スーアの休日②
竜吞ウーガ、ペリィの酒場にて。
「おう!ロック!今日こそは負けねえぞ!!」
『カカカ!まーた負けにきおったカ!!』
訓練や仕事を終えた者達で何時もそれなりに賑わっているその酒場の一角で、一際に元気の良い声で騒いでる連中が存在していた。ウーガを守護する【白の蟒蛇】の面々と、それに相対するシズクの使い魔、ロックが向き合っていた。
彼らがどういう集まりかと言われれば、賭け事好きの集まりであった。といっても、実際の金銭のやりとりではなく、その日の酒代をやつまみ代を誰が奢るか程度の軽いゲームの集いであった。(ガチの賭けはケンカになって物が壊れやすいからと店主のペリィが禁じている)
とはいえ、賭けは賭けだ。中々に熱中しやすい彼らの狂乱が今日も始まった。現在、もっとも勝ち数の多いロックに、最も負け越している小人の男は珍妙なポーズを取りながら挑みかかった。
『で、なにするんじゃい』
「カードはやめとけよー。どーせおまえ弱いんだから」
「駆け引きクソ雑魚だもんなあ」
「うるせえ!今日はコイツで勝負だ!!」
無数のヤジが飛び交う中、男が取り出したソレは、テーブルの半分以上のサイズで、幾つもの絵図や数字が書かれた大きめの用紙だった。
『おお?なんじゃあ盤上遊戯か?』
「双六の類いかね?どんなルールよ」
簡単な盤上遊戯程度なら彼らも知っているし、やったこともあるが、それは彼らの知るものと比べてより大きく複雑に見えた。用紙と一緒に専用の駒のような物まであるのを見ると、安物ではあるまい。
そんなものをわざわざ持ち出した男に視線が集まる。すると小人の男は自信満々に断言した。
「ルールは俺もよく知らん!やったことないからな!!」
「お前なあ……」
【白の蟒蛇】の古株の男は呆れた声を上げた。ほかの仲間からもそんな風に後先考えずに散財して賭け事ばっかやってるから金がたまらんのだ、という無言の視線が彼に突き刺さった。
「この前ウーガに来てた【暁の大鷲】から買った。最近流行ってるゲームなんだと」
『ほーん、まあ面白そうじゃが、やってみんことにはわからんのう?』
「ククク、そうだろう。触ったことのないゲーム、骨爺にアドバンテージはない!」
「いや、おめーもやったことねえなら同じじゃねーか」
まあつまるところ初見殺しで勝ってやろうという魂胆なのだろうが、だったら事前にルール把握しておけよと仲間達は呆れたが、そういう風に、変に詰めの甘いところが彼の愛嬌でもあった。
『まま、ええじゃろ!カカカ!かかってこい!』
「年貢の納め時だジジイ!!」
こうして二人は向かい合い、
「わたしもやりたいです」
「え?」
そこにスーアが参戦し、
《わたしもー!》
『うん?』
アカネが飛び入り参加した。
最終的に行われたゲームの勝者はスーアとなり、ペリィから氷菓子が贈呈され(普段のソレと比べてめちゃくちゃ大量にトッピングされていた)、スーアはご満悦と相成った。尚、余談ではあるがゲーム購入者の小人は最下位であり、泣いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
竜吞ウーガ中央噴水近辺、公園にて
「此所は何でしょう?」
《こうえんよ!》
「子供がいますね」
名無しの子供達が集う憩いの場に、スーアとアカネはやってきていた。名無しの子供達がはしゃいで、備え付けの遊具をグルグルと元気いっぱいに駆け回っていた。その内子供達の何人かが、アカネたちに気づいたのか手を振ってくる。
「アカネだ!」
「アカネちゃん!一緒にあそぼー!!」
《ともだちよ!》
「アカネは凄いですね」
自分には友達はあまりいないが、アカネにはいるようだ。自分のようにかなり特殊な事情を抱えているにもかかわらず、受け入れてくれるヒトが多いのは素晴らしいことだとスーアは感心していた。
すると子供達は、自分にも関心を向けてきた。
「だあれ?」
「スーアです」
「スーア、すげー!天祈様とおんなじ名前だ-!」
「おなじです」
同じなのだから同じだ。しかしその意味を理解してないのか、「すごいすごい」と子供達は楽しそうにはしゃいで、スーアとアカネを自分たちの遊び場に引っ張っていく。
「よっしゃー鬼ごっこしようぜ!」
「どうするんです?」
「しらねーの!?」
《おしえたげるのよ!》
そうして、子供達と一緒にはしゃぎ廻る。途中、スーアがふわふわと浮くのはズルだと言われたので、足で走ることにした。すると今度はスーアがあまりにも走るのが遅くてよく転んだのですぐに捕まった。次にかくれんぼをしようとしたが、スーアはよく光るのですぐに捕まった。
色んなゲームを試みたが、スーアは何度も最下位になってしまった。
だけど楽しかった。なのでスーアは良しとした。
「あの、あの、ウルさん。ディズ様」
「言いたいことは分かる」
「ふ、不敬罪とかでしょっぴかれませんかね、うちの子達」
「大丈夫だよ。うん、流石に」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ウル宅にて帰宅する頃には、時刻は夕方頃になっていた。
「たのしかったです」
《よかったなー》
そろそろ夕食の時間である。「バベルから、そろそろお戻りくださいとの連絡を受けております」と言われたので、名残惜しいが帰る必要があった。
背後ではウルとディズがグッタリとした表情で座り込んでいるが、二人も遊び疲れたのだろうか。
《つぎいつあそぶー?》
するとアカネがそう尋ねてきた。スーアは不思議そうに首をかしげる。
「次です?」
《あそぶってそういうものよ?》
なるほど、遊びとは、次の約束をするものなのか。
スーアは当然ながら、同世代、近い年齢の子供と遊ぶ機会は殆どなかった。従者達は自分のために自由な時間を用意してあげようと苦心してくれる事はあったが、友達までは用意してやることはできない。
だからアカネの言葉は新鮮で、嬉しかった。
しかし、スーアは少し考えるように首をかしげる。
「なかなか暇になりません」
《じゃあしょーがないわねー》
すこし、申し訳ない気分になっていたが、アカネはあっさりと引き下がった。その気軽さを含めて、そういうものなのかもしれない、
しかしそれはそれで少し寂しかった。なので、
「こんどはアカネが遊びに来ます?」
《ええの?》
「はい」
誘うと、アカネは楽しそうに飛んだ。
《ぎょくざとかすわりたい!》
「いいですね」
「「それはやめよう」」
二人からその提案は全力で止められたが、遊ぶ約束は取り付けた。それもまた初めての経験であり、今日は様々な事を知って、体験することが出来た充実の休日となったのだった。




