集結②
「ウーガの最後部、搬入口だ。ウーガ停止時はその身体が地面にめり込み、尻尾は通行可能なスロープになる。中小規模の【移動要塞】なら直接乗り込める」
【搬入口】尻尾の付け根部分は平たく広い。乗り込むに“都合の良い形”になっている。生物としてやや不自然なその形は、意図的に生み出された使い魔である事を示す証拠の一つでもあった。
「搬入口から、倉庫区画へと続き、その先に住居区画がある。建築物は通常の都市部のそれと比べてそれほど高層建築になっていない。地下空間も少ない。見た目ほど収容能力は無い」
住居区画は一見して広いように思える。元々通常の衛星都市だったものがそのまま使い魔となったのだから相応の広さはあった。しかし此処は巨大なる使い魔、ウーガの背中だ。
住まう、と言う点では必ずしも優れてはいなかった。通常の都市のように地下空間や高くどこまでも伸びた高層建造物を使って、居住エリアを嵩増しすることも出来ない。通常の都市以上に、限られた者達しか此処には収容できない。
その事実は、見る者が見ればすぐ気付くだろう。
このウーガの価値と、存在する椅子の数の少なさ。この二つの要素が起こしうる危険を案内された者達は敏感に感じ取っていた。
「ウーガの周辺は、ウーガ自身の硬質化した皮膚が防壁となって守っている。単純な結界よりも強力だ。もっとも、ウーガ自身に積極的に近付く魔物が少ないが」
ウーガは生物型の【移動要塞】の特性を有している。巨大な生物として強い気配を発しているために、その上にいるヒトの気配を魔物達が感知しない。一見して太陽の結界がない無防備な場所に思えて、魔物に対する防衛能力は高い。
「ウーガの中央地下、管理区画だ。ウーガの揺れの制御、ウーガ自身の体調、取り込んだ魔力の調整等を担う一つの要だ。また、司令塔との通信魔具も備え付けてある」
此処の管理はグラドルから既に魔術師が派遣され、管理運用を任せている。ウル達には分からないことの方が多く、リーネ一人では手が回らなかったため助かっている。魔術師として派遣された彼らは、ウーガをみて激しく興奮し、駆け回っていた。
ちなみにウーガの建設計画に関わった魔術師は、グラドルから派遣されていない。深く関わった者の殆どが、粘魔となってしまったのだから当然と言えば当然だ。
「で、司令塔周辺、ウーガ前頭部に近い。“甲壁”も一番分厚く、守りが堅い場所だ。都市で言うところの神殿区画だ」
ウーガの搬入口から最も離れた、ウーガの最奥のエリアだ。エイスーラが自らの城となる場所と定めて設計させたためか、優美な建築様式を取り入れられたウーガの中でも一際に美しい。ウルや、ウーガで暮らす名無し達は司令塔に入るときは少し気後れする程だ。
「司令塔内、ウーガ運用時、制御印を持った者が利用する司令室だ。巨大な遠見の水晶はウーガの視界を反映している。制御印所持者以外も、許可された者はここからウーガ各部の術式制御が可能だ」
この2ヶ月の間、ウーガを活用したウル達も此処は頻繁に利用していた。様々なウーガの情報がダイレクトに反映され、各部の確認と制御が可能となるこの司令室は名前の通りウーガの頭であり、要だろう。そして――
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「会議室。まあ、そう呼んでいるだけだが。司令室の向かいで、多人数で利用できる巨大な机に椅子が並んでる。話し合うにはうってつけの場所だ」
ウーガの見学ツアーの最終地点、司令塔内会議室に全員が集った。それぞれが陣営に固まって席に着いていく。
ウル達側は、ウル、シズク、エシェル、リーネ。補佐にジャイン、ロックは留守番だ。
グラドル側は、シンラのラクレツィア、勇者ディズ(とアカネ)、そして護衛の天陽騎士達。
エンヴィー騎士団は、隊長のグローリア、副長のエクスタイン、そして配下の部下達。
そしてスロウス側はというと――
「……ブラック殿、どうしました?」
「ああ、司令室に小さな黒剣虫が潜り込んでてさ。ウーガの中に良く潜り込めたと感心してちょっと眺めてたんだよ。悪い悪い」
外から司令室を楽しそうに眺めていたブラックが笑って席に着く。
スロウス側は彼一人だ。
この見学ツアーの最中も、あちらにこちらにとふらふらと歩いては、楽しそうに眺めるばかり。緊張感が無いことこの上ない。完全に旅行に来た観光客のそれである。
「……やっぱ、来訪拒否ってもよかったんじゃないか?あの人?」
「黄金級で、神殿からもシンラ相当の地位を与えられた正真正銘の大英雄、生きた伝説を袖にした後の禍根とどっちが良い?」
「面倒くせえ……」
ジャインの忠告に、ウルは沈黙した。
ブラックもようやく席に着いて、役者が揃う。
そしてそれを確認して、エンヴィー騎士団遊撃部隊長、グローリアが立ち上がった。
「さて、まずは本日、このような機会を設けて下さったグラドルの皆様とウーガの皆様に改めて御礼を申し上げさせていただきます。竜呑ウーガ、大変素晴らしいものでした。現存する移動要塞、使い魔の中でも最も完成度が高く、最も強靭であるということは疑いようも無いでしょう」
そしてグローリアは「しかし」と、言葉を更に続ける。
「はたして、保全という面で、グラドルは【ウーガ】の管理能力を有しているでしょうか。そもそもからして、このウーガの成り立ち自体、後ろ暗いところが本当にないのでしょうか」
きた、と、ウルは身構える。ラクレツィアも同じくそう思ったのだろう。姿勢を正し、グローリアを睨み付ける。
「で、あればどうすると?」
「確認を行いたいのです」
そう言ってグローリアは自身の部下に合図を送る。一人が前に出た。騎士達の中で、一人だけ、神官の法衣を身に纏った男だ。彼は祈りの所作を行う。
「果たしてグラドルにウーガ所持の正当性があるや否や?それを問う討論を始めたい。そして、もし、話し合いの結果、そぐわないという結論が出たならば」
間もなくして、机の中央に、自ら光を放つ巨大なる【天秤】が突如として顕現した。威圧的にすら感じる天秤に、ある者は怯え、ある者は敵意を向け、またある者は笑った。
「【七天】が一人、【天魔のグレーレ】の名代として、天賢王から与えられた権限を用いて、【竜吞ウーガ】という魔術資産をグラドルから没収します」
【天魔裁判】開始のゴングが鳴った。
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