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三つの違い



「にゃあ、そろそろうちの出番にゃ」


 十一階の攻略も中盤に差し掛かったところで、声を上げたのは獣人種の少女だった。

 何も居ない通路を素早く見回したティニヤは、鼻先を可愛く持ち上げクンクンと匂いを確かめる。

 そして三角形に突き出した耳をピクピクと動かしたかと思うと、床の一点を勢いよく指差した。

 

「見破ったにゃ! そこにゃ!」


 いきなりの宣言だが、後続の俺たちは無言で頷き合う。

 二匹のスライムが前に進み出たのを確かめたティニヤは、そのまま石畳の床の上を滑るように進む。

 

 指し示した箇所の手前でピタリと止まる少女。

 俺たちが息を潜めて見守る中、そろそろと伸ばされた靴先が四角い石畳の一つに置かれる。

 少女の体重がかかった石の床は、なぜかわずかに下方へ沈み込んだ。

 

 瞬間、ティニヤの体は数歩、後ろに移動していた。

 同時に天井から落ちてくる赤い塊。


 いきなり上から現れた魔物は、赤い炎をまといながら寸前までティニヤが居た場所に着地した。

 そこへ待ち構えていた青スライムが、左右から激しく挟み込む。

 サンドイッチにされた赤スライムは、中身を飛び散らせながらぺしゃんこになった。


「うにゃ、ばっちりにゃー」

「おみごとー!」

「くー!」

「もっともっと褒めてもいいにゃ。称賛が足りないにゃ」

「あっぱれー!」

「くくー!」

「うんうん、その調子にゃ。よきにはからうにゃ」


 駆け寄った獣っ子と鳥っ子にくっつかれたティニヤは、得意げに顎を持ち上げてみせた。

 続いて近づいた俺も、赤スライムの体液などを回収しつつ怪しい石畳に触れてみる。


 指で押すだけでは動かないが、体重をかけてみると一センチほど真下へ押し込むことができる。

 ただし見た目は他の石畳とそっくりで、俺には全く区別がつかない。

 毎度毎度、よく違いを見破れるものだと感心するしかない。


 スライムの種類に続く一階と十一階の二つ目の違い。

 それは罠の出現だった。


 通路の石畳の一つを踏むと、それがスイッチとなって、天井に開いた穴から赤スライムが落ちてくるのだ。

 そう聞くとたいした危険でもないように思えるが、そう甘くはない。


 ただのスライムなら弾んで終わるが、赤いのは燃えながら落ちてきやがるのだ。

 うっかり体の一部に当たっただけで、服や髪に火が燃え移るのはさすがに看過できない。


 罠の石畳は毎回入るたびに場所が変わり、地図に記しても意味がない。

 長い棒で廊下中を突きながら歩いたり、頑丈な盾を傘のようにかぶって進むという手もあるが現実的ではない。


 そこで有能なる斥候士の出番というわけだ。


 ゲームではぶっちゃけると盗賊的な立ち位置の職業だが、盗賊士では意味不明だったせいかこんなネーミングになったようだ。

 特技もゲーム的な盗賊と役割がいっしょで、罠を見つけたりアイテムを盗んだりと、戦闘面ではあまり期待できないが、それ以外では大活躍のジョブである。


 期待の新人であるティニヤのステータスだが、こんな感じだ。


――――――――――――

名前:ティニヤ

種族:獣人種

職業:斥候士(レベル:20)

体力:20/20

魔力:8/8

物理攻撃力:32

物理防御力:28

魔法攻撃力:24

魔法防御力:20

素早さ:58

特技:<感覚鋭敏>、<危険察知>、<看破>、<影歩>、<盗撃>


装備:武器(ダークナイフ)、頭(狼革の帽子)、胴(狼革のマント)、両手(狼革の手袋)、両足(狼革の長靴)

――――――――――――


 体力や攻撃力はそこそこで、他の数値も悪くはない。

 さらに飛び抜けた素早さは、現在レベルが6も差があるヨルやクウたちをあっさりと上回っているほどだ。


 特技については魔物や罠の存在を感じ取る<危険察知>に、その正確な位置を見破る<看破>。

 音もなく移動できる<影歩>に、攻撃を加えつつ何かを盗み取る<盗撃>。

 と、文句なしの有能さである。


 ちなみにもう一人の新人ノエミさんのステータスはこうなっている。


――――――――――――

名前:ノエミ・エローラ

種族:魔人種

職業:従魔士(レベル:20)

体力:16/16

魔力:72/72

物理攻撃力:22

物理防御力:20

魔法攻撃力:51

魔法防御力:24

素早さ:48

特技:<魔性魅了>、<下僕強化>、<魅惑>、<従属>、<解消>


装備:武器(黒革の鞭)、頭(狼革の帽子)、胴(狼革のマント)、両手(狼革の手袋)、両足(狼革の長靴)

――――――――――――


 こっちもパウラよりは下回るが、魔力と魔法攻撃力はずば抜けている。

 現在の使役魔枠は七体で、引き継いだ有能な魔物ばかりである。

 さらに今回、新たに二匹ほど、そこに加えてもらう予定だ。


 ティニヤが次々と罠を見つけてくれたので、残りの探索も危うい場面はなく三十分ほどで終わった。

 まあ、赤スライムも燃えているだけで、後はただのスライムと一緒だしな。


 そしてさほど広くはない十一階の最奥へ、俺たちはとうとうたどり着く。

 鉄格子が下りた階段の前には、大きく真っ赤なスライムが一体。

 さらに取り巻きの普通サイズが四体と。

 艶のある表皮はちょっと熟れたトマトっぽく見えて、なかなか美味そうに思える。


 が、女性陣たちには、それは今はどうでもいいらしい。

 三人の目を釘付けにしていたのは、壁際にある獅子の顔をした彫刻の噴水と、その真下でなみなみと揺れる水面。

 

 一階と十一階の三つ目の大きな違い。

 それは噴水や泉からもうもうと立ち昇る湯気の存在であった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 湯! ヨルとクーの温泉回かー
[一言] 温泉回っ…だと(ガタッ
[良い点] 温泉は強い。
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