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ギルド結成と天陽騎士




 冒険者ギルド、大罪都市ラスト支部


「では、ウルとシズクの両名を銅の一級に昇級させます」


 ウルとシズクはその宣誓と共に、自らの指にはめた銅の指輪を掲げる。すると目の前に居る冒険者ギルドの術士、“昇格審査員”がその指輪に詠唱を捧げ、指で触れる。銅の指輪に灯った光が3つから1つに変わった。一級の証拠である。

 打ち上げから数日が経過した。ウル達が療養とリハビリに務めている間に冒険者ギルドでいくらかの検討があり、その結果、ウル達の昇格が決定した。


 今日はその昇格の儀式の日だった。


 儀式、と言っても、それほど大規模なものではない。冒険者ギルドの一室にて、ウル達が装着している冒険者の指輪の設定をいじるだけだ。


「これにて、貴方たちは冒険者ギルド銅の一級、銅級の中ではトップとなります。銀級ほどではありませんが、それでも多くの冒険者達の前をゆく存在、重々その責任を忘れませんようお願いします」

「それでどうやったら銀級になれるんだ」

「人の話を聞きなさい」


 ウルは昇格審査員のおじさんにチョップされた。


「あなた方の事情は把握しています。ですが、銀級は一流の冒険者の証、容易くはありません」

「ソレは分かるが、聞いておきたい。備えたい。自分でも調べてはいるが、今の自分の実績がどのあたりで、どうすればいいかがピンと来ない」


 何せ現状、ウルの辿ってきた道筋は随分と特殊である。冒険者になって一月で十級の魔物であり賞金首の宝石人形を討ち、次の都市に行くと竜信奉者の死霊術士と餓者髑髏の撃破、大罪都市ラストで賞金首怪鳥を打ち倒し、更に【大罪竜・色欲】の迎撃の貢献を行う。

 必ずしもその全てがウル達の手柄ではないし、偶然も味方したし、助けもあったが、それでもスピード昇格に見合うだけの結果は残してきた。


 だが、銀級がこの調子でなれるものなのかはわからない。


 銅の中で位が上がるのと、銅から銀に色を変えるのとでは訳が違う。銅と銀では大きく異なる。とは散々いろんな連中から聞いたのだ。ただ闇雲にやれば良いというわけではない。筈だ。

 ウルの懸念を察し、昇格審査員はおほんと咳を払った。


「そうですな……銀に上がる条件は幾つかあります。ギルドへの貢献度の高さがまず挙げられます」

「賞金首の撃破は高いです?」


 シズクの挙手に、審査官はええと頷く。


「賞金首は冒険者ギルドでも対処に難航している相手ですからソレは間違いなく。ギルドからの依頼(クエスト)をこなすことでも上がります」


 考えてみると、ウル達はまだあまり積極的に冒険者ギルドから配布されている依頼をこなしていない。ディズの護衛のための都市移動、その合間合間の賞金首の撃破と、依頼に割く時間がないというのもある。今度じっくり見てみるのもいいかもしれない。


「今はお二人とも銅の一級ですから、直接ギルドから依頼を提示されることもあるはずです。尤も、ある程度はその土地のギルドになじむ必要はありますが」

「なるほど……次、迷宮攻略の実績、というのがイマイチよくわからない」


 今度はウルが挙手をする。


「迷宮という存在がこの世界においての脅威であり、同時に人類生存の要である事は間違いなく、それ故に迷宮攻略も銀への昇格には重要になってきます」

「具体的には」

「大罪迷宮なら中層への到達と一定以上の魔石発掘、もしくは複数の小中級迷宮の制覇」


 この世界に存在する迷宮は当然ながら大罪迷宮のみではない。地表に現出した迷宮は大小様々だ。ほんのわずかな階層しかもたない小規模の迷宮から、大罪迷宮ほどではないもののの幾つもの階層のある中級規模の迷宮まで、それらの制覇は都市とギルドへの大きな貢献となる。


