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魔界② ある少年のいつも通りの日常と非日常


 その日は、佐上浩介がJ-4ドーム【自警部隊】に勤務してから丁度一年目だった。

 

 【自警部隊】の仕事は、ドームの中でも()()()()()と呼ばれる仕事だ。


 ドームの外には危険が満ちている。

 大地は荒れ果て、至る所が汚染されている。空も大地も海も、何もかもが真っ黒だ。歴史の授業なんかでは、かつてこの世界は青い空、蒼い海、美しい世界に満ちていただのなんだのと教えられるのが、正直イメージがまるでわかなかった。浩介にとってこの世界は生まれてからずっとそうだ。


 外は危険で、禍々しく、迂闊に出歩けば死ぬ。

 何よりも【禁忌生物】が闊歩しているのだ。外にあえて出ようとする者はバカだ。

 だから、そんな外での仕事が多い【自警部隊】を選択するなんて大バカだ。

 ドームの中には青い空も澄んだ空気もプールも調整された食料も存在するのだから。


「その筈なのに、なーんで君はそんな仕事選んでしまうんだろうね?」


 学校で同級生だった美鈴が呆れた顔で浩介を見つめ、ため息をつく。

 卒業してからも定期的にこの友人とは自宅でゲームなどをして遊ぶのだが、そのたびに小言を言われる。


「良いだろ別に。人手不足の仕事だ。ドームへの貢献度も一番でかい」

「成績悪くなかったじゃないか。良くも無かったけど」

「そりゃ、お前と比べりゃな……」


 美鈴は頭が良かった。卒業後の進路選びたい放題だ。実際彼女はドームのなかでも一番高給取りの生産エリアに就いたのだ。自分とは大違いだ。勿論浩介だって流石に美鈴と同じ進路は選べないにしても、もう少し安全が確保できる職場への“適性”はあった。


 でも、浩介はこの道を選んだ。


「……嫌だったんだよ。脅威に対して、何も出来ずに怯えるのはさ」


 ドームで職務に就くことになる十五才になるまでの間、”禁忌生物”の襲撃で、ドームが壊滅の危機に瀕したことがあった。とはいえその時死ぬような思いをしたことは無かった。家族が死ぬようなことも無かった。そもそも浩介の両親は既に他界していた。

 だけど、だからこそだろうか。怖ろしい警報、周囲で狼狽えて怯える大人達、次々と動き回らなければならない焦燥感、誰にも護ってもらえなかった浩介はあまりにも心細い思いをしたものだった。


 そして怯える浩介を、誰も励まして抱きしめてはくれなかった。


 その事を恨む訳じゃ無い。皆、自分と自分の家族を護るのに必死だったのだ。見ず知らずの子供のことにまで気にかけるヒマはあるわけが無いのだ。

 だけど、だからこそ、自分で戦える力が欲しくなったのだ。


「で、自警部隊……極端なんだよ、浩介は」

「まあ、否定はしねえよ……っと」


 喋っていると仕事用の端末から連絡がとんできた。


「仕事?」

「ああ行ってくるよ」

「気をつけてね。また頭に血を上らせないように……それと」


 そこまでいって、照れくさそうに美鈴は肩をすくめた。


「何時もありがとう。だから死なないで」

「お礼だったら、今度はもっと質の良い肉造ってくれよ。最近のはカスカスなんだ」

「今度、最高のをごちそうするさ」


 そう言って浩介はいつも通り、ドームの外へと向かうため、自分の職場へ向かった。




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ドーム外部遠征のための準備室には既に【自警部隊】の先輩達が集まっていた。一番下っ端である自分が最後な事に内心冷や汗をかきながら、急ぎ合流すると宍戸隊長がこちらを見る。


「遅いぞ浩介」

「済みません、隊長」


 浩介は頭を下げる。隊長は大声で怒鳴り散らすような人間ではないが、怒るときは淡々と怒るし、怖い。とはいえ今回は休暇中の緊急呼び出しだ。招集にいくらか遅れたことを理不尽に怒る人でも無かった

 とはいえ急ぐ。用意されている中からいつも通りの装備を取ろうとすると、不意に隊長が浩介の肩を叩いた。


「今日は完全武装を許可する」


 普段、浩介の装備は先輩達の支援を行うための軽量装備だ。重火器の類いは許可されていない。その許可が降りたと言うことは、ある程度認められたと言うこと―――とは、浩介は思えなかった。周囲の仲間達の纏う空気と緊張感から、そう言った類いの話では無いことは流石に想像がついた。


「…………不味いんですか」

「【γ】が出た」


 その言葉を聞いた瞬間、浩介の心臓は強く跳ねた。


 α種個体なら、自警部隊のみでの破壊が可能だ。

 β種となると、自警部隊の1部隊総出での対処が求められる危険個体。

 γ種は――――ドーム滅亡危機だ。


 そのγが出た。

 ドームにも遠からず警報が行くだろう。場合によっては別のドームへの避難が必要になるかもしれない。そうならないためにも自分達は出撃する訳だが、上手く行くかは分からない。

