微妙な謎解き
階段前のさほど広くない場所に、ずらりと並ぶネズミの顔、顔、顔。
正直、あまり嬉しくない光景である。
「最初が七匹で次は九匹。で、今日は十一匹か。二匹ずつ増えていくのか……」
「恐ろしい話ですね、あなた様」
「ああ、まだなんとかなりそうだけど、そう遠くないうちに不味いことになるのは確実だな」
うろうろと動き回るワーラットもいれば、じっと動かない個体もいる。
奥のほうには、仲よさげにぴったりくっつき合う姿も見えた。
今は多少余裕があるが、このまま増えていけばそのうち階段前はワーラットで埋め尽くされてしまうだろう。
どうにか一掃できたとしても、死骸を取り除くだけで長い時間が必要となりそうである。
「うーん、増加を止めるか数を元に戻すやり方があると思うんだが……」
「そうなのですか?」
「地下迷宮ってのは、基本的に下へ進めるようにできているからな。初見じゃ厳しい罠もあるが、そうそう理不尽な仕掛けは作らないはずだ」
そもそも探索してほしくないのなら、入り口そのものを塞げばいい。
誘い込んで仕留めたいのなら、帰りの階段を律義に残しておく必要もない。
元がゲームだけに必ずクリアできる物であるという考えになってしまうが、これまで迷宮内の仕様からしてそう的外れではないと思う。
まあそうであって欲しいと願う気持ちも、結構入った私見だが。
ドラクロ2は、奇跡のバランスとさえ言われたほどの名作だったからなぁ。
「あー、わかった!」
考え込む俺とパウラの横で、不意にミアが大声を上げた。
さらに両のこぶしをポンと打ち合わるリアクション付きである。
「お、なんか見つけたのか?」
「ほら、みんなネズミじゃん。だからどんどん増えるんだよ、センセ!」
思わず糞大きいため息が出てしまった。
しかしパウラは違ったようだ。
感心したように頷きながら、少女の金色の髪を優しく撫で付ける。
「よく気づきましたね、ミア。素晴らしい着眼点ですよ」
「あっぱれー!」
「くー!」
「え、そこ褒めるとこなのか?」
思わず疑問を漏らした俺に、パウラはにっこりと微笑んだ。
ただしいつもの妖艶な感じはなく、少し頬が染まった乙女チックな表情である。
「その……、ネズミが増える理由をお考えいただければ……」
「なるほど! そういうことですか」
黙って考え込んでいたエタンさんが、急に納得したような声を上げた。
こっちは両方の手のひらをくっつけながらの可愛いリアクション付きである。
え、分かってないの俺だけ……?
疑問符を浮かべる俺に、同じく顔を赤らめたエタンさんが、そっと奥のほうで固まるワーラットを指差す。
「見て下さい、あそこの二匹ですが――」
ドラクロ2のワーラットの元ネタとなった動物は、一部で大人気のハダカデバネズミである。
この体毛が異常に少ないげっ歯目は、哺乳類のくせに変温動物であるらしい。
そのため極度の寒がりで、よくぴったり重なって温め合うとのことだ。
てっきり、それを忠実に再現したものだとばかり……。
って、なんでそんなに激しく腰動かしてんだよ、上のやつ!
「……つがいの最中ですね」
「あれ下のやつ雌なの? って、まさか増えていく理由って!」
ブラブラするのがあんまり見たくなかったので、下半身は熱心に調べなかったのだが、あろうことかそんなところに罠が……。
改めて見ると、雌はその一体だけのようである。
驚きのあまり間抜けに口を開いた俺は、尋ねるようにパウラへ視線を向けた。
もじもじとされて横を向かれた。
ミアへ目を向けると、得意満面で顎を持ち上げ胸を大きく張ってみせる。
その足元に並んだヨルとクウも、鼻を持ち上げてお腹を張ってみせる。
いや、お前らは分かってないだろ。
最後にエタンさんを見ると、照れくさそうに頷かれた。
どうやらあの二匹は交尾の真っ最中で、それがワーラットの数の増加に繋がっている可能性が高いようだ。
よくよく見ると、他の雄どもも順番を待っているかのように思えてくる。
「ええええ、そんな仕組みなの!?」
思いっきり下方面のネタじゃねえか!
真面目に考察しようとしていた俺の立場はどうなるんだよ!
「…………やっちゃってください」
「え?」
「あれ多分ボスですから、さっくり仕留めて下さい」
「わ、わかりました」
床に寝そべってくっつく二体へ、エタンさんがギリギリと弦を強く引き絞る。
「ボスを倒したら、残りを片付けよう。パウラとミアは時間を稼いでくれ。トドメはクウで頼む」
「はい、あなた様」
「まっかせてー、じゃんじゃん燃やしていいんだよね?」
「くううぅう!」
鮮やかな<狙撃>で、頭部を撃ち抜かれて動きが止まる雌のワーラット。
かぶさっていた雄が悲しい鳴き声を放つ。
怒りに満ちた目でいっせいに向かってくる十匹のワーラットへ、火の玉が飛び交い鞭がしなった。
そして情け容赦なく吹き荒れる羽吹雪。
全員が倒れて動かなくなったので、最初に死んだ一体に触れて回収すると、魔石の塊がアイテム一覧に現れた。
やはり、この雌がボスで間違いなかったようだ。
「果たして、こんなオチでよかったのか……」
翌日、七匹に戻ったワーラットたちを前に、俺はやれやれと大きく息を吐いた。
18禁のギリギリを攻めてみました(汗
ブックマークや評価の☆もどんどんねずみ算で増えて欲しい今日このごろです。




