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宝石人形との闘い④

 右手に竜牙槍を握り、左腕で倒れたシズクを支えるウルの身体は悲鳴を上げていた。


 痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!


 全身が痛い。

 だが特に脳天と、竜牙槍を握る右腕からはことさらに強い痛みが唸っていた。ほんのわずかでも動かすだけで稲妻のような痛みが走る。涙が出そうだった。いや、実際今ウルの顔は血と涙と鼻血とでぐしゃぐしゃな状態だった。拭うもままならない。


「……か、ぐう」


 息をするのも辛い。肺が動くたびに体の何処かが悲鳴を上げる。じっとすることもままならない。地面に転がりまわって赤子のように泣きわめきたい衝動が頭の隅を過る。


 だが、そうはしなかった。


 ウルの思考は全く別のモノに支配されていた。それは


「……ああ、はらがたつ」


 怒りだ。

 ウルは怒っていた。腹が立っていた。煮えくり立っていた。目の前で、シズクによってことごとく攻撃を跳ね返され、癇癪を起こした子供のように最大の攻撃を放とうとする宝石獣など目ではないくらいに、ウルは怒り狂っていた。


「なんで、なんだって俺が、こんな、目に遭うんだ」


 壁にめり込んだ身体を強引に引き抜き、シズクをそっと地面に寝かせ、その左手で竜牙砲の柄を握りしめ、ウルは唸る。


 なぜこうなったか?理由はいくらでも思い浮かぶ。


 そもそも目の前の宝石獣が悪い。コイツが好き勝手暴れさえしなければこうはならなかった。それを言い出すと他の冒険者たちもだ。こっちの邪魔をしさえしなければ評価点が低いというリスクを飲んで安全な手段で宝石人形のまま討てた可能性があった。というかそれを言い出すとそもそもかわいいアカネを借金の担保に出したクソバカバカしい冒険者(笑)なあの父親がすべての元凶なのではクソクソクソクソ絶対にあの親父は殺す百回殺しても足りない。


 ああ、なにもかも、なにもかもだ!!!だがそれよりも何よりも腹が立つのは――


「なんで俺はこんな道を選んじまったかなバカ野郎!!!」


 この地獄、奈落の底に踏み出した自分自身だ。


『OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!』

「うるせえ!!!」


 ウルは人形に劣らず叫び、睨みつけた。死の恐怖は怒りでかき消えていた。


「眩しいんだよ、この野郎!!」


 そして眼前で輝く魔道核へと跳躍し、竜牙槍を振り回し、


『GIAAAA!!!』

「あ?」


 槍は、空を切った。

 単純な理由だった。宝石獣が後方へと、この大部屋一杯後ろに跳躍していた。砕けかけていた左腕を地面に叩きつけ、その反動で跳ね退いたのだ。結果、残った腕も砕け散り、両前足を失った宝石獣は、それでも頭だけは此方へとゆがめ、光をウル達へと向け続けた。


『GU,GAGAAGAAAAA』


 嗤う。魔道核の駆動音とは別の、歪な嗤い声が聞こえてくる。嗤っている。その槍はもう届かないと、ボロボロになったウル達をあざ笑う狂った獣の嘲笑だった。


「――危ないとみるや遠距離攻撃、賢いな」


 ウルは、その嘲笑を意に介さず、少し感心したように声を漏らすと、


「“魔道核起動”」


 竜牙槍の柄を捻った。

 竜牙槍の中に仕込まれた魔道核は人形と同じく脈動を開始する。竜牙槍の動作手順は顎を開き、核を起動させる。その手順とは真逆に、顎を開放しないままウルは核の起動を開始した。当然そうなれば膨大なエネルギーの出口を失い、熱は内部に籠り続け、最後には爆散する。


 故に


「俺も真似しよう」


 ウルは、竜牙槍を“投擲した”。


『AGA!!!!?!?』


 迷宮によって鍛えられた力で全力投擲された槍は、此方に向かって大きく開かれていた宝石獣の口内に一直線に叩き込まれ、魔道核に突き立った。何かが砕ける音と、狂った駆動音が大部屋の中で反響する。放たれる直前だった宝石獣の閃光が飛び散り、天井や地面を焼き切った。

 そして遅れて、突き刺さった竜牙槍の核が限界を迎えた。溜め込まれたエネルギーが逃げ場を失い、爆散した。


『GIIIIIIII?!』

「良いな」


 ウルは自らが生んだ結果に満足するようにそういって、飛び出した。武器としていた竜牙槍は既に彼の手にはなく、しかしその代わり、彼の手には別の槍がすでにあった。


「【氷棘】」


 氷の槍、シズクが意識を失うギリギリで生み出した最後の魔術。それを握り、ウルは駆ける。宝石獣は己が急所の破損でもだえ苦しみ、地面をのたうっている。竜牙槍の爆散が宝石獣の頭を半分消し飛ばし、魔道核が完全に露出していた。


「とっとと死ね」


 跳躍し、渾身の力を込めた槍を、ウルは宝石獣の心臓に真っすぐに突き立てた。


『―――――』


 直後、まだ放出され切っていなかった宝石獣の魔道核のエネルギーが、衝撃と共に砕け散り、宝石獣は爆散した。





              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 宝石獣とウル達の激闘を眺めていた者たちは全員が息をのんだ。


 暴風と轟音、そして光と爆発、



『―――――』


 あれほどまでに荒れ狂っていた宝石獣の動きが、ピタリと止まったのだ。


 唸り声も止まり、荒れ狂う光の渦も停止していた。まるで呆然とするように動きを停止させていた宝石獣は、やがて重力の法則にしたがうようにゆっくりと、地面に倒れた。あれ程までの硬度を見せていたその身が、衝撃と共に崩れ、砕け、崩壊する。


「お、おおおおお……」

「お、おい!やったぞアイツ!!」


 ずっと距離を取って眺めていた冒険者が歓声とも驚愕ともつかない声を上げる。その横で討伐祭の実行を取り仕切っていたコーダルが矢継ぎ早に医療魔術の使い手たちや、救助を行う冒険者たちに指示を送り、宝石獣の残骸の撤去に向かわせた。その中にはナナたちの姿もあった。


 慌ただしく行き交う声と人の中、ガシャン、と、宝石獣の残骸を踏みしめる音が響く。


「―――――――」


 その場にいた全員息をのむ。

 宝石獣の残骸の頂上に、勝利者であるウルが姿を現した。背中にはシズクを抱え、立つ彼の姿はボロボロだった。身にまとってたはずの兜はなく鎧は半ばまでひしゃげている。装備していた盾は半ばで砕け落ち、握りしめている竜牙槍は、もはやただの残骸に等しい。頭から流れた血は顔をべったりと汚していた。


 凄まじい死闘であったことを物語る身体を引きずるようにして、ウルは歩き進む。そして最初から最後まで同じ姿勢を崩さず見物に徹していたグレンの前にたどり着いた。


「かった、ぞ」

「おう。やるじゃん」


 あまりにもさっぱりした、しかし初めてのグレンの称賛に、ウルは力なく笑った。そしてそのまま、この場に集まった冒険者たちに向けて、あるいはこの世界そのものに向けて、ウルは宣告した。


「俺達の、勝ちだ」


 そう言って、ウルはそのまま前のめりになって、倒れた。



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