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不届き者を「どっせい」と投げ飛ばしたら、美貌の宰相様からの溺愛が始まりました!?  作者: 黒星★チーコ
サイドストーリー:アイルトン・セーブルズ視点

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【番外編④】兄の人生も、わりと波乱に満ちている

 ◇



 アイルトンは休暇を早めに切り上げ、王都に戻ることにした。自分は兄やアマリアのようには領地復興に役立てないとわかったからだ。

 それならば騎士団で腕を磨き、少しでも給料を仕送りした方がまだマシというものである。とは言え、彼の給料程度ではなんとかなるレベルではなかったのだが。とりあえず彼は倹約に努めた。他人から奢られる時以外は酒を控えている。


「アイル、今日は俺に奢らせてくれ」


 イアン・キューテックには実家の水害もそうだが、婚約解消の件についていたく同情された。


「辛いだろうが、君にはそんな女は合わなかったんだよ。結婚しなくて良かったのさ」

「それは俺もそう思った」

「え? どういう事だ?」


 酒の勢いも手伝い、アイルトンはついついメリーへの違和感、エミュナに叱り飛ばされた事や、それで元婚約者と自分は相性が悪かったと気づかされたと全てイアンに喋った。


「そうか……そう思えたなら良かったが……その不躾な娘、公爵令嬢の使いだと言ったな? ピンクっぽい髪色の?」

「ああ、そうだが?」

「ぶふっ」


 なぜかイアンは吹き出し、面白そうに笑っている。


「なんだ? 何かあったのか?」

「これは確実な話じゃないんだが……お前、第三隊所属だから城周りの警護がメインだろ?」

「ああ」

「公爵令嬢は第三王子との結婚も秒読みだから登城する機会も多い。今度あの方が登城する時には、注意深く傍仕えの女性を確認することをお勧めする」

「……? はあ、そうか」


 何がそんなに面白いのか。友人の言う事がさっぱりわからないまま、アイルトンはその情報を酒と共に流し込んだ。



 ◇



 意外にも数日後にはイアンの言葉を思い出す機会が訪れた。彼が王城の正面玄関付近の警護にあたっていた時に、グレイフィールド公爵家の馬車がやって来たのだ。


 今までアイルトンは公爵令嬢を遠目からしか見たことがなかったが、馬車から降りた彼女は近くで見ると気圧されそうな迫力を持った女性だった。見た目の華やかさもそうだが、内面の気位の高さが滲むどころか溢れ出ている。髪色は燃え盛る炎を連想させた。

 そしてその迫力で、連れてきている侍女やメイドの存在が霞んで見えるくらいだ。


(あっ!)


 アイルトンはすんでのところで声を呑み込んだ。公爵令嬢に付き従う侍女はピンクブロンドをおとなしめの髪型に結っているが、愛らしい人形のような見た目は間違えようがない。


 しずしずと目を伏せて歩いていたエミュナは、彼の視線に気がついたのかふと目を上げ、そして一瞬……ほんの一瞬だけぎょっと目を見張った。だがすぐにニコリと控えめな微笑みを返して寄越す。

 セーブルズ領での態度とあまりの違いように、アイルトンは再び声を抑え込む必要に迫られた。


「あの()……」


 彼女らの姿が見えなくなってから(ようや)く呟くと、横にいた同僚がアイルトンに小声で話す。


「ああ、公爵令嬢の侍女だろ? あの娘可愛いよなぁー。お淑やかだし!」


 アイルトンは職務中だというのに、もう少しで腹を抱えて笑いだすところだった。



 ◇



『アマリアに卑劣な縁談が来た。断るようにと家族皆で彼女を説得しているが聞き入れそうにない。至急王都の伯爵邸(タウンハウス)を売りに出す為、悪いが今すぐ荷物をまとめて出て欲しい』


 領地に居る兄から届いた手紙の内容にアイルトンは一瞬声を失った。困窮した領地の支援と引き換えに、裕福な中年男性の後添えになれという話がアマリアに来たそうだ。

 生真面目な妹はそれに応じるつもりらしいが、勿論アイルトンも他の家族と同様、そんな話には大反対だった。


『すぐに騎士団の寮に入れるよう手続きする。こちらの使用人は領地に帰すのでいいよな?』


 兄へ返事の手紙を書き終え、余った便箋を見てふとひらめく。


(この際、使えるものは何でも使おう!)


