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おわりのはじまり


 安全領域(セーフエリア)二十九階層は慌ただしい状況に包まれていた。

 深層に潜った救助部隊が、帰還に成功したのだ。勿論、それは喜ばしい事態ではあるが、それでああ良かったとはならないのは当然のことだ。本隊達は未だに潜行を続けているのだ。それも、深層前の中層にすらも、迷宮の変動、その地響きは届いていた。


 普通、別の階層の衝撃や振動が別の階層に届くはずも無い。

 階層と階層が、物理的に直接的につながっているわけでも無いのだから。


 にも関わらずこれほどまでに揺れることそれ自体が、異常の現れでもあった。当然待機組は慌ただしい。今すぐにでも助けに向かうべきだ。という声が多かった。


「落ち着け!すぐに潜行隊を新たに組む!浮き足立つな!!」

「能力のある者を分ける!中層以上の迷宮潜行経験者は前へ出ろ!」


 その彼らを、先ほど帰ってきたばかりのイカザと、ビクトールが纏めていた。特にイカザは深層に潜り、けが人達を回収して再び戻ってくると言う難度の高い荒行をしたばかりである。にも拘わらず彼女も鬼気迫る勢いで指示を出していた。

 彼女も理解していたのだ。現状が、並大抵の状況ではないと言うことを。


「―――――」


 そして、そんな中、この中でも最も地位の高いスーアは一人、中央に座していた。

 まるで何かを見通すかのように目をつむり、両手を合わせて祈っている。無論、此所は迷宮の中で、精霊の祈りは酷く通りにくい場所でもある。しかしひたすらに祈り、それを誰も邪魔せずにいた。

 普段、表情も分かりづらいスーアであったが、それが尋常な様子で無いことは誰の目にも明らかだった。

 そうしている内に、新たな潜行部隊の準備が整い、再びイカザ達が深層へと潜ろうとした、そのときだった。


「終わった」


 スーアが小さくささやいた。そして、ソレと同時に、先ほどから繰り返し起こっていた振動が途絶えた。新たなる何事かの前触れかとざわめく者達もいたが、スーアはそんな中一人、立ち上がり、光を纏った。


「スーア様!」


 ビクトールが驚き、声をあげる。精霊の力を纏う。迷宮の中にあってそれは言うまでも無く異常な姿だ。無論、スーアほどの力があれば、それも可能にも思えたが、強引に力を振るったというのとはまた違った。

 何かの軛から解かれたような、自然な力の使い方だった。


「イカザ、ビクトール。()()()があります」


 輝きを増しながら、スーアはイカザとビクトールに声をかける。二人は即座に跪いた。お願い、という表現は奇妙だった。それは命令ではなかった。


「あなた方の手の届く限りの、全ての民を護ってください。どうかお願いいたします。これから、どのようなことがあろうとも、そうしてください」


 スーアの言葉は、願いだった。その姿相応に幼く見えるくらい、ただただ純粋な願いだった。その言葉の意図を、イカザもビクトールもどちらも理解しきれずにいた。しかし、それでも二人とも、静かに頭を下げて、頷いた。


「承知いたしました」

「お任せください。スーア様」


 その二人の言葉に、スーアは小さく頷くと、転移の術によってその場から姿を消した。





              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 深層、五十五層。

 迷宮を支える全てを失い、五十五層は完全に崩壊していた。戦いの最中のような振動はもうなかったが、外壁が零れ落ちて、崩れ、落下し続ける。崩落した壁には虚空が覗く。最早、無事な壁の方が少なくなっていた。


 誰の目にも明らかだ。もう間もなく、この場所は消えて無くなる。


 言うまでも無く、急ぎ、脱出しなければならないの、だ、が、


「無事な……奴が、誰一人、いねえ……」


 その状況下で、ウルは、その崩壊に巻き込まれて死にかかっていた。

 否

 ウルに限らず、大罪竜グリード討伐部隊は一人残らず死にかかっていた。何せ、ウル以外見渡す限り動ける者はほぼいなかった。全員倒れ伏している。と言うかウルも死にかかっている。現在、魔力切れで気を失ったリーネを腕で抱え、精根尽き果てて死にかかっているユーリを背負い、息絶え絶えだったエシェルを肩で担いで、なんとか安全な場所まで移動しようとしているが、足取りがあまりに重い。血が流れ過ぎている。動けてるのは奇跡だ。

 だが、それでも動かなければならない。リーネはまだ大丈夫だろう。いつも通りの魔力切れだ。残っていた魔力回復薬も飲ませたから、回復はするはずだ。問題は、エシェルと、ユーリの方だ。