 勿論、倒すだなんて考えない。可能な限り誘導し、そのままドームへの興味を失うことを祈るだけだ。もしもそれが上手くいかなかったならば―――考えたくも無いことだが、大変なことになるだろう。


 少なくとも、美鈴に人工肉をごちそうになる機会はもうないかもしれない。

 浩介は覚悟を決めた。




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「ほんっと、気味が悪いな」


 特殊武装を重ねた車両にある小さな窓から覗ける外の世界を眺めながら、先輩の一人が小さく呟いた。忌々しいと言わんばかりのその表情に、周りの同僚達は苦笑する。


「全くだ。早くドームに戻りたいぜ」

「戻れるかねえ?」

「さあなあ。浩介、お前はいざとなりゃ逃げろよ。彼女だっているんだろ」

「アイツはダチですよ」


 浩介の答えをどう思ったのか、先輩は肩をすくめて笑う。何時ものからかいだが、それが自分と浩介、双方の緊張を解そうとしてくれているのは分かる。実際浩介も緊張していた。

 γ個体なんて、浩介もこれまで見たことも無い。β個体ですら数える程だ。ここにいる先輩達だって、実体験で知っている人なんて極僅かだろう。

 どうしたって気持ちが浮ついた。考えすぎないようにするために、先輩等と同じよう視線が窓の外へと向かった。勿論窓からのぞき見えるのは、何時ものドームの外の世界だった。


 荒廃した大地と、廃墟となったビル群、

 赤と黒の入り交じった不気味な空、

 そして“空の上空にぽっかりと空いた真っ黒な太陽と、そこから不定期に零れる黒い【涙】”


「邪神様は今日も景気よく泣いてらっしゃる」

「最近またちょっとずつ量が増えてるらしいぞ」

「マジかようぜえ……」


 忌々しそうに同僚の一人が呟いた。浩介も口にはしないが同じ感想だった。


「無駄話はよせ。そろそろ現地に着くぞ」


 そんな風に、いつも以上に口数の多くなった自分達を戒めるように隊長が指示を出す


「隊長!!」

「どうした」


 レーダー兵からの声だった。慌てふためいた悲鳴のような声、ただ事ではないのは明らかだった。浩介は自然と銃を握る手に力を込めながら、次の言葉をまった。そして、


「γが…………消失、しました!」

「は?」

「なん…………?!」


 その言葉が意味することを理解できぬまま、車両が停止する。目的地に到着したのだ。新たに飛び込んできた情報と状況に対して、流石の隊長も悩むように眉を潜めたが部下達を見渡すとうなずき、そして合図を出した。


「現地を直接確認する」


 扉が開き、浩介達は外に飛び出した。

 何が起きているのか全くわからなかったが、動揺して、狼狽えちゃいけない。その事だけは浩介は決めていた。混乱して慌てふためいて、何も出来ずに怯えたくないから、自分は自警部隊に入ったのだから―――そう思っていた。


「なん……だ……?!」


 だが、彼の誓いと覚悟はあっけなく吹き飛ばされる。

 目の前に広がった光景はあまりにも理解不能だった。


 まず、禁忌生物γが死んでいた。


 γはデータでしか見たことは無かったが、その真っ黒な巨体、体毛も皮膚も無いのっぺりとした真っ黒な、悍ましく奇妙な生物は間違いなく【禁忌生物】だ。それが死んでいた。

 そして、その死体の近くに、奇妙な連中がいた。


 ドームを襲う犯罪者集団、【屍肉漁り(スカベンジャー)】の類いではなかった。

 そういう類いの連中ではない。どう見たって違う。

 ドレスにローブ、鎧、まるでゲームのキャラクター達のコスプレでもしているかのような奇妙な者達。あまりにも現実離れしすぎた連中が、γ達の死体の上に立っていたのだ。

 何語か分からないが喋っている。外国人だろうか、端末の自動翻訳をオンにした。

 すると、その中でも灰色髪の少年が眉を潜め、口を開いた。


「――――めっちゃ変なのが来たぞオイ」


 こっちの台詞だと浩介は内心で突っ込んだ。

 誰一人として、この状況に対して説明がつけられる者はいなかった。全員が戸惑い、動揺し、どうするべきか答えを探し求めて彷徨っているような有様だ。勿論浩介もその例に漏れてはいなかった。