「迷宮の(オーナー)を撃破し、【真核魔石】を獲得し持ち帰る事が出来れば確実でしょう。銀級と成った者の多くは迷宮から勝ち取り、持ち帰っています」

「銀級は必ずこの実績が必要だと?」

「そうではありませんが、しかしコレなしでとなると、それ以外での、それ以上の活動実績が必要となります」

「ふむ……」


 現在のウル達の冒険者としての活動には制限時間がある。あまり同じ場所で悠長にするのも難しい。その短い時間に迷宮を完全攻略が出来るかは正直怪しい。


「どのような選択をするかはあなた方の自由ですが、無茶は兎も角、無謀な真似はしないように」

「ありがとうございます。審査員さま」


 シズクはニッコリと微笑み、ウルも頭を下げる。


「ところで……あなた方はギルド登録はしていらっしゃらないのです?」

「冒険者ギルドには所属していますが?」

「冒険者ギルドは大連盟直下の“大ギルド”です。それとは別に、自身のギルドを結成し、そのギルドで再び、冒険者ギルドに登録する事も出来ます」

「メリットは?」

「細かいメリットは色々と。幾つかの制限がありますが、ギルド員もギルド長である貴方と同じ指輪の恩恵を受けられるようにも成ります。依頼や賞金首の報酬の分配もかなりスムーズになるでしょう」

「デメリットはなんでしょう?」

「事務処理が少し面倒くさいです」

「面倒くさい」


 真面目そうな審査員から出てくる不真面目単語にウルは首を傾げた。しかし彼は冗談を言ってる様子はなく、至極真面目だ。


「大連盟への登録も必要なので、提出しなければならない書類が増えます。ギルドとして成果を上げた場合の収益に関しての報告も。勿論冒険者ギルドのサポートはありますが、全てというわけにはいきません」

「……それは結構バカに出来ないレベルで面倒くさいな」

「私たち、時間がありませんものね」


 ディズの指導によって現在のウル達の一日は“長い”。

 が、しかしだからとて時間に余裕があるわけではない。短期間の昇格を目指すウル達にはやることは山ほどある。鍛錬、勉学、調査、移動、護衛、そこに更に書類仕事まで追加、となると正直ウルはキャパシティオーバーする自信があった。


「その手の書類処理を専門に請け負う信用できるギルドに委託するのも手です」

「金はかかると」

「費用補助はウチからある程度は出しますよ……もっとも、その申請も必要ですが」

「今から他のギルドに所属するのは?」

「銅の1級を得た貴方たちを今更引き入れるのは、ギルド内のパワーバランスが崩れるのを恐れて拒否する所が多いでしょうね。しかも今の冒険者の主流は一か所の都市にとどまった活動です」

「そりゃそうか……つまり、自分たちで立ち上げた方が良いと」


 ウルとシズクは顔を見合わせた。


「ではウル様がギルド代表ですね」

「俺かあ」

「ギルド名はどうしましょう」

「じゃあ、歩ム者(ウォーカー)で」


 極めてアッサリと、ウル達のギルドは結成された。





              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「いいわよ。貴方がギルド長で」


 冒険者ギルドの酒場にて昼食を取りつつ、ウル達は今後の方針について話し合っていた。さし当たってギルド結成に関しては、当然他の仲間達に許可を取る必要があるため、確認を取った。

 結果 リーネはアッサリとウルのギルド結成とギルド長となる事に承諾した。


「白王陣の名を汚さないというなら私は構わないわ」

「ブレないなお前」

「ギルド紋章出来てないなら私が描くわよ」

「絶対白王陣モチーフの模様で描くだろ。わからんだろうし、いいけど」


 さて、そしてロックはというと


『カカカ、かっちょいいのうギルド長よ。もっと胸張ったらどうじゃ?』

「正直なところやりたかない。やりたいならやってもらって構わんぞ。ロック」

『ワシ、第二の人生は身軽に生きると決めておるので』


 カタカタとロックは笑い、ウルは溜息をついた。

 身軽さ、羨ましい。ウルだってそうしたい。ギルド長などと、正直責任ばかり増えそうで旨みはあまりなさそうだ。さりとて、現状そのポジションに着くべき者は自分以外いない、というのもウルに分かってはいた。