「…………二人とも、無事か、おい」

「―――――」

「――…………」

「折角、勝ったんだ、死ぬなよ。頼むから……」


 返事は無い。身じろぎもしない。呼吸はしていたが酷く小さかった。あの戦いで、もっとも無茶苦茶な動きをしていたのはこの二人だ。竜を圧倒する戦闘能力を人体で発揮したのだ。壊れたっておかしくない。

 なんとか、回復させたいが、神薬の在庫も完全に尽きた。


「い、……」


 ぐらりと、振動が揺れ転んだ。3人を怪我させない様にしたら、思い切り頭から瓦礫にぶつかる。しこたまに顔を打ったが、痛みよりも疲労感が勝った。

 そしてその転倒で、残された力も尽きた。ウルは身じろぎ出来なくなり、空を仰ぐように見ると、崩壊した天井から瓦礫が降ってくる。ウルはそれを見上げても、何も思わなかった。思考力が麻痺していた。「ああ死ぬんだな」と、それくらいしか言葉としてまとまらなかった。


「―――――無事ですか?」


 だから、その瓦礫の雨から護るように現れたスーアに対しても、驚いたりする余裕はなかった。ただ力なく、小さく笑って、応じた。


「神の使いに見えますよ。スーア様」

「そうです?」

「そうです」


 輝ける翼を前に空から降りてくるスーアは、神々しかった。




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 それから、スーアの癒やしの術によって、ウルの身体はなんとか回復した。最低限、身体は動かしても問題なくなった。とはいえ、全てがあっという間に完治の状況に戻ったかといえばそうではなく、どうしたって疲労は残った。

 しかし少なくとも、死ぬ心配はなくなっただけでも御の字だ。本当に、あのままだとグリードを倒しても、仲良く全滅だった。


「どうでしょう」

「なんとか。動けます」


 その間、スーアは辺りに転がっていた仲間達を回収していた。ロックやジースター、グレーレ、グレン、全員やはりウル達と同じく死にかかって意識を失っていたが、なんとか息はある。

 ほぼ奇跡に近かった。誰が死んでいてもおかしくなかった。というよりも、スーアが来ていなかったら、間違いなくその場にいる全員そのまま死んでいただろう。 


「精霊の力、使えるんですね」

「強欲が討たれ、この階層の迷宮の機能が完全に崩壊したので。一時的でしょうが」

「なるほど」


 そう応じるスーアは、キョロキョロと周囲を見渡している。


「王は、もう少し、下の方かも知れません」


 ウル達が戦った地下層は、先程の激闘と、今起こっている崩壊の結果、更に変動している。地下の大穴……正確に言えばグリードと天賢王が創り出したさらなる奈落の先にいる可能性が高い。


「ディズや、シズク達も、下か……っと?」


 そう思っていると、ふわりと身体が浮く。スーアが力を使い、その場にいる全員を含めて浮き上がらせたらしい。そしてそのまま流れるように落下していく。浮遊にウルは身を任せた。

 そのまま下を見ていると、迷宮の残された魔力が光となって、下層を照らしていく。人影が見えた。倒れているシズクやアカネの姿もあった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「は?」

「【魔、断】」


 その魔王の凶行を、ディズが黒い剣閃で切って落とす。振り上げていたブラックの右腕は両断された。しかしその断面に闇が纏わり付いて、次の瞬間には元通りになった。


「ありゃ、惜しい」


 腕を切り裂かれたにもかかわらず、ブラックは笑って距離を取った。


「……忙しない、な。魔王」


 ディズはブラックの前で星剣を身がまえ、ブラックと相対する。


「いきなりなん―――――っどわ?!」


 次の瞬間、スーアが落下の速度を上げ、一気にアルノルド王の前に飛来した。周囲の仲間達をその場に着地させると、まっすぐに王を護り、魔王の前に立ち塞がる。


「スーア、様」

「時間切れか。残念だな。アドバンテージ取ろうと思ったんだが」


 スーアの登場に、ディズは深くため息を吐き出し膝をつく。魔王は肩をすくめてゲラゲラと笑った。本当に、いつも通りに見えるが、その目は据わっていた。


「何やらかしてんだ、ブラック」


 ウルは問う。いきなりとち狂ったのか、とも思ったが、違う。


「俺は言っただろ?アルを裏切らないかって」


 魔王は、最初からそのつもりだったのだ。

 予告していた通りのことをしでかしたに過ぎない。だが、


「だからって、あの地獄の後でいきなりおっぱじめるなよ……!」


 本当に、壊滅寸前だった戦いの後におっぱじめるのは本当にどうなんだろうかと思う。魔王とて、グリード相手にほぼ死にかけの状況だったハズなのに、かなりのダメージだって負っているはずなのに、どういう精神構造をしているのだろうか。