 アイルトンは別の手紙を二通書いた。一通は王城の文官イアン・キューテック宛。妹の縁談を阻止するため、ダメ元で領地に支援をお願いできないか、という事と、セーブルズ伯爵は領地を救うため王都の伯爵邸を売りに出すつもりだが、良い買い手のアテは無いかという相談内容だ。


 もう一通、アイルトンは一旦ペンを置き、少し考えてからニヤリとして手紙を書きだした。


『拝啓 妹の大切な友人様へ セーブルズのガッカリの方の兄よりご挨拶申し上げる――――』



 ◇



「おい、セーブルズ。お前に手紙が来てるぞ」

「ん? 誰からだ?」

「宰相閣下のところの文官だが」


 騎士団での訓練の合間に上司からその手紙を渡され、アイルトンは慌てて封を切る……というか、ほぼ破って中身を取り出した。そして目を通した途端、天を仰ぎガッツポーズをしたのである。


「やった!!」


 周囲の驚きと好奇の目も気にせず、彼は喝采を上げ、なんならぴょんぴょんと跳ねまでした。手紙はイアンからだった。ミシェル・グレイフィールド公爵令嬢が「結婚式に使う王子妃予算を削ってでもセーブルズ領に支援を」と宰相に直談判してくれたお陰で、セーブルズ伯爵領は王家からの支援が正式に決定したと書いてあったのだ。


 アイルトンは女心には疎いが、妹とは長い付き合いだし家族として愛しているからわかる。きっとアマリアは身売りのような縁談を親友には話さないだろうと思った。だからアイルトンはそれを暴露し、彼女の結婚を何とかして阻止してほしい、と三通目の手紙をエミュナに送ったのだ。エミュナはすぐに公爵令嬢にそれを伝えてくれたのだろう。


 伯爵邸も売らずにすんだので、彼は数日間だけの寮生活を終えて屋敷に帰った。使用人も戻ってきている。一通の手紙を彼に差し出した。


「アイルトン坊ちゃま、お手紙が届いております」


 差出人はエミュナだった。アイルトンはそれを自室に持ち帰ると、今度は丁寧に封を切り、中身をそっと取り出す。


『アマリアの頼りになるお兄様へ 親友の窮地をお知らせしてくれてありがとうございました。お陰でミシェル様がなんとかしてくださったわ。 追伸:もうガッカリじゃなくなったわね!』


 可愛らしい文字で書かれた、簡潔ではあるが少々礼儀を欠いており、そして相変わらずストレートな物言い。いかにもエミュナらしいとアイルトンは吹き出した。


「あははは。ガッカリじゃなくなった、か。少し評価アップってところかな?」



 ◇



 そこからのアイルトンは更に騎士団での努力に励んだ。

 領地への仕送りが主な理由だが、他の思惑もある。あの後、更に返信の手紙を送ったが返事は来ず、エミュナとの連絡は途絶えてしまった。元々アイルトンは女性の気を引く手紙など得意ではないのだから、まあこの点は仕方ない。


 それに騎士団の同僚に訊いてみたところ、エミュナはどうも城内の騎士や文官に人気があるようなのだ。普段は淑やかなフリをしていて、あれだけの美少女ならこれまた仕方のないことである。


「でもなあ、俺達じゃ多分彼女の目にも入れて貰えないぜ。どうせ高位貴族の連中にもって行かれるさ」

「わかる。あんなに可愛い上に、王子妃の傍仕えだもんな。隊長や副隊長ならまだしも、一介の騎士如きじゃ勝ち目がないよなあ」


 同僚の話を聞いていたアイルトンは、とても単純な考えに至った。


(よし。じゃあ副隊長を目指してみるか)


 別に本気でエミュナに告白しようと思ったわけではない。そもそも最初に「ガッカリ」と言われている時点で、周りの騎士よりも更に出遅れているのだ。

 ただ、自分は領地経営に向いていないとわかり騎士として生きる道に邁進する事に決めたのだから、どうせなら「出世すればメリットが他にもあれこれあるかも」と思えたらやる気が上がるな、と思った程度である。


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