 仲間になった時期的にリーネは除外、ロックはそもそもシズクの使い魔だ。となるとウルかシズクの二択になるが、シズクは自分が前に出るのではなく、ウルを支えるよう努めると既に決めてしまっている。

 そうなると自分しかいまい。面倒なことだ。


「まあ、まだ3人と1体だ。一行(パーティ)となんら変わらない。ギルド結成も形だけのものになるだろうさ。仕事の受け方や報酬の受け取り方が少し変わるだけだ」

「ですが、同行者は増えそうですよ?」


 は?とウルがシズクの言葉に首を傾げる。

 シズクはチラリと酒場の出口の方に視線をやる。するとそこに彼女の言う同行者がいた。


「あれは……」


 ウルだけではなく、他の冒険者達も思わず視線を向けるその鎧の派手さ。身を守るためではなく、太陽神の威光を示すためにある太陽をモチーフとした眩い鎧に身を包んだ“騎士”が一人、真っ直ぐにウル達がつくテーブルに向かってきた。

 ウルはその鎧に見覚えがある。無いわけが無い。あの審問会議の際に、散々暴れ回った天陽騎士その者である。エシェル・レーネ・ラーレイだった。


「……ふん、随分と“無能の名無し”が多い場所だな。魔物の死骸を漁るギルドらしい」


 無駄に響く高い声で告げられた罵声に、訝しげにしていた冒険者達は「は???」と青筋を立てた。


「酒場も泥臭く下品だ。何故わざわざこんな所に集まるのか理解に苦しむな」


 冒険者ギルドから直々に酒場を任されている店主は少し音を立てながら包丁で肉をたたき切った。


「こんな小汚い場所に私に足を運ばせた事「失礼しました」」


 ウルは彼女の腕を引き速やかに酒場から退出した。



              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「その竜で呪われし汚らわしい手で私を掴むな!何の真似だ貴様!」

「申し訳ありません。あのままだと殺されそうだったので」


 外に出て早々、ヒステリックにウルを罵る天陽騎士、エシェルにウルは頭を下げながら理由を述べた。それに対して彼女は少し目を丸くした後、尊大そうに腕を組み鼻を鳴らした。


「私は天陽騎士だ。あそこの名無しどもが私になにが出来るというのだ」

「まあ、直接的に貴方に刃向かう命知らずは居ませんが……」


 と、言いかけた瞬間、ふっと、背中から猛烈な視線を感じた。ウルはそっと後ろを見る。釣られてエシェルもソチラへと眼をやると


「「「「「……………………」」」」」


 ギルドの入り口で、幾人もの冒険者達が睨んでいた。何も言わないし、当然武器も持ってない。ただ睨んでいるだけである。ただし彼らの多くは歴戦の冒険者達であり、魔物達すら無手で退けるほどの殺意を込めた眼光である。ウルすら普通に背筋が震えた。


「ぴっ」


 エシェルがか細い悲鳴を上げるのもやむを得ない事であろう。ウルは彼女の前にそっと立ち、頭を下げて謝罪をした。すっと殺意が消えたので一応は収めてくれたらしい。

 しばらくウルの背中に隠れていたエシェルは、最初は顔を青くしていたが、そのうちに今度は驚愕に表情を変えた。


「なんだあいつら!?私は官位持ちだぞ!!」

「基本、“名無し”は都市国内部の官位に対して強い敬意は払ってないのでご注意を」


 神官達の与える恩恵は凄まじい。上位存在である精霊達の力を、一端であっても我が物として活用できる。その力を都市の守りと、豊かさのために分け与える。都市に暮らす“都市民”からすればまるで神のような存在だろう。

