灰都ラースの大騒乱③
「なん、だこりゃあ!!?」
黒炎払いの中でも比較的、所属してから日の浅い囚人の一人が悲鳴を上げた。雨あられのように降り注ぐ都市の残骸は、まともな狙いを付けることも無く落下し、周囲を破壊した。そしてその破壊した残骸がまた浮き上がり、重力に従い降り注ぐのだ。
「魔術だ!恐らく単純な【物質操作】!」
「なにが魔術使ってるってんだよ!?」
「そりゃ不死鳥だろ!!」
「アイツ魔物だろ!?」
「知性が高いって結論が出てただろ!」
否定しようとするその男を、仲間の囚人が切って捨てる。
魔術、魔力による現象の干渉技術は何も人類の特権ではない。知性が高い魔物であればそれを扱うというのは常識だ。グリードの【悪魔種】等は人類の技術よりもより高度にそれを扱うと有名だ。
不死鳥もそれを手繰る能力を有していた。それだけの話と言えばそうだった。
「でも魔力は!?黒炎鬼なら魔力は黒炎の薪になってるはずだろ!?」
「そこまでは知るか!!事実向こうは使ってんだ!考えても仕方ねえだろ」
「くそ!でもこのザマでどうするんだよ!!魔術師達を守るなんて無理だぞ!」
現在、不死鳥を封じるために10人ほどの魔術師達が一斉に大地の砂を操って不死鳥に押しつけ、強引にその動きを封印している。彼らを守り抜くために向かってくる瓦礫を弾き飛ばそうと必死だが、こんな無茶はそう長くは持たないことは誰の目にも明らかだった。
魔術師達の一人でも瓦礫に叩き潰されたらその瞬間、不死鳥の封印は解かれる。その瞬間全滅だ。
「んなこたぁわかってんだよ!!だから事前に決めていたんだろうが!!」
瓦礫の雨を掻い潜り、動ける戦士達は懐から新たな巻物を取り出し、そして叫んだ。
「プランBだ!!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
狭い 暗い 痛い
不死鳥は困っていた。
なんだかよく分からない。よくよく観察してもサッパリ分からない、牛みたいな何かを追い回していたら、突然爆発した。爆発しただけならまあ良いが、身体に何か一杯突き刺さって痛かった。その後大量の砂に押しつぶされて身動きが取れなくなった。
一体なにがどうなったのか、というのは考えるまでも無い。敵の襲撃だ。先日の事を考えれば、再びアレに接触しようとしている何者かが現れたのだろう。
つまりあの、牛みたいな何かは罠だったのだ!!!
不死鳥は悲しくなったが、嘆いてばかりもいられない。自らの役目を果たさなければならない。不死鳥は自らの魔力を解き放ち、そして魔術を操った。
不死鳥は非常に賢いが、魔術は単純なものしか使えない。魔術は苦手だった。不死鳥の魔力はあまりにも膨大で、細かな操作をしようとしても、術式が壊れるのだ。精霊の力を結集させて生み出された不死鳥は、本質的には精霊に近く、精霊の力を模倣する為に生まれた魔術という力は、不死鳥の枠には収まりがたかった。
でも物質操作は得意だ。単純だからだ。多少の齟齬が在ろうとも、魔力という力の塊で物質を動かすだけなら、繊細な操作は必要なかった。
――ふしちょうさまは、すごいのですね!
ずっと前、そんな風に言って幼い子供が喜んでくれたのを不死鳥は覚えている。
思い出して、少し嬉しくて、少し悲しくなった。だからあの時以上の力を此処で振るおうと、不死鳥は砂の牢獄の中、真っ暗な闇のなかで、自身を封じ込める敵達に瓦礫を振り回した。
砕けろ 燃えろ 消えて失せよ
無尽の魔力を不死鳥は振り回し続ける。さながらそれは嵐のようだった。全てを破壊し尽くすまで不死鳥は収まらない。そして、
『A?』
不意に、牢獄がひび割れた。足下から光が漏れる。牢獄が壊れ始めた。恐らく、自分の力によって、外の卑怯者達が倒されたのだ。不死鳥は納得し、そしてその光の方角へと魔力を込めた。
先程まで、万全の力で封じられていた砂の牢が、不死鳥の魔力によって砕け、ひらかれていく。よほどの大質量の砂を押しつけてきていたのだろう。しかしそれも徐々に開かれていった。
亀裂が徐々に開かれて、光が漏れ出す。その方角に不死鳥は一気に飛び出した。
そして――
『A!?』
その瞬間、飛び出した先で、大量の弓矢が不死鳥の身体を刺し貫いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「今、です」
アナスタシアの指示と同時に、レイ率いる弓矢部隊が一斉に矢を放った。
「竜殺しの矢は使うな!!万が一にでも死なれたら、【再誕】される!!魔術阻害にのみ務めろ!!」
不死鳥の死と再生のプロセスを目撃したボルドーが加えるように指示を出す。
不死鳥の蘇りの流れをボルドーは正確に認識していた。傷が癒えるでも無く、元に戻るでも無い、再誕という現象。傷も、消耗も、欠損も封印も、何もかも無かったことになるそれをさせるわけには行かなかった。
「魔術部隊の周囲に石壁の巻物による防壁を作れ!!瓦礫の【物質操作】は黒炎ではない!!防ぐことは容易だ!!魔術部隊は砂の牢獄の再構築を急げ!!」
ボルドーは矢継ぎ早に指示を出す。同時に振り返り、待機していた【魔女釜】のグラージャ達へと視線を向けて、叫んだ。
「【魔女釜】、グラージャ達はどうしている!?」
「既に【残火】へと移動しています!!防壁の解除を試みているかと!!」
「勝手に……!」
ボルドーは舌打ちをした。
【黒剣騎士団】が足止めを喰らった【残火】の障壁の解除に、優れた魔術師を必要としていたことはボルドーも遠目で見て確認していた。だからこそ【魔女釜】の魔術師に今回の遠征協力を依頼し、リーダーであるグラージャ自身の同行も飲んだのだ。
少数の人員を借りるなら兎も角、魔女釜のリーダー自身が同行するともなれば、指揮系統が混乱すると思ったが、案の定だ。グラージャはあまりコチラの言うことを聞く気が無い。
しかし、それでも彼女の同行を許したのは、彼女が魔術師としては地下牢で最も優秀であり、不死鳥以上に正体もはっきりとしない残火の解放に彼女の知識と力が必要になることは明らかだったからだ。
だから、命令無視も発生する前提でボルドーは心づもりをしていた。
「ウル!ガザ!先行している【魔女釜】の護衛に向かえ。魔女釜が【残火】を囲う障壁を解除した後、可能であれば【残火】を破壊しろ!!」
「了解!!」
「“異常があれば”即座に伝えろ!いいな!!」
ウル達は動く。
【不死鳥】と【残火】、どちらも人類が数百年相対したことの無い未知でありながらそれだけに集中できないというのは手痛い事だったが、やむを得なかった。元々、相当の無理を通してこの戦いに挑んでいる。あらゆる不測の事態を飲み干すだけの覚悟は必要だった。
「ボルドー、さん。土の牢獄、上部が、崩れて、きています」
「承知した!!魔術部隊!!土牢の上部の崩壊を防げ!!不死鳥になにもさせるなよ!!」
瀬戸際の攻防は続く。
しかし彼らは諦めず戦いを続けた。その果てに勝利があると信じて。
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