「いきなり、でもねえさ。もう随分と長い話だぜ。これは」


 しかし、魔王は知らぬ風に笑って、そして強く、地面を()()()


「やっと終わり、そして始まる」


 駆け巡った魔力は彼の足下に集約される。まるで初めからそう仕込まれていたかのように魔力は図式を地面に描き出した。一見してそれは魔法陣の様にも見えたが、ウルには別のものに見えた。


「七大罪の魂は全てこの場所に集まった。イスラリアに向けられた干渉全てを逆算し、それを辿って道を開く」


 地面に描かれた、巨大な、【門】


「魔界への魔力回廊が開く」


 輝きが強まる。迷宮が動く。描かれた魔法陣の線に沿って地面が割れる。その先に現れた闇の虚空に、ウル達は叩き込まれた。全員が落ちる。否応なく、落下していく。


「まず先に説明を!!!しろ!!!!」


 ウルは何一つ理解が追いつかぬまま、この世界の深層眠る闇の底へと、その身を投じることとなった。




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





【迷宮・大罪迷宮グリード:リザルト】

・攻略報酬:金貨1000枚、竜吞ウーガ管理権(未払い)

・第三階級相当の魔物種らの魔片吸収

・魔片一定量到達により、魔画数増加■画→■画


天賢王勅命(ゼウラディアクエスト)強欲のグリード戦:リザルト】

・大罪竜グリード超克完遂 強欲の魂を獲得。

 →大罪竜グリードの魂保管

 →経路(パス)からの■■■■の開門情報を部分取得

 →七大罪の魂獲得■■■■→【魔界の門/魔力回廊】開門情報完全取得。

・一部魔魂片、休眠開始

・【憤怒の権能権限委譲】【災禍に抗い勇猛を示す猛き焔】 

・竜化大幅進行

・魔名の上限値大幅上昇

・魔片一定量到達により、魔画数増加■画→■■画


・【色欲】【憤怒】二つの権能を獲得

 →■■・■■■■■■の機能を部分的に使用可能

 →権能派生、昇華

 →【其は■■■■、■■■■■■■■■】 


・【武の無窮】拾得者の撃破達成

 →戦闘経験の超大幅な向上

 →【再生能力(リジェネ)】より技能派生

 →【彼岸舞踏】獲得

 →心身の危機的状況下にあって戦闘能力の劣化が発生せず、能力が向上する。


・【終焉災害】根絶

 →【救世者】取得条件達成

 →【終焉因子】を持つ者に対する能力大幅向上、自動技能ttttttttttttttttt■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■二竜の権能を獲得及び、【方舟】への影響能力及び脅威の大幅な向上につき【終焉災害】の兆しを感知

 →類別(カテゴリ)■■■(エラー)

 →新約12条に基づき、新たなる終焉因子項目を【ノア】へ申請

 →現在申請中

 →排除依頼(クエスト)発令

 →失敗

・【終焉因子】及び、保有していた【王の殺戮者】と【救世者】の衝突が発生。

 →技能崩壊→分解→再構築→【■■■(エラー)

 →判別不明、前例無し、類似技能無し、“超特殊技能”と判定

 →仮呼称として現在申請中の【終焉災害】項目を適用

 →【灰■■】未覚醒状態で獲得


というわけで、グリード六輝死域編なんとか完結でございます!!!!!

大変、大変高カロリーかつ長い戦いを最後までお付き合いくださって感謝いたします。

そして、更に流れるように魔界編へ……と、言いたいのですが


その前に、番外編やります!(2週間すこし)


いや、この流れで、という批判が聞こえてくるようで本当に申し訳ないのですが、理由は言い訳の余地なく疲労困憊ゆえです。

このまま魔界編をやると私の全身の血管が千切れて死にますのでご勘弁ください。

いつも以上にゆるい感じの短編をゆっくりと放出していきますので、どうか皆様ものんびりお楽しみいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ん?トドメはユーリだし魂はユーリに行ったんじゃ?
[良い点] 相変わらずどこのお役所だってくらい伏字だらけ……。 そんな中でも二桁画数になったのだけ理解!たぶん!
[良い点] 本当にこんな濃い内容の小説を、お仕事など大変でしょうに毎日更新ありがとうございます!この小説は間違いなく僕の生きる原動力になっています。 ほんとにお疲れ様です。せめて番外編の間はゆっくり休…
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