 ただし、名無しにとっては、そうではない。彼らは基本、都市に永住することも許されない。都市は、謂わば仮住まいのような場所である。いかに神官達が都市に多くの恵みを与えようと、その恩恵を直接与えられる立場に彼らはいないのだ。

 冒険者となり、指輪を得、都市への永住権を得たとしても、かつて味わった格差の意識はそうそうには変わらないだろう。多くの名無しにとって神官とは「精霊との交信の力を持つ“都市国の”特権者」以上でも以下でも無い。自分らを庇護する者たり得ない。


 名無し、都市民、神官、彼らの間には紛れもない格差が存在するが、全てが単純な上下で成り立つ訳ではない。


「まあ、だからって神官に暴力振るうやつは居ませんが……神官ってだけで平伏するような奴らばかりではないですよ」

「こ、()()()()()…!!」

「は?此処でも?」


 問うと、エシェルはハッとなり、首を振って再び胸を反り、わかりやすく不遜な態度をウルに示した。


「五月蠅い。お前にとやかくと言われる謂われは無い」

「失礼しました」


 ウルは頭を下げる。ウルはウルで、この天陽騎士に対して深い敬意を払っているわけではないが、これから長い付き合いになる可能性がある神官相手に下手を打つのは避けたかった。


「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?エシェル様」


 酒場から追いかけてきたシズクが微笑みながらエシェルへと問いかけた。ウルもちょうど聞きたかったことだ。あんな風に愚痴をたれながらも、わざわざ単身で彼女が自分たちを訪ねに来た理由が分からない。


 問われ、エシェルは気を取り直すようにゴホンと咳を払い、年相応に不安げだった表情を再びわざとらしい尊大な態度に変え、シズクを指さした。


「貴様への通達だ。ありがたく拝聴しろ」

「承知致しました」


 シズクは恭しく傅く。ウルも一応それにならった。エシェルは満足げに頷く。


「グラドル天陽騎士団からの任務(クエスト)である。貴様等はコレより【大罪都市グラドル】、その【衛星都市ウーガ】へと向かってもらう」

「……やっぱりグラドルかぁ……」

「そこで何を?」


 ウルは額に皺を寄せ唸った。シズクは気にすることなく続きを促す。エシェルは引き続き仰々しく胸を反らしながら声を上げる。


「人類生存圏外の開拓都市にて竜災害が発生している。貴様等はその調査並びに解決が求められている」

「あー……解決は必須ですか?シズクも言ったとおり、俺等では竜には敵いませんぜ」

「必須だ」

「あー……」


 ウルは承知しました。という言葉を飲み込んだ。シズクは無言でニコニコしている。それを肯定と勝手に取ったのか、エシェルは会話を続けた。


「天陽騎士団への貢献はそのまま貴様等に対する評価になる。努めろよ!!」

「持てる力を尽くします」


 竜に関わるトラブルが持ち込まれる。というのは予想は出来ていた。シズクの能力に目を付けたのだから、その力を求めるのは当然ではあるだろう。しかし解決を求められると、さてどうなるか。最悪、彼女には内緒でディズの協力が必要になるかもしれない。


「そして貴様の監視は私直々に行うことが決まった」

「エシェル様自身が、ですか?」


 続く言葉に、今度は端で聞いていたリーネが驚いたように口を開いた。


「我々はエシェル様の依頼(クエスト)をいつこなせるかわかりません。その、エシェル様はその間我々の監視を?ずっと?」


 言外にそんなヒマあんのかテメエ、という疑問が漏れ出す問いだったが、エシェルはなんら気にした様子はなく彼女の問いに答えた。


「私は現在、【衛星都市ウーガ】の“都市建設総責任者代行”を請け負いあの都市に滞在している。何ら問題は無い」

「…………なるほど」


 その答えにリーネはなにか考えたそぶりを見せたが、その後は何も言わずに首肯し、引き下がった。エシェルは全員の沈黙をもって、説明責任を果たしたと思い満足したらしい。最後にびしっとウルを指さした。


