装を整えている。ディズの言っていたアテとは彼らなのだろう。


「皆強い!中でも今日は一番の末っ子を連れてきた!」


 そしてクラウランが部下―――もとい、子供達へと視線を向ける。蒼い髪の若き人造人間達。その中でも最も背丈の低い少女が前へと進み出た。他の真人と同じく、クラウランお手製の洗練された騎士鎧を身に纏った美しい少女だった。


「全ての真人の到達点、ゼロという!可愛い我が子よ!よろしく頼むぞ!!」


 ゼロと、そう呼ばれた彼女は前に進み得る。仕草の一つ一つが美しく、そして洗煉されていた。彼女はディズへと跪くと名乗りを上げた。


「ゼロで()


 彼女は噛んだ。空気が凍った。ディズ達から少し距離を置いて、別作業に従事していた様々な従者達も兵士達も一瞬ピタリと停止したように見える。聞き耳を立てていたらしい。ディズは空を仰いで、真っ赤になってお辞儀の姿勢で顔を隠しているゼロのもとへと近づき、囁くようにして尋ねた


「……噛んだ?」

「噛んでません」

「噛んでないってー!」


 噛んでないことになった。



              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 自己紹介はつつがなくおわった後、ユーリはそのゼロという少女をマジマジと眺めて、首を傾げた。


「この幼い子供が?大丈夫なのですか?」


 人造人間、特に、クラウランの創り出す【真人】の見た目では年齢は判断できないが、クラウランの話を聞く限り、彼女は大分幼いのは間違いないだろう。

 勿論、ユーリとて、【真人】の実力を疑うわけではない。イスラリア崩壊の危機において、常に裏方に回ってこの世界を支え続けてきたのは彼らだ。だからこそクラウランは冒険者ギルドの【黄金級】という階級を獲得するに至っている。

 だが、これから世界最大の脅威と戦うのだ。半端では、無駄死にする。確認はしなければならなかった。


「私は全てのイスラリア人を上回るよう、デザインされています」


 すると、ゼロは平然と頷いて、断言した。そしてスーアへと視線を向ける。


()()()()()()()()()()()()()

「姉?」


 スーアは不思議そう首を傾げた。


「私、姉です?」

「……兄様?」

「兄です?」


 スーアは不思議そうに首を傾げた。

 しばし、微妙な空気が流れた。ゼロはそれを仕切り直すように咳払いをすると、自分へと疑わしい目を向けていたユーリに向かって、自信満々に宣言する。


「兎も角、私は強いのです。天剣、貴方よりも私は才能があります」

「そうですか」


 ユーリはあっけなく頷いた。その反応にゼロは少し不満げだ。


「信じていませんか」

「だと良いと思っていますよ。心から」


 ユーリは再び素っ気ない。するとゼロは、腰につけていた剣を抜き、構える。その動作は、明らかに素人のそれではなかった。長い年月をかけて剣の鍛錬を続けた達人の所作が、幼い少女の中に習熟されている。

 少なくとも、はったりではない。それを確信させる動作の後、その剣をまっすぐにユーリへと向けた。

 侮るなら試してみろという、露骨な挑発だ。


「なるほど」


 それに対しても、ユーリは特別驚きも怒りも見せなかった。彼女は剣を抜くこともせず、失われ、義手が装着された右手を動かし、前方へと構えた。


「どうぞ」

「―――舐めないでください」


 ユーリの言葉に、ゼロは即座に飛びかかった。










「…………ふ……ぅ……」


 そして泣かされた。


「泣いてます?」

「ないでまぜん」

「泣いてないそうです」


 泣いていないことになった。



              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ほんの数秒の打ち合いで、あっけなくゼロを叩きのめしたユーリは満足そうに息を吐き出した。


「まあ、実力は分かりました。確かに下手な天陽騎士をつけるよりは、よほど戦えるでしょうね」


 ユーリは平然とそう言いながら、自分の義手を動かして頷く。当人の意思で、自分の肉体と変わらない動作で動く義手は確かに優れた一品だった。勿論、だからといってその腕一本で達人と変わらぬ剣技をいなすユーリはどこかおかしいのだが。


「ゼロ……かわいそうに。だが、敗北がお前をより、強くするのだ……!」


 一方で、自分の人造人間が打ち負かされた事にクラウランは泣きながら感動に打ち震えていた。彼は彼で相変わらず大概だなあ、とディズも思わなくもない。

 彼はまだ若干泣き顔なゼロの頭を何度も撫でた後、ユーリへと興味深そうに視線を向けた。


「しかし、やはりというべきか、君は凄まじいな、ユーリ殿」

「私?」


 うん、と頷いて、彼は自分の【真人】達を見る。ゼロを囲んでいろんな言葉で彼女を慰めたり、ちょっと罵ったり、つまり家族みたいにしている彼らをみながら、クラウランは断言した。


「【真人】は、言うなれば“君に近づこうとしているのだ”……とはいえ天然でここまで至るとは……うーむ、研究者としての矜持がポッキリいってしまいそうだ!」

「……私のようなモノは、多くない方が良いとは思いますがね」


 その言葉をユーリはぼそりと、小さく否定した。その言葉の真意は分からないが、クラウランはかまわずニッコリと微笑みを浮かべた。


「君単独なら歪だろう。だが全ての人類がそうなれば、歪ではあるまい?」

「……」

「……うむ、いかんな、またちょっと危ういことを口にした」


 また「道徳の外れた発言を軽々しく口にするな」と友に怒られる!とクラウランは頭を掻いた。


「人類同士の中に存在する逃れようのない優劣、豊かさを与える差異とは異なる、生まれついての障害。それが少しでも埋まる手伝いが出来ればと思い、私は研究者となった。全てが平和になった後、君が良いなら協力して欲しいな」


 真剣に語るクラウランに、ユーリは小さくため息をついた。


「私が死にさえしなければ。それで、ディズ」

「うん」


 ユーリの表情は若干苛立ちをみせている。とはいえ、それはクラウランに対して向けられたものではない。彼女が苛立ちを向けているのは、


「あの、もう一人のマッドはまだ準備がかかるのですか?」

《カハハ!せっかちだなあ?天剣》


 そういってるうちに、突如として空中庭園に騒音が響き渡った。未だに空から此方に体当たりをかまそうとしている大悪迷宮の音ではない。真なるバベルの下方から、自分達のいる場所に向かって、巨大な何かが羽ばたき、到達したのだ。

 翼を羽ばたかせてその姿を見せるのは、魔導機の怪鳥だ。本来、大罪都市エンヴィーで今も活躍する姿と比べれば、二回りほどは小さいが、それでも十二分に巨大な機械の怪鳥。


《【決戦仕様・飛行要塞ガルーダ】ここに完成だ!》


 それを披露した天魔のグレーレは実に楽しそうに宣言した。



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― 新着の感想 ―
[一言] これ最終的にシズクの口にお茶流し込んで解決するんだよね?
[一言] スロラス・ラグウvsガルーダvsウーガとかになったらなんかもう規模がやばい
[一言] 完全に怪獣大決戦の様相を呈してきました
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