従者ミミココの日常と優秀な新人②
“例”の大騒動が起こったとき、ソルガン・セイラ・ルドウはそれを好機だと思った。
あの大混乱がカーラーレイ一族の大失態であることはすぐに理解できた。彼の家はグラドル国内において、相応に力を持ちすぎていたが為に、カーラーレイ一族と近くは無かったが、彼らが好ましくない連中と交わっていたのは知っていたからだ。
そして、彼らは破滅した。
想像通りだ。権力に溺れ、慢心し、際限なく周囲を貪食し、その内側から食い破られる。大変都合が良く事は済んだ。
そして、その後、ゴライアン家の女が神殿の実権を握った。コレもまた想定の通りだ。ルドウ家の力であれば、あるいは周囲をとりまとめることも出来たかも知れないが、それはしなかった。周囲の日和見の連中に紛れて、ゴライアンの女傑を立てた。
彼女には仕事をして貰わねば困る。
混迷するグラドルをとりまとめる、貧乏クジの仕事を。
言うまでも無く、混迷、低迷期のトップの座なんてのは、本当にただの貧乏くじだ。馬車馬のように働き、駆け回って、問題を一つ一つ潰しても、次々と現れる問題に頭を悩まされ続ける。それだけ懸命に支えようとしても尚、周囲からは罵られる。何もしていないとせせら笑われる。
無論、ソルガンはそんな、何のうまみも無い役割はゴメンだった。
だから彼女に席を譲った。
せいぜい彼女には働いて貰おう。そして、とことんまでに、傷を負って貰おう。そして、苦労を重ねて落ち着いたグラドルで、自分は正義の側に立って彼女の責任を追及するのだ。
従者達に不和の種をまくのもその一環だ。第二位の座である彼にとってすれば、従者の人員を密かに混乱させるのは容易かった。彼女の政治体制に適度な不穏の種を撒く。いざというときに芽吹いて、彼女を責め立てるための準備だ。
それ以外にも様々な不和の種は準備してある。彼女を頃合いを見て引きずり下ろす準備は万全だ。
ああ、本当に全く、カーラーレイ一族は都合良く滅んでくれてありがたい。
彼らの蛮行、凶行を見過ごし、間接的に“支援”してきた甲斐があったというものだ。
最後の最後、勝者の座に座るのは自分だ。
ソルガンはそうほくそ笑み、その日もベッドで眠りについた。
そして、そのまま静かに彼の命数も尽きる。
「っ……!!!?」
胸の激痛に彼は眼を見開いた。そのあまりの痛みに息が出来ず、口をパクパクと開閉した。悶え苦しみ、ベッドから地面に転がり落ちる。傷は無い。怪我したわけではない。
だが、用心深きソルガンは守りも入念に固めてきた。ソレなのに何故?!
「っか?!…………っ」
護衛を呼ぶことも出来ず、空を見上げる。窓から星光が差し込み、そこに影があった。自分をまっすぐに見下ろしたその影は、悶え死ぬ自分の姿を驚きも悲しみもせずに淡々と見つめ続ける。
真っ黒な死の化身。それが見下ろしてくる恐怖に、ソルガンは打ちのめされるが、最早身動きすら取れなかった。
「壊れたほうが良い歯車と思われるのは、悲しいことだな」
夜闇よりも尚静かなその言葉が、ソルガンに届く事は無かった。
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「おふぁよお、新人」
「おはようございます先輩」
朝、太陽神が大地を照らすのとほぼ同じ時間に、ミミココは目を覚ますと、既に新人が待ち構えていた。なんで待ってたんだろうと思ったが、そういえばまだ、彼の研修期間が続いていることに気が付いた。
あんまりにも仕事ができるものだから、もう普通の同僚気分だった。
手間が全くかからないというのは本当にありがたい、が、別に、通常時の仕事が減ってくれるわけではない。いや、彼の手伝いは助かるけれども、それでもやっぱり基本的に、高位神官の従者というのは結構な激務だ。だから朝一のミミココはちょっと憂鬱だ。
が、しかぁし!と、備え付きの水道から水をかぶると、ミミココはぐっと意識を覚醒させた。
「今日は良いニュースがあるんだよ!新人!」
「なんでしょう」
「ラクレツィア様が従者達の皆のろーどー環境よくしてくれるって!」
―――手が足りなくて、信頼できる貴方に頼り切りになってしまってごめんなさいね。ミミココ、貴方がもう少し働きやすくできるよう、私も頑張るわ。
ラクレツィア様がそう言ってくれたのだ。彼女の負担が増えてしまう心配もあるけれど、ミミココにとってこれはありがたいニュースだった。ラクレツィアは口先だけ都合の良い事を言って放置しない。
大変な時は大変だという。
だから「する」といえば必ずしてくれる信頼がある。
「なるほど」
「すごいでしょ!」
「ちなみにどのような感じでよくなるのですか?」
「えっ……?」
どのような、といわれると、言葉に困る。というか、わからん!
ラクレツィア様が改善してくれるというのだからしてくれるのだろう!
という、非常にざっくりとした認識だった。
「なるほど」
そして、そんなミミココの様子を見て、新人は何かを察したように微笑みを浮かべた。
「馬鹿にしたでしょう新人!!」
「先輩、今日のお昼ご飯はチョウチョ鳥の卵で出来たオムライスです」
「やったあ!!よーし頑張るぞ新人!」
「はい」
こうして、二人は今日もまた、グラドルの平穏を守るための仕事に従事した。
その日、とある高位神官の一人が心臓の病で亡くなったらしく、葬儀などもあって、少し噂話も広がったが、急がしていくウチに、その話も別の話で埋もれていった。
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「そう、仕事はつつがなく?」
「そうだな」
「申し訳ないわね」
「何がだ」
「貴方は嫌悪していたのでは?」
「効率が悪いと言っただけだ。仕事に良いも悪いもない」
「ミミココとの仕事も?」
「彼女自身は、無邪気でかわいらしいと思うが、仕事は仕事だ」
「……本当に、独特……だからこそ、かしら」
「問題が?」
「いいえ、これからもよろしく頼むわね。頼りにしているわ」
「報酬が正しく払われる限り、文句は無い」
「………………気になっていたのだけど」
「なにか」
「報酬、何に使っているの?」
「国中の美女を招いて夜通しでパーティをしてばらまいたりしている」
「…………」
「冗談だ」
「…………何でも出来ると思ったけど、冗談は下手なのね」
「そうか……」