「私は先に【ウーガ】へと帰還しておく。準備が完了次第貴様等も出立するのだぞ!」


 そう言って、エシェルは用意されていた馬車に乗り込んで颯爽と去っていった。ウルは手を振り見送り、彼女の乗る馬車が見えなくなった後、口を開いた。


「……要は、自分が担当している都市建設のトラブルを解決しろって事か?」

「そういうことでしょうねえ」

『シズクをほしがってたのはこれが理由かの?』


 ウル、シズク、ロックは納得したように、困ったように頷いた。特にウルは、竜の問題とやらを解決しなければ全く納得しそうにない彼女の様子に頭が痛くなっていた。なんとか言いくるめる方法を考えなければいけないかもしれない。

 そしてリーネはというと、ウルとは違う理由で顔を顰めていた。


「……第四位(レーネ)なのに、都市建設?代理……?」

「なんだ、なんかおかしいのか?」

「おかしいでしょ?」


 リーネは首を傾げた。ウル、シズク、ロックも首を傾げた。会話が全くかみ合っていない。冒険者になったとんでもとはいえ、正規の神官であるリーネと、そうでない3人との間に明確な知識の差が存在していた。

 しばらくそうしてから、シズクが手を挙げた。


「申し訳ありません。リーネ様。よろしいでしょうか」

「どうしたの。シズク」

「私、コレまで都市の成り立ちにあまり深く関わってこなかったので、理解が浅いところがあるのですが、一度、騎士や神官の関係を説明していただいてよろしいでしょうか。それに、【天陽騎士】のことも」


 シズクの願いに、リーネはウルの方を見た。ウルも頷く。ウル自身、名無しであったが故に都市の成り立ちに詳しくはない。知識を整理しておく事は必要に思えた。


「そうね。なら簡単に説明しましょうか」


 そう言って彼女がぴっと指さす。その先にいたのは、今は都市の見回りを行なっているのだろうか。大罪都市ラストの紋章を身につけた“騎士達”が巡廻していた。


「まず各都市に存在する【騎士団】。法と秩序、都市そのものの守護者。法を破る犯罪者や、都市そのものを害する魔物達、危険を及ぼしかねない迷宮の排除を主な目的としているわ」


 指さされた騎士達は一度此方を訝しがるような視線を向けたが、此方が会釈をすると肩をすくめて去っていった。


「構成員は【都市民】よ。【名無し】はなれないし【神官】もなれない」

「【神官】もですか?」

「【神殿】の【騎士団】への干渉は【大連盟】の定めた法で禁じられているもの。官位を持ったまま騎士団に入るのは影響が大きすぎる。もし入るなら官位を捨てないといけない」


 そんな酔狂な人はめったに居ないけど。と、リーネは自分のことを棚に上げた。ちなみに彼女は官位を返上していない。別に、名無しと同行することに誰の許可も必要ではないからだ。

 そしてリーネは次に都市の中央にそびえる神殿を指さした。


「次、【神殿】と【神官】」


 今現在の時刻は昼過ぎ。昼食を終えた都市民の多くが神殿へと集まっていく。彼らは神殿にて、昼の祈りを精霊と唯一神(ゼウラディア)に捧げるのだろう。都市民の義務だ。


「【神殿】は太陽神の下に集う政府組織。迷宮の乱立によって崩壊した世界を立て直した神の社。政治を執り、精霊の力で都市を守る都市国の要」

『ほーん……元々いた王様とかはどうなったんかの?』

「迷宮の混乱の最中力を失い、神殿との争いに敗れて、その殆どが“失われた”わ。王権を維持している都市国もあるとは聞いたことがあるけど、ごく少数よ」


 王、貴族の概念は失われ、代わりに【神官】が生まれた。


「【神官】は全ての都市に存在する【神殿】に勤め精霊達と心通わす事が出来る都市の特権者達。精霊様の力をお借りして都市を運営する役割を負った権力者。【生産都市】の運営も任されてる」