「なんだあいつら……」

「屍肉漁り……か?いや、格好ふざけすぎだろ」

「γ、倒したのか?コイツラが?」


 先輩達にとっても、あの奇妙なるコスプレ集団は未知の存在らしい。そりゃそうだろう。浩介含めて全員警戒を緩めない。銃を下ろすこともしなかった。


「全員、警戒を緩めるな」


 誰であろう宍戸隊長が集中し、彼らに銃口を向けていたからだ。

 状況は分からないが。宍戸隊長に対する信頼は存在している。物静かではあるが窮地において彼が判断を誤ることはない。

 その彼が、怖ろしく緊張し、集中している。【禁忌生物】より遙かに強い警戒を奇妙な連中に対して向けていた。


「隊長、こいつらはなんなんですか」

「俺も詳細までは知らん。だが、コイツラは――――危険だ」


 敵、本当にドームの資源を狙っている屍肉漁りの類いなのだろうか。だが、だとして武器は何なのか。まさか、あの手に持っている訳の分からない巨大工具みたいなもので禁忌生物たちを倒したわけではあるまいし―――


「…………――?」

「…………」

「………………!?」


 向こうは向こうで、こちらを警戒しているのか、何かを話し合っている。よく見ると彼らの中にメチャクチャ背丈の低い子供までいるのだが、本当に一体どういう集まりなのかさっぱり読めなかった。

 しかししばらくするとその内の一人が前に出てきた。ボサボサの黒髪、コレと言って特徴の無い男だが連中の中では一番年上だ。リーダーなのだろうか、と考えていると彼は身につけていたマントを握りしめる。

 何やってんだコイツ、と思っていると不意にその形状が変化した。自然ではあり得ないうごめき方で形を変えて、気が付くと彼の手には、耀く金色の剣が握られていた。


 そう、剣である。つまり武器だ。武器を握りしめてそいつが真っ直ぐこっちにやってくる。先程の隊長の言葉も踏まえると、敵対行為だと判断する他なかった。


「う、うわぁあ!?」


 一人が撃った。隊長が舌打ちする。だが、どうしようもないと思った。全員が一人に倣って撃ち始めた。間違いなくこうなってしまえば蜂の巣だ。浩介は悲惨な肉片があたりに散らばるのを覚悟して、眉を潜めた。


「―――言っただろう。問題ない」


 だが、男は立っていた。


「――――は?」

「当たった…………よな?」


 否、それどころか傷一つなかった。それはおかしい。確かにこの男も鎧のようなものを装着している。その時代錯誤の装備が実はこちらの【光熱銃】への防御機能があったとしても、無傷はおかしい。だって最初撃たれた光熱をこの男は()()()()()()()()

 その時点で頭に穴が空いてもおかしくないのに、なにも変化が無い。

 地面の至る所に銃痕も残ってる。銃の不具合でもない。


「……そうらしいな。で、どうする?ジースター」


 すると自分と同じくらいの灰色髪の男もこちらに近づき、槍を構える。巨大で美しい白の大槍に全員が再びぎょっと身構えるが、今度は誰も撃たなかった。否応なく警戒した。その間に男と少年は会話を続ける


「話をスムーズに進めるため、1度全員捕らえる。うっかり殺さないように注意しろ」

「……うっかり?」

「下手な力を込めて、首がへし折れる可能性もある」

「嘘だろ……?」


 そう言って、二人は()()()

 消えたようにしか見えなかった。次の瞬間には灰色髪は目の前に近づいていた。


「――――んなあ!?」


 ただ単に速度が速すぎて人間が消えたように見える。あまりに理不尽な光景だった。自己防衛の条件反射で浩介は銃を撃っていた。


「とりあえず話し合いを―――しないと。了解」


 放たれた光熱を、男は回避した。撃たれた瞬間首を捻って躱したのだ。あまりに理不尽すぎて、引きつった声が出た。


「なん、なんだお前は!?!」

「それは俺の台詞でもあるんだが―――まあいいやとりあえず」


 そしてそのまま男は槍を振る。浩介が今日初めて与えられた対禁忌生物用の光熱銃はその中央部から一刀両断されて宙を舞った。


「よいこらしょ」


 奇妙に歪んだ灰色髪の腕がこちらの腹部に触れる。それに気づいた瞬間浩介の身体は地面にぶっ倒れていた。ただただ、灰色髪の力に抵抗できず、押し負けたのだ。

 いうなれば、大人相手に子供がじゃれてきたのをあっけなく押し返したような気軽さだった。そんな雑さで、倒されてしまった。


「小鬼よりも弱い……」


 灰色髪が何を言ってるのか分からなかったが、理不尽だった。


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― 新着の感想 ―
科学が進歩してるっ?!魔法とか精霊がないのかな?? 名前的にシズクはこっちの出身かと思ったけど、こっちの出だったら対竜用の魔法はおかしいもんな、、、
2025/07/18 12:27 ペットボトルの上にあるみかん
何の情報もなく初見で遺都新宿にたどり着いた世界樹プレイヤーはこんな気分だったのかね ファンタジーからいきなり世界観が変貌したぞ
[一言] いきなりのポスアポ展開ぇ…?(唖然)
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