【番外編・前編】キューテックは日記を綴る
少し長くなったので前後編に分け、両方とも同日に公開します。
なお、普段は紳士な口調のキューテックさんですが、日記ではデロデロの愛妻家を隠さない&素の口調です。
▼月×日 (第1話より前)
今日もサムはウジウジしている。セーブルズさんにハッキリと好意を伝えれば良いものを。
本人に言わせると「ウジウジしてる訳じゃない! もし告白して彼女が迷惑がったらどうする! 上司から部下へのセクハラになる。だから上司として褒めて、ゆっくりと距離を詰めているんだ」ということらしい。どんだけゆっくりだよ。カタツムリか。
あと、それなら城内で密かに拡がる「彼女は宰相の愛人」という噂を放置しておくのは卑怯だろ。
「俺の愛人ということにしておけば悪い虫もつかないだろう」って、それこそセーブルズさんに迷惑じゃないか?
▼月△日 (第1話~第5話)
凄いことになった。いつも塩対応のセーブルズさんをなんとか攻略しようと、俺が口出ししたのも良くなかったと思う。
セーブルズさんをお昼に誘ったら断られ、逃げるように行ってしまった。なんかちょっと不自然な気がしたのでサムの尻を叩いてもう一回声をかけてこい! と送り出した。
帰ってきたサムが言うには、セーブルズさんが強引に男に襲われてその男を投げ飛ばしたと。
信じられなかったがどうやらガチらしい。サムは「彼女はやっぱり素晴らしい」とか言ってるし。
……で、腹黒なサムと俺たちはこれを利用する事にした。
「秘書の女性に対して上司の男性が好意を向けるとセクハラになる恐れがある」わけだから、
「全く知らない女性に対して宰相閣下が好意を向けているならセクハラにならない」という理屈だ。
あくまでも投げ飛ばした女性がセーブルズさんだと気づかない体で愛の告白をして、それで彼女が変わらず塩対応ならどっちみち勝ち目はないだろう。大人しく第三王女殿下の婚約者になればいい。
そう言ったらサムのやつ、ノリノリで「あの声の持ち主は理想の女性だ、女神ラーヴァだ」とか言い出してめちゃくちゃ面白かった。
午後、仕事の合間にアイルトンに事情を聞いたら、セーブルズさんは夜会の事件以降、護身術の練習をしていたとか。彼女が無事でよかったが、やっぱりこれは由々しき問題だろ! 城内で女性が襲われるとか絶対ダメなやつ!! ……という事で、今日はアイルトンの護衛付きでセーブルズさんにさっさと帰って貰った。逆恨みされる前に犯人を見つけなければ。まあ城内の文官だろうからすぐ見つかるだろうけど。
あと、騎士団の見習いにラーヴァみたいな女の子がいたなあと思い出したので、ランチに招待してみる事にした。
ぶっちゃけサムの女の好みって変だよな??? だから、勇ましい女が好みですーってハッキリ言えばセーブルズさんも恥ずかしがらずに正体を明かせるかもしれないし、まあそうでなくても揺さぶりにはなるかな、と。俺もだいぶサムに染まってきて腹が黒くなった気もする。
▼月○日 (第6話~第7話)
朝、別の若手の文官が彼女に気があるそぶりを見せだした。昨日の今日だぞ!? セーブルズさんにモテ期が来たのか!? サムの慌てっぷりが面白すぎて腹が痛かった。
明日のランチの予行演習でテイクアウトをしたんだが、セーブルズさんがあんなに美味しそうに食べてくれるとは思わなくてちょっと意外だった。サムがデレデレしている。お前、バレるぞ。
あとハーゲン地方の洪水が発生した。また忙しくなりそうだなぁ。師匠の力を借りたほうが良いかもと言ったら、丁度明日来てくれるらしい。よかった。
▼月■日 (第8話~第9話)
ラーヴァの化身、まじラーヴァ。めちゃくちゃ面白い子だった!!
彼女と話している間、セーブルズさんが結構動揺していた。でも動揺だけだ。バレたくないというだけかもしれないし、まだサムに勝ち目があるかはわからない。
最後にオーガスタさんを送っていった時にそれとなく握手した時の印象を聞いてみた。「女性の秘書さん、剣かなにかやってます? 手を握った時に結構しっかりした手だったんで」だって。
俺は見てなかったら半信半疑だったけど、やっぱり彼女が男を投げ飛ばしたというのは本当なんだと確信した。
▼月●日 (第9話~第12話)
中庭でセーブルズさんを襲った男の正体がわかって、詰めてきた。
最初はしらばっくれてたけど、「証拠に彼女にどう抵抗されたか言いましょうか?」と言ったら大人しく罪を認めた。そうだよなあ。周りの奴らにそれは知られたくないだろう。
一応未遂なので懲戒といっても何日かの停職処分なんだが、上司や同僚にも事件を知られたんで多分城勤めを辞めると思う。ほっと一安心だ。
でも、サムが一昨日の若手文官をわざわざ呼び出して「セーブルズは伯爵令嬢だから手を出すな」としっかり釘を差してたのはちょっとやり過ぎだと思う。あのブラウン君だっけ? 氷の貴公子に怯えちゃって可哀相に。
その帰りに着飾ったセーブルズさんとばったり出会ったら、サムが壊れかけて面白かった。なんだよあいつ。好意を隠す気あるのか!? まあでも確かにいつもの堅物の姿と違って、彼女が結構綺麗だったのは確かだ。うちの奥さんには負けるけど。
今日、休みなのに登城しなけりゃならなかったから奥さんにはこの事を話した。うちの奥さんは口が堅いので信用できるし。
「あの閣下が!?」とコイバナをめちゃくちゃ楽しんで、もっと聞かせて! と目をキラキラさせている。ああ可愛い。幸せだ。
▼月▲日 (第16話)
遂に壊れかけのサムが完全に壊れた。あいつ、もう隠す気ないだろ!! 面白すぎて呼吸困難になったぞ。
そして多分初めて、セーブルズさんの耳が赤くなった! これは脈ありか!? また奥さんに話すネタができた。
ハーゲン地方の洪水の件、第一弾の報告書が届いたんだが……ちょっとマズいことになりそうだ。師匠に昔の資料の場所を教えて貰っておいて助かった。
後編に続きます。