 第一位(シンラ)第二位(セイラ)第三位(グラン)第四位(レーネ)第五位(ヌウ)の五つの官位。これは精霊との親和性の差異を表す。親和性は血で引き継がれ、故に官位は姓に与えられる。

 神官達は精霊達から授かった力で都市運営を行う。生産都市による食料生産、水源確保、だがなによりも重要な、都市全体を覆う【太陽神の結界】の維持。

 魔物が跋扈するこの世界でヒトが安全に暮らしていける都市の維持は、彼らの力によって成されていると言っても過言ではない。


「だから、どんな都市でも精霊をないがしろにすることはできない。魔術都市(ラスト)ですらもそうね。魔術は精霊の加護ほど万能ではない」


 迷宮からの魔石の採掘による魔術の発展は著しい。だが、それでも未だ、ヒトは精霊の領域にまったくたどり着いてはいない。【神殿】【神官】の地位と権威が揺らぐのは先になるだろう。


「そして【天陽騎士】。彼らは【神殿】が保有する“武力”よ。騎士団とは根本的に違うの」


 騎士団は都市国に仕える。

 天陽騎士は神殿に仕える。

 神殿と国を同一視する者も多いが、完全に合致はしない。故に、時に騎士団と天陽騎士は敵対することもある。


「【天陽騎士】は【騎士団】とは逆に特殊な場合を除いて全員官位持ち。彼らは天賢王の命の下、神殿の秩序を護る。時に国を跨ぐことだってある。ちなみにディズ様、【勇者】を含めた【七天】もここにあたるわ」

「アイツ、騎士だったのか……」

『なるほどのお……ほんじゃああのお嬢ちゃんはお偉いさんな訳か』

第四位(レーネ)の官位。勿論おえらいさんよ」


 と、そこでロックがカタカタと首を傾ける。


『んで、そんなお嬢ちゃんが都市を建てるのがおかしいのカの?』

「単純に、官位が足りないのよ。普通、都市建設監督は第二位(セイラ)からよ」

「だから代行なんだろ?」


 権限をもつ人間の代行として出る。というのは別におかしいとは思わない。だが、リーネは首を横に振る。


「セイラの代行だからって、都市建設の知識が与えられる訳がないわ。【神殿】の造り、特に精霊様達や唯一神との“交信の間”の建設手段は秘中の秘よ。神官の間どころか、セイラ以上の神官の家でも一子相伝だもの」

「では、エシェル様は?」

「当然、神殿は作れないはずよ。形は作れるかもだけど……そもそも官位を持っていれば天陽騎士にはなれるけど、神官の資格は別よ。しかるべき修行を経ないとなれない。神官でもない天陽騎士に都市建設を代行させる……?」


 再び全員に沈黙が訪れた。

 官位の足りない天陽騎士、建設途中の絶対必須の神殿が建設できない都市で発生している竜災害の解決、判明する情報の数々に明るい要素は一つも存在しなかった。


『ま、アレじゃな』

「何だあれって。肩を叩くな」

『まーた、厄介な奴が増えそうじゃな?カカカ!!』


 ロックの高笑いに、ウルは深々と溜息をついた。

 ロックの言葉が的中しそうな予感で胸が一杯で、胸焼けしそうになった。


「どーしてこうなるかねえ……」

「不思議ですねえ」


 シズクのすっとぼけた態度に、お前が厄介代表だよとツッコミを入れる気力もウルには湧かなかった。

評価 ブックマーク いいねがいただければ大変大きなモチベーションとなります!!

今後の継続力にも直結いたしますのでどうかよろしくお願いします